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[寄稿]台湾にはあって韓国にはないもの

登録:2021-12-29 11:33 修正:2022-01-11 08:11
イ・ジンスン|財団法人ワグル理事長 

ろうそくデモ後も、部屋だけが変わったまま感動のない大統領選競争を眺めなければならないのは、市民社会が十分対応できなかった過ちも大きい。主権者が取り返さねばならなかった権力を、あまりにも多く政界に委任しすぎた。2021年冬、絶望する前に私たちはまだやるべきことが多い。
2016年の最後の日、ソウル光化門広場を埋め尽くしたろうそく市民たち。5年前に大統領を権力の座から引きずり下ろしたろうそくデモは、革命を成し遂げられなかった=イ・ジョンウ先任記者//ハンギョレ新聞社

 「革命は成らず、私は部屋だけを変えてしまった/あの部屋の壁には、闘え、闘え、闘えという言葉が/戯言のようにいまも闇をとどめているだろう」(金洙暎『あの部屋を思いながら』より)

 憂鬱なこの冬、私は部屋だけが変わった闇の中で4・19革命の挫折を嘆いた金洙暎(キム・スヨン)の詩を思い出している。4・19は革命を成し遂げられなかった。民主党の張勉(チャン・ミョン)内閣は革命を執行するよりも収拾に没頭し、生ぬるい改革と相次ぐ失政で民衆の支持を失った。失望して怒った国民は、型破りの「朴正煕(パク・チョンヒ)クーデター勢力」を新たな救援投手として歓迎する境地に至った。クーデター直後、知識人を代弁した雑誌「思想界」や、ソウル大学学生会ですら、朴正煕軍部を「旧悪を根絶する」「革命政府」として歓迎し支持したのは、4・19の限界を如実に表している。

 李承晩(イ・スンマン)の下野後に正しい道を見出せなかった4・19の前轍を踏んだのだろうか。5年前、不義の大統領を権力の座から引きずり下ろしたろうそくは、ついに革命を成し遂げられなかった。このような点で、韓国と近い時期に出発したが早い速度で改革を制度化している台湾の事例は、私たちにはっと目を覚まさせる契機を提供してくれる。今年2月、「エコノミスト」が発表した「2020民主主義指数」報告書で、台湾は11位となり、日本(21位)と韓国(23位)を抜いてアジア国家の中でトップとなった。

 台湾は長い間、国民党の権威主義的統治を受けてきた。1996年に初めて総統直選制が導入され、2000年に民進党への初の政権交代が実現した。民進党政府は2003年に国民投票法を制定したが、国民投票が台湾独立の法的手続きに利用されることを懸念した中国の露骨な脅しと、国民党の頑強な反対で、多くを妥協して可決させた折衷案だった。

 2016年に民進党の蔡英文総統が当選した後、ひまわり運動の主役である学生と市民は「国民に権力を返してほしい」と主張し、国民投票のハードルを下げるための改正作業に総力を傾けた。2018年に可決された国民投票法改正案は、選挙年齢を20歳から18歳に下げ、国民発案のための署名人数を有権者の5%から1.5%に大幅に下方修正した。「50%投票、50%賛成」となれば可決という条件から、賛成が反対より多く、その割合が全体有権者の25%以上なら可決できるように条件も緩和した。2018年「ワシントンポスト」に掲載されたコラム「台湾は民主主義を革命的に変化させている」で、蘇彦図(Yen-Tu Su)教授は「民主的自治に対する市民の直接的な役割を制限してきた鳥かごを破った」と国民投票法改正の意味を高く評価した。

 2018年の台湾での住民投票には、同性婚や脱原発政策をはじめ10件の提案が付された。このうち、民進党政府が推進していた「2025年までに原発完全廃止のための法案」は否決された。これを巡り、韓国の保守メディアでは、台湾の脱原発政策が暗礁に乗り上げたと大々的に報じたが、これは事実ではない。国民投票案件のうち「石炭火力発電所建設中止」と「毎年1%生産量削減」案は可決され、「2025年までに」脱原発を完了するという電気法改正案だけが否決されたのだ。

 昨年12月18日、台湾の主要政策についての国民投票が再び行われた。4件の提案いずれも蔡英文政権に軍配が上がる結果が出た。その中には野党国民党が取り上げた「龍門原発建設再開」案もあった。龍門原発1、2号機はそれぞれ98%と91%まで工程が進捗したにもかかわらず、国民は建設再開に反対して脱原発を支持した。

 国民投票は、時には改革政策に逆行する結果を出すこともあり、政略的に利用されることもある。しかし、台湾市民は短期的な勝敗にこだわらず、主要な政策を直接検討し、決定権を行使できるように法律を改正し、主権の範囲を広げた。国民投票を通じて職業政治家と専門家、産業的利害当事者の野合とロビーで塞がれていた改革の扉が開かれ、国民はより賢明な判断のための情報と討論により多く接することになる。そうして民主主義は進化する。

 韓国は1987年の改憲以降、一度も国民投票を行ったことがない。現行の国民投票法では、投票権者の年齢は依然として19歳であり、在外国民の投票も認められていない。憲法裁判所が2014年に憲法不合致決定を下したが、国民投票法はいまだに権威主義時代の姿そのままに、20世紀の遺物のように残っている。ろうそくデモ後も、部屋だけが変わったまま感動のない大統領選競争を目にしなければならないのは、市民社会が十分対応できなかった過ちも大きい。主権者が取り返さねばならなかった権力を、あまりにも多く政界に委任しすぎた。2021年冬、絶望する前に私たちはまだやるべきことが多い。

イ・ジンスン|財団法人ワグル理事長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1025080.html韓国語原文入力:2021-12-29 02:32
訳C.M

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