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民主化以降…韓国の民主主義は退行したのか

登録:2022-03-12 03:56 修正:2022-03-12 09:24
米国の政治学者ステファン・ハガードの論文 
「韓国は民主主義の退行に脆弱なのか」 
 
V-Dem指数とフリーダムハウス指数で 
1988年以降の韓国の民主主義を分析 
保守政権の逸脱は明白だが… 
政治的権利や市民の自由の退行は微々たるもの
/聯合ニュース

 1987年の6月抗争がもたらした88年の平和的な政権交代以降、韓国の民主主義はどのように歩んできたのだろうか。進歩したのだろうか、それとも退行したのだろうか。退行したとしたら、どの政権で、なぜそうなったのか。文在寅(ムン・ジェイン)政権は多くの横暴で民主主義を退行させたのだろうか。

 文在寅政権の発足後、とみに増えたこのような問いに対し、代表的な民主主義指数は、韓国の民主主義は平和的な政権交代以降、若干の浮き沈みはあったものの、概ね着実に発展してきたと答える。また、韓国の民主主義の水準は、欧州や米国と同程度か、一部の分野ではそれを越えていると評価する。

 こうした評価は、東アジア諸国の政治の発展に関する研究で名声を博する米国の政治学者、ステファン・ハガード(カリフォルニア大学サンディエゴ校教授、写真)が、1月にワシントンのシンクタンク「韓国経済研究所(KEI)」で発表した「韓国は民主主義の退行に脆弱か」と題する論文で、代表的な民主主義指数を用いて導き出したもの。ハガード教授は、国際社会において民主主義を評価する代表的な指数であるV-Dem(ブイデム)指数とフリーダムハウス指数によって、韓国の平和的な政権交代時期である1988年からこれまでを比較評価した。

 V-Dem指数は、スウェーデンのヨーテボリ大学V-Dem研究所が年ごとに各国の選挙、自由、平等、参加、熟議民主主義の水準を測定して導き出している。ハガード教授はこの中で、選挙および自由民主主義指数を議論の出発点とした。選挙および自由民主主義指数は盧泰愚(ノ・テウ)政権以降、急激に向上したが、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政権で下落し、文在寅政権で以前の水準以上に回復していた(グラフ1)。

 選挙民主主義指数は、民主主義の基本たる自由で公正な選挙が実施されているかを示しており、自由民主主義指数は、選挙制度の整合性だけでなく、法治、権利保護、行政府に対する水平的牽制などの要素が反映される。産業が発達した先進国ほど、選挙民主主義指数の方が自由民主主義指数より高いが、両指数は非常に大きな相関関係を示す。

 両指数は、李明博・朴槿恵政権での国情院の選挙介入、芸術家ブラックリスト事態、セヌリ党国会議員候補の公認に対する朴槿恵前大統領の介入などで、「一触即発の退行」を示した。しかし文在寅政権の成立後、以前の最高値だった盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代の水準を回復し、それを上回った。実質的に米国と欧州連合(EU)の水準を超えている。

 具体的な政治的権利および市民的自由の保護においても、似たような様相を呈した。米フリーダムハウスの政治的権利および市民的自由指数がそれだ。これらの指数は表現、集会、言論の自由などにもとづいている。

 韓国はこの指数の評価において、1988年の民主主義への移行後、いわゆる「自由」国家の範囲内へとうまく定着してきた。この指数の推移も同様に、朴槿恵政権において極めて小幅に下落しているが、文在寅政権になって回復している(グラフ2)。

 文在寅政権の成立後に最も批判されることが多いのが、帝王的大統領制と権力分立の問題だ。韓国の政治体制での帝王的大統領制は長きにわたり論議の種となっているうえ、文在寅政権の成立後に与党が議会で圧倒的多数の議席を占めたためだ。しかしV-Dem指数の権力分立指数は、韓国の三権分立が正常に作動していることを示している(図3)。

 平和的な政権交代以降、司法府の権力が強化され、議会もそれに続いた。三権分立は金大中(キム・デジュン)政権時代にすでにEUの水準に近づいており、米国の水準にはわずかに及んでいない。三権分立は李明博・朴槿恵政権時代に悪化したが、議会の独立は朴槿恵政権末期により強化された。朴槿恵政権の失政に対する議会の牽制と弾劾による結果だ。全般的な民主主義指数と同様に、権力分立などの水平的牽制において、韓国の水準はEUや米国をも凌ぐ。

 ハガード教授が韓国の民主主義の退行の有無を分析したきっかけは、米国でのドナルド・トランプ前大統領の登場以降、先進国において民主主義の退行(backsliding)に対する懸念が高まっているからだ。トランプとその支持層による米国の民主主義への挑戦、EU脱退をめぐる英国の分裂、欧州大陸における新たな極右政党の台頭など、先進国のみならずポーランド、ハンガリー、トルコ、ブラジル、フィリピンなどでの権威主義政権の出現は、学界の内外で民主主義の「退行」についての議論を加速させた。

 韓国におけるこうした民主主義の退行についての懸念と論議は、民主的価値が実質的に下落した李明博・朴槿恵時代よりも文在寅政権になって多くなった。文在寅政権の与党が圧倒的多数を占めた後に起こった事態は、これをさらに促した。政権与党の検察改革と高位公職者犯罪捜査処(公捜処)立法の試み、この過程で浮き彫りになったチョ・グク元長官問題、これをめぐって分裂した民意と対立について、保守勢力は民主主義の退行だと主張した。過去に進歩派のカラーを示していたチェ・ジャンジプ教授も、この時期を前後する2020年に「改めて韓国の民主主義を考える:危機と代案」と題する論文で「多数の専制主義」という立場から事態を分析している。

 ハガード教授は、より大きなレンズを通して見れば、韓国における民主的規範からの逸脱は保守政権においてより明白だったものの、政治的権利や市民的自由の側面から見れば微々たる水準だったと結論付ける。さらに、このような退行と逸脱も、究極的には牽制されたと診断する。同氏は、帝王的大統領という韓国の大統領権力を市民社会が牽制しただけでなく、議会と司法府が制度的基準を提供したと評価した。同氏は「民主主義には監視が必要だが、韓国は成功した新たな民主主義として名声を得るに値する」と称賛した。

チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/religion/1034433.html韓国語原文入力:2022-03-11 04:59
訳D.K
1.韓国の選挙民主主義指数と自由民主主義指数(V-Dem)。2.韓国の民主主義指数(フリーダムハウス)。3.韓国の権力分立指数(V-Dem)//ハンギョレ新聞社

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