「民族は想像の共同体」の主唱者
最近タイ問題・華僑のアイデンティティ研究
災害が近づいても、国家は何もしない
アジア人の連帯、未来志向的
タイのクーデターで市民権の概念消える
脱北者への差別・排除問題も振り返るべき
民族は近代以降、政治的必要に応じて構成された「想像の共同体」であるとする命題で有名なベネディクト・アンダーソン米国コーネル大学国際学科名誉教授が韓国を訪問した。 『想像の共同体』(1983)、『言葉と権力』(1990)『三つの旗のもとに』(2005)などの著作があり、最近はタイの問題と華僑のアイデンティティを研究している。世界的な歴史学者のペリー・アンダーソンは、彼の実の弟である。今月6日午後、聖公会大学でぺク・ウォンダム聖公会大学東アジア研究所長(中語中文学科教授・「黄海文化」編集委員)と対談を行った。通訳はキム・ソンギョン慶南大学北朝鮮大学院教授が担当した。この対談の全文は季刊「黄海文化」夏号に掲載される。
ペク・ウォンダム(以下、ぺク) 先週の金曜日、光州(クァンジュ)で開かれた国立アジア文化殿堂ビジョンフォーラムで「後期ナショナリズム、国家、市民権、移住などに関する省察」というテーマで基調発表をなさいましたね。アジアで民族解放運動の理念として形成されてきた「民衆ナショナリズム(popular nationalism)」と、欧州発の「公定ナショナリズム(official nationalism)」が結合された後期ナショナリズムをアジアの普遍的現象として捉えた部分が、特に興味深かったです。要するに、日本で軍国主義的に訓練された若い将校たちが、インドとスリランカ、パキスタン、フィリピン、インドネシアなどアジアの多くの国で政権を握って、彼らが長期執権の野望などで暗殺されたり処刑された後、その娘や妻たちが再び通常選挙制で権力を掌握する、ヨーロッパとは全く異な権力のモデルが見られるとおっしゃいました。 「多くの場合、自力で成功した市民というよりは「姫」と言えるだろう。彼女らは付いた首相や大統領のような座は全く君主制的なものではなく、近代的であり、ある面ではナショナリズムの影響を受けていた。彼女らのほとんどは、自分たちの夫や父親の記憶に支えられて選挙で勝った」。このようなアジア的権力継承のモデルは、ほかでもなく、今この地にも現れていますが。
ベネディクト・アンダーソン(以下アンダーソン) 韓国の問題も興味深いです。私の知る限りでは、韓国の若い男性は、頑固なことで知られているようですね。もしかしたら、男性には愛国主義的なの面があるかもしれません。国が実際良くないこともたくさん行うじゃありませんか。悪いこともたくさんするのに対して、恥に基づいたナショナリズムが重要だと考えています。子供は、お母さんが何かを盗むのを見たら、恥ずかく思うけど、かといって縁を切るわけにはいかないのではありませんか。国がそのようなものだということです。自分の国が本当に悪いことをしたと認めながらも、絶縁はできないから、国がよくなるといいなと思う気持ちといいますか。特に東南アジアのような場合は、民族主義者の第1世代、例えば、英国の植民地によって長い間投獄されていた、彼らは悪いこともたくさんしたけれど、国を作った人(founder)だから、そのようなところがあります。そして、なぜ女性なのかというと、後に、彼らは死んでしまうじゃないですか、誰かかに殴られて死んだり、暗殺されたり。このような経験をしながら、女性としてとても大きな苦痛を味わうので、人々に何かしてあげなければと思わせる一種の同情(sympathy)みたいなものがあるようです。このような姿は、ヨーロッパで現れるモデルではありません。そのような背景がアジア全体に存在するのではないかと思います。
ペク 今日、アジアでは、あまりにも多くの移動が新たに起こっています。その内部では、差別と排除が作動しています。新しい人種主義が東南アジア人や中国と中央アジアなどの海外同胞、脱北者などに向けられており、国家間の文化ヒエラルキーも確認できます。資本におけるヒエラルキーは最も本質的な問題でしょう。そこで最も注目されるのは中国の台頭です。今年はインドネシアのバンドンで行った非同盟平和宣言60周年でもあります。ジョヴァンニ・アリギは、ワシントン・コンセンサスに対抗した北京コンセンサスの勝利から、新しい多元平等なバンドンモデルの可能性を提起しました。このような関係の歴史的現象をどのように認識すべきでしょうか?これは、人類の進歩の未来志向を判断する問題でもあります。
アンダーソン 難しい質問ですね。中国の態度が(これまでとは)文脈が違うともいわれますが、実際には既存の帝国主義諸国、米国や英国、フランスから学んだ態度を持っているからです。人々の間で真の連盟や同盟が生まれると確かに言えるのは、今、アジアの自然災害に関してかもしれません。フィリピンを襲った台風とかですね。中国の鉱山で埋没される鉱山労働者の数が数千人に達します。そのような状況で、国家は何もしていないのに、人々の間でアジア的に連帯が行われています。このような部分で若干の兆しが見られるのではないかと思います。
ペク 今年で分断70年を迎える韓国という場所で、今日(6日聖公会大学講演)、タイの支配勢力を成してきた中国系が自ら中国人とも呼ばず、アイデンティティを表出しない「海外華僑のアイデンティティの逆説」をおっしゃった意図が何だったのか、うかがわなければなりません。昨年、中国の清華大学でもこのテーマで講演をなさいましたよね。
アンダーソン 東南アジアにずっと興味を持って長い間研究をしてきた学者として、タイで起きていることに胸が痛みます。 10カ月前に起きたクーデターがとても暴圧的で、民主主義ではない方法で進められています。そして市民、市民権のようなものはすべて消えてしまいました。これをどういうふうに捉えたらいいのか、未来はどうなるのか。だから、タイの中国人が影響力を持っているにもかかわらず、軍事的な力がなくて前に出られない状況について説明しようとしたのです。フィリピン、インドネシアおよび韓国のように、軍事独裁を経験した多くの国が一体どのように生きていくべきか、どのように行動すべきかが分からず、困っていると思います。なお、韓国的状況と関連してはドイツの状況を事例に挙げましょう。まだ東ドイツ出身の人々は、自分たちが不当に扱われていると思っています。私が思うには、これは南北間にも有効な問題ではないしょうか。このようなことが、北朝鮮の人々が経験するかもしれない問題であるような気がしました。私のドイツの友人の話を紹介すると、このような激変期、体制の変換時期のような場合は、犯罪組織にとって良い時期でもあります。東ドイツと西ドイツでもそのような経験がありましたが、もしかしたら南北がある状況に直面した時、そのような問題が発生するかもしれないと思いました。
ペク 貴重なお時間いただきましてありがとうございました。
録音・整理/ホン・ウォンギ聖公会大学東アジア研究所研究助手
韓国語原文入力: :2015-04-08 20:03