去る5月13日に北朝鮮が新型コロナウイルスの感染者の発生を初めて公式発表してから、13日でちょうど1カ月たった。各種メディアが先を争って報じた北朝鮮のコロナ報道の熱気はいつの間にか冷め、今は北朝鮮が核実験を行うかどうかが主要ニュースとなり、朝鮮半島の軍事的緊張が高まりつつある。ワクチンもなく保護装具もない中、一時は一日の有熱者(発熱者)が40万人にまで膨れ上がった北朝鮮で、コロナ感染は北朝鮮の主張どおりにうまく統制されているのだろうか。
6月10日現在、北朝鮮当局が公式発表した新型コロナウイルス感染症の有熱者(発熱者)は、累計で434万9900人にのぼる。北朝鮮は、そのうち421万5850人が全快し、13万4050人が隔離および治療を受けており、一日の感染者数も4万人台にまで減っていると発表した。特に注目すべき事項は死者数で、たったの71人にすぎない。初めての公式発表直後の5月14日に21人の死者が出ており、5月16日は8人、続いて17日と18日はそれぞれ6人だったものの、5月19日以降6月4日までは死者数は一日に1~2人にとどまった。6月5日以降はまったく死者が出ていない。この数値をそのまま信じるなら、劣悪な医療環境にもかかわらず北朝鮮のコロナ致命率は0.002%という計算になる。これはどの国でも見られない「奇跡」に近い防疫成果だ。
北朝鮮の保健医療に詳しい漢陽大学医学部のシン・ヨンジョン教授は、12日の本紙とのインタビューで、北朝鮮当局が公式発表した71人という死者数は到底信じられない数値だと断言し、実際の死者数は少なくとも5万人ほどになると推計した。
まず同氏は、北朝鮮当局が発表した434万人という有熱者数は、発熱症状が見られたことで確認された人のみの数であり、実際の感染者数は少なくともその2倍に当たる800万人にはなるとみている。なぜなら、普通は不顕性感染(無症状感染)が20~40%存在するうえ、発見されなかったため集計されていない人を考慮すれば、低く見積もっても800万人にはなるという推定だ。さらにコロナの致命率は国ごと、時期ごとに偏差があるものの、オミクロン株の致命率は未接種時で0.6%、接種時で0.07%ほどであることが知られている。0.6%という致命率を感染者数800万人に代入すると、死者数はおよそ5万人(4万8000人)に達する。シン教授は、これらの死者は概して北朝鮮の高齢者や基礎疾患のある人であると推測され、彼らの死の相当数が公開されていない「静かな死」であろうと述べた。
シン教授は、北朝鮮当局が発表した71人という死者数は、「任意で出たものというより、おそらくPCR検査を受けた人の中の死者数だろう」と判断した。北朝鮮当局は1日当たり120件ほどのPCR検査を行っていると発表しているが、この検査を受けた人の中の死者数である可能性が高いということだ。
シン教授は「北朝鮮のコロナ感染者数は、北朝鮮当局の発表どおりだとしても全人口の16%ほどに達する。実際の感染者数は、6月10日現在の数字をもとに2倍と計算して、およそ800万人だと考えているが、これは全人口の30%に達する数字」だとし、「これほどの感染者数が出ていれば、コロナの伝播速度は鈍化せざるを得ない」と述べた。このところ一日の感染確認数が4万人台にまで減っているのもそのためだと考えているという。
韓国政府の対応について、シン教授は「人道的観点から防疫物品、診断装備、ワクチンと共に、食糧も条件を付けずに緊急支援すべき」だと強調した。北朝鮮は悪条件の中であらゆる手立てを尽くしているとみられるが、コロナ禍に食糧難まで重なっていることで、90年代の「苦難の行軍(数十万人の餓死者を出した深刻な経済難)」よりも状況が劣悪だからだ。同氏は特に強調して「尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が自らの口で無条件で支援すると言わなければならない」、「感染症への共同対応など、南北の保健医療協力は2018年に南北首脳がすでに合意した事項でもあるため、北朝鮮が断る大義名分も少ないし、韓国は韓国なりに最善を尽くすべきだ」と述べた。
シン教授はまた、このままではややもすると「中国が北朝鮮に関してよりいっそう主導権を行使するようになるだろう」との懸念を示した。中国のコロナワクチンの予防効果については疑問を示す専門家も多いものの、すでに中国は北朝鮮に自国のワクチンを供給したことが知られている。
コロナ禍に食糧難まで重なった北朝鮮に対する人道支援に向けて、韓国の民間諸団体は多角的に代案を模索している。「我が民族助け合い運動」は、大韓医師協会などの国内の主要保健医療団体と共に、22日にソウルグローバルセンターでセミナーを開催する。このセミナーでシン教授は、北朝鮮のコロナ禍の現状と推移、および今後の協力の方向性を発表し、我が民族助け合い運動のホン・サンヨン事務総長が民間レベルの支援の方向性を発表する予定となっている。子ども医薬品支援本部も、今月末ごろに北朝鮮におけるコロナ対応を模索する専門家シンポジウムを開催する。シン教授は、これらの民間団体はそれなりに意味のある役割を果たしうるものの、北朝鮮で緊急に必要なワクチン等を大々的に供給することはできないと見ている。彼は「人道的かつ民族的な次元で尹錫悦政権、大統領自身が乗り出すべき」だとし、「少なくとも北朝鮮の保健労働者がワクチンを打って対処できるよう、300万人分のワクチン、医薬品、医療装備などをいつでも無条件に支援すると表明すべきだ」と重ねて強調した。