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[寄稿]検察改革と韓国の民主主義

登録:2020-12-09 06:33 修正:2020-12-10 19:01
シン・ジヌクㅣ中央大学社会学科教授

 今私たちは韓国の民主主義と法治を守るべき法務部長官と検察総長が対決する光景を目撃している。どの権力の牽制をより重要視するのかによって、これに関する意見も分かれるだろう。しかし、多くの人はおそらく混乱しているに違いない。なぜなら、今回の事態は昨年のチョ・グク前法務部長官をめぐる波紋同様、単なる善悪の構図ではなく、様々な矛盾した側面を持っているからだ。

 1987年の民主化で、韓国は選挙民主主義、競争民主主義、多数決民主主義という低いレベルの民主主義を手に入れた。しかし、高いレベルの民主主義は簡単には実現しなかった。民主主義の具現は、単に選挙と多数決だけでなく、市民の包括的基本権と、選挙で選ばれた者の権力の牽制、選挙を経ていない者の権力の政治的公正性が保障されて初めて可能になる。この「第二の民主革命」が未完の課題として残された。

 現在収監されている李明博(イ・ミョンバク)元大統領と朴槿恵(パク・クネ)前大統領が政権を担った9年間は、独裁ほど暴力的ではなかったが、それよりもっと難解な「欠陥民主主義」の深刻な問題点を露呈した時期だった。為政者は民主主義と法治主義を堂々と破壊する代わりに、“国民”の名で政治権力を乱用し、検察や国家情報院、監査院など国家機関の権力を“法”の名で乱用した。

 その中で、検察の権力が絶頂に達したの李明博政権時代だった。独裁時代には軍と情報機関が拷問と虐殺のような残酷な暴力を行使したが、民主化時代の検察は政権の反対者を犯罪者にして嘲弄の的にしたり、平凡な市民を法廷に立たせて脅すなど、法治の仮面をかぶった新しい支配技術を駆使した。

 長かったその時代は劇的に終結した。述べ1千万人を超える市民が参加したろうそく集会、80%に達した弾劾賛成世論、憲法裁判所の大統領の罷免はもはやあまりにも明らかな方式で、李明博・朴槿恵政権の偽りの民主主義が韓国社会で許されないというメッセージを歴史に刻んだ。選挙を通して与えられた権力も、選挙を通さず生まれた権力も、法と民心の下に置かれなければならない。それが弾劾の教訓だ。

 このような過程を経て誕生した文在寅(ムン・ジェイン)政権の召命は、いかなる権力も法と国民の上に立って傲慢になれない民主主義を定着させることだった。それに向けた重大な課題の一つが検察改革、すなわち検察が法の守護者である前に自ら法の下に置かれるようにする改革だとすれば、もう一つの課題は、文在寅政権と与党の共に民主党自らが国民に与えられた権力を自制と寛容をもって行使することだった。

 しかし、文在寅政権が二つの課題を同時に実現するには、二つの難点があった。一つ目は、文在寅政権が前政権による民主主義の毀損を明らかにするため、検察の力を借りすぎたという逆説だ。検察は弾劾と「積弊清算」の過程で活躍し、地位を高めただけでなく、正義の守護者に生まれ変わる政治的資産まで得た。

 二つ目の難点は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の検察改革とコインの裏表の関係にある。盧武鉉元大統領は検察の刀を奪う代わりに、統治権者も自分の刀を抜かないことで、検察を改革しようとした。しかし、彼は一般検事たちにさえ嘲笑の的になり、退任後は検察権力の犠牲者になった。一方、文在寅政権は、選挙を通して与えられた権力の正当な権限を最大限に動員して、改革を実現しようとした。問題は“正当な”権限と“最大限”の権限の間の空間は非常に狭いということだ。

 長年の既得権を守ろうとする検察の攻勢を振り切って改革を成し遂げるためには、できるだけ多くの権限を動員しなければならない。しかし、多数の国民が正当な権限と判断する線を超えた場合は、ろうそく集会の精神を裏切った政権として記憶されるだろう。検察改革と政権の正当性のうちどっちを選ぶのか、それともいずれも追い求めるのか。

 最悪のシナリオは、検察総長が大統領と真っ向対決する構図が形成され、検察総長が正義の殉教者となって、文在寅政権はろうそく集会の精神を裏切った傲慢な権力になることだ。最善のシナリオは選挙を通して与えられた権力の包容と自制の姿勢を貫きながら、選挙を通さず生まれた権力の民主化を同時に達成する道だ。

 したがって、現在の状況は、単に検察改革の問題ではない。それよりも広い意味で、韓国の民主主義をより高い水準に発展させる改革の過程の一軸として検察改革を位置づけなければならない。これまでが「刀と刀がぶつかる対決のプロセス」だったなら、これからは柔軟だが強い民主的政治力の新しいプロセスが開始されなければならない。

//ハンギョレ新聞社
シン・ジヌクㅣ中央大学社会学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/973272.html韓国語原文入力:2020-12-08 18:42
訳H.J

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