文在寅(ムン・ジェイン)政権の韓米同盟観について、保守陣営の批判が激しい。カン・ギョンファ外交部長官とイ・スヒョク駐米大使の最近の発言に関する論議のためだ。9月25日、カン長官は米国のアジア・ソサエティが開催したテレビ会議で、「韓米同盟は我々の錨(anchor)として重要だが、他国の利益を自動的に排除するクアッドプラスに加入するのは難しい」という趣旨で発言した。10月12日の国政監査でイ大使は「韓国が70年前に米国を選択したからといって今後も70年間米国を選択するわけではない」とし、「今後も韓国の国益になってこそ米国を選択するというもの」と答弁している。
保守野党と一部メディアは、このような発言が韓米同盟を大きく傷つけ、国益に致命的な打撃を与えたと批判する。米国を裏切り中国につくという政府の意図が明らかになったと声を高めているのだ。国益を超えて民主主義と人権、自由、市場経済など共同の価値と理想のためにも、韓米同盟はさらに強化されなければならないと彼らは主張する。
一見、一理あるように見える。しかし詳しく見てみると、随所で虚構があらわれる。まず、カン長官とイ大使の発言に対する歪曲が問題だ。両者の言葉はいずれも韓米同盟の現状維持を基本前提としている。ただ、未来の韓米同盟の性格と方向を決定する過程で、国益をしっかりと考えようということだ。これがなぜ争点になるのか、正直、理解に苦しむ。例えば、韓国が戦略的パートナーである中国との関係を放棄し、同盟国である米国の側に全面的に立つためには、次のようないくつかの重要な質問に答えなければならない。
まず、現在トランプ政権が展開している大衆政策が十分な正統性と合理性があるかという点だ。同盟は、単に勢力バランスの論理だけでなく、ハーバード大学のスティーブン・ウォルト教授が指摘するように、脅威のバランスも大きく作用する。韓国も中国からの脅威を強く感じていればこそ、米国の対中国戦線に参加できるということだ。しかし、国民のほとんどは「即刻的で現存する」中国の脅威を感じていない。むしろ、米国の国力が依然として中国を圧倒し、中国も外交的妥結を望んでいる状況でワシントンが封鎖、強圧、包囲という対決の道に向かうのは、大統領選挙という国内政治の要因のためではないかという疑念まである。45年間の冷戦の年代記で、分断と戦争、長年の軍事対決、半島国家という限界によって苦痛を受けた韓国国民にとって、さらなる冷戦の登場は歓迎できるはずがない。
次に、米国に全てを賭ければ韓国の安保は向上するのだろうか。米国が主導する反中国戦線に完全に合流するには、まずTHAAD(高高度防衛ミサイル)の追加配備と中距離弾道ミサイルの朝鮮半島前陣配置が許容されなければならない。また、ワシントンは韓国が台湾海峡、南シナ海、東シナ海の軍事作戦にも積極的に参加することを期待するだろう。この場合、中国との敵対的関係は避けられず、朝鮮半島は新冷戦の最前線に浮上するだろう。中国の東風ミサイルが韓国に狙いを定め、西海(黄海)とKADIZ(韓国防空識別区域)では攻勢的な軍事行動が続くだろう。このような状況の展開を、はたして安保の向上と呼べるだろうか。常識ある国民の多数は、韓国が米中軍事対決の先鋭な構図に関わることを望まないだろう。
三つめに、米国に便乗することは、朝鮮半島の地政学的構図をさらに困難にする可能性がある。1958年、中国人民支援軍が北朝鮮から撤収して以来、中国の北朝鮮に対する軍事支援は極めて制限的だった。しかし新冷戦の構図の下では、中国は朝中ロ三角同盟関係を強化し、北京は平壌(ピョンヤン)に軍事兵器をはじめ石油を含む兵站支援も惜しまないだろう。状況がこのように進んでは、北朝鮮核問題の平和的解決は遠のく。かえって北朝鮮の通常戦力の脅威まで加重されることは明らかだ。米国との拡大した同盟が、韓国の安保ジレンマを深める恐れがあることを見過ごしてはならない。
最後に、経済という国益が残っている。2019年末現在、中国は韓国の輸出の25%、輸入の21.3%を占め、それぞれ米国の2倍に近い。中国市場に対する人為的な脱同調化(デカップリング)や中国の経済報復が韓国に加える衝撃は、火を見るよりも明らかだ。特にそのような打撃は、大企業よりも中小企業や観光分野に従事する零細商人に集中する。韓国政府が、これら中小企業や零細商人の生存を揺さぶる反中行動を選ぶことができるのか、疑わしい。
再びカン・ギョンファ長官とイ・スヒョク大使の言葉に戻ろう。これらの発言の要旨は、米国と同盟をしないということではない。両国が未来の同盟の性格と方向を設定する過程で、国益に対する深い省察がなければならないという意味だ。価値と歴史的慣性も重要だが、国益よりも優先することはできないという外交当局者の苦悩を、盲目的に非難することは望ましくない。
ムン・ジョンイン|延世大学名誉特任教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)