中国で危機が発生するだろうという話があちこちで聞こえてくる。理由は二つだ。一つは1人当たりの国民所得(GNI)が1万ドルを超える際、新興国で危機が頻繁に発生したという点だ。この時が高度成長が終わり、中間段階の成長へと移行する時期だが、高い成長に隠れていた不良要因が明らかになり、危機へと発展するケースが多いということだ。今、中国がその時点に来ている。
もう一つは負債だ。2008年には4兆ドルだった中国の企業負債規模が、昨年には19兆8千万ドルと5倍近く増えた。危険水位に達したのは明らかだ。2017年の対国内総生産(GDP)比256%だった中国の負債比率が、2022年には290%になるという国際通貨基金(IMF)の見通しも同じ脈絡だ。このように増えた負債が効率的に使われたなら問題はないはずだが、それではないため、危険が増大したとみられている。
中国の負債の増加と金融の不備は今に始まった問題ではない。内容も変わり続け、最初は不良債権が主に議論されていたが、ある時点から「影の金融システム」(Shadow Banking System)に焦点が移った。不良化の懸念が絶えず提起されてきたため、中国政府も手をこまねいてはいなかった。不良債権を減らすための対策に乗り出しており、ある程度効果が出ている。
中国のように急速に成長する国において、GDPに比べて負債比率が上がるのは当たり前だ。投資をはじめ資金需要が多い反面、備蓄しておいた資金はないため、その差額を借金で解決しなければならないからだ。そのため、負債比率と共に該当指標が急上昇しているかどうかを調べなければならない。短期間で高騰する場合、負債への対応能力が低下し、問題が発生しかねないからだ。一般的にGDPに対する負債比率が長期的流れより10%以上高ければ危険だという。2015年に中国のこの数値が20%を上回ったこともあったが、その後下落し続け、今は10%前後まで下がった。依然として高いものの、正常値に近づいており、状況は悪くない。中国の主要銀行の大株主が政府であるため、政策的支援を受けられるうえ、社会主義経済の強い統制力まで考慮すれば、相当な危機防御力を持っているものと見られる。
危機が発生するのには、人々が危機に鈍感になっているという前提がある。政府も危機の可能性を念頭に置かないケースだ。そうではなく、危機を心配すればこれを防ぐための措置が続けられ、発生が先送りされるか、発生しない可能性もある。危機は異常な状況だ。非常に稀なケースであるため、これを仮定して戦略を練るのは適切でない。危機が発生しなかった場合に生じる問題が、危機が発生した場合に生じる問題ほど深刻だからだ。
我々はウォール街の目で中国を見ている。だからこそ、中国に対する判断のふり幅が大きい。10年前にウォール街では、中国が2020年に世界最大の経済国家になると言われていた。今は危機が発生するかもしれないという噂が流れている。10年の間にこんなに判断が変わるものか、不思議なくらいだ。