新型コロナウイルス感染症(COVID-19)事態がパンデミック(世界的大流行)レベルで広がる中、マスクなどの不足する防疫物品を生産するため、4年前から止まっている開城(ケソン)工業団地を再稼動すべきという主張が登場し、注目を集めている。大統領府の国民請願掲示板にも「COVID-19防疫装備(マスクなど)の開城工業団地での生産の提案」が今月6日にアップされ、11日現在で1万人以上の同意コメントがついている。
「政府の意志さえあれば1カ月以内に月600万枚以上のマスク生産が可能な工場を稼動できる」と主張する開城工業地区支援財団のキム・ジンヒャン理事長(51)に10日午前、ソウル麻浦区(マポグ)の同財団事務所で会った。
新型コロナの世界的な大流行の解決策
「マスクなどの防疫装備、開城工業団地で生産」
工場1カ所を直ちに稼動すれば月600万枚可能
縫製業者73社で全世界の需要に対応可能
大統領府の国民請願提案に同意続々
「南北当局は決断して米国と国連の説得を」
キム理事長は「開城工業団地には直ちに稼動できるマスク工場が1つと縫製業者が73社あり、このうちの一部を再稼動するだけでも全世界の需要に対応できるCOVID-19防疫物品の生産が可能だ」と口を開いた。
同氏の説明によると、開城工業団地は2016年2月に閉鎖されるまでの14年間に計125社が進出し、5万5千人あまりの北側の労働者と千人あまりの南側の労働者が毎日ともに生産活動に従事していた。このうちマスクメーカーは、1日24時間フル稼働すれば1日当たり20万枚、月に600万枚のマスク生産が可能で、衣類縫製業者73社でマスクや衛生防護服などを作れば、全世界の需要を支えて余りあるという。
現実的に工場の早期稼動が可能かどうかについては「これまで南北共同連絡事務所を通じて管理してきたおかげで、電力、通信、工業用水、廃水最終処理場などの工業団地の基盤施設の稼動に問題はない。各業者別に設備点検などを行って状況を見なければならないが、衣類縫製業者のミシンを手入れするのに長い時間はかからないだろうと予想される。北朝鮮の熟練労働者も70~80%は直ちに投入が可能だろう。政府が役割を分担して同時多発的に進めれば、遅くても1カ月以内に開城工業団地の衣類縫製業者の再稼働が可能だろう」との見通しを示した。
最大の懸案である米国と国連安保理の制裁措置については「開城工業団地の再開問題は、米国や国連安保理よりも南北当局の意志の方が重要だ。COVID-19の世界的大流行により、米国など世界各国でマスクや防護服などの防疫装備が不足し困難を抱えている状況を考えると、政府が意志を持って進めれば、米国、国連安保理、世界保健機関(WHO)など国際社会に制裁例外措置を要求して説得できるだろう」と付け加えた。
北朝鮮の反応をどう予想するかとの質問にキム理事長は「北朝鮮が金剛山観光を独自に開発すると明らかにし、金剛山観光再開は事実上後戻りできない状況になり、もう残るは開城工業団地しかない。韓国が積極的に出れば北朝鮮が応えるだろう」と自信を示した。その根拠として同氏は「2018年の9・19平壌(ピョンヤン)宣言当時、南北首脳は開城工業団地の正常化に合意しており、北朝鮮の2019年の新年あいさつでも前提条件や対価なしに開城工業団地を再開しようと表明している。北朝鮮は以前から南北関係は南北のみで解決しようという原則を持っているため、韓国が提案すれば渋々応じるふりをして実務交渉に出てくるだろう」と述べた。
同氏は、一部から提起される北朝鮮のCOVID-19大規模感染疑惑については、「違ったら違ったでよいという程度の想像に過ぎない。北朝鮮が境界地域を完全に遮断し、積極的に防疫管理を行っている上、経済システムが相互に連携せず、自己完結性を持った構造により地域間の移動がほとんどないので、たとえ一部が突破されたとしても、全国に拡散することはないだろう」との見通しを示した。
キム理事長は開城工業団地を再開すべき理由として「14年間、開城工業団地で感じてきた体験的確信」とし「工業団地が正常に稼動していた時、平和的経済的付加価値が創出され、日々小さな平和と統一が実現する奇跡の空間だった」と述べた。一部から挙がった「一方的な支援」批判については「開城工業団地は北朝鮮に与える所ではなく、北朝鮮からもらってくる所」と断言した。
同氏は2008年2月以降、開城工業地区管理委員会の企業資源部長を務め、開城工業団地で約4年間勤務した。文在寅(ムン・ジェイン)政権発足後は、閉鎖された開城工業地区管理委員会の委員長と財団の理事長を務めている。
キム理事長は「朴槿恵(パク・クネ)政権による開城工業団地の閉鎖は、国際社会が北朝鮮を制裁するように仕向けるため、先制的に取った制裁処置。結局は北朝鮮制裁ではなく韓国の企業を制裁する結果をもたらした明白な政策の失敗で、開城工業団地がやっていた役割は代わりに中国企業がやっている」と述べた。
「唐突に聞こえるかもしれないが、決して寝言や妄想ではない。政府当局者は、机上で観念的に現実の整合性を問うだけでなく、危機を機会ととらえてCOVID-19を克服するとともに、南北関係の修復にも積極的に取り組むべき。朴槿恵政権の失策をそのままにしておくことは、政策失敗の延長に過ぎない」。
キム理事長は先月11日に開城工業団地稼動中断4周年を迎え、「開城工業団地再開要求大会」を開き、開城工業団地再開の条件と環境作りに向けた開城工業地区支援財団と北朝鮮の中央特区開発指導総局との実務協議を公式に提案した。両機関は南北の「開城工業地区法」が定めた開城工業団地の管理・運営の責任機関だ。