―尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は今「内乱ではなく、警告するための戒厳だった」と主張しています。憲法裁判所の弾劾裁判では、国会本会議場で議員を引きずり出せと指示したことはないと述べるなど、すべての責任を軍の指揮官に転嫁する姿を見せていますが、国民が思い描いた「責任ある大統領の姿」とは大きくかけ離れています。前大統領として、こうした尹大統領の態度と行動についてどうお考えですか。
「まず悲しいです。実に醜くて恥ずかしい姿ではありませんか。戒厳宣布が間違っているのは言うまでもないが、そのせいで2カ月以上、国中が完全にひっくり返り、国民が眠れず、不安に陥り、寒い夜に街頭で抗議デモをせざるを得なくなり、国民の生活も経済も非常に苦しくなったのに、それについて少しでも責任感があるならば、今からでも早く責任を認めて国を安定化させることに協力するのが大統領に残された道理ではないでしょうか。なのに、何とか生き延びようとする態度が非常に醜く、恥ずかしく、(そのような姿を見ていると)悲しくなります」
―にもかかわらず、尹大統領を守ろうという保守勢力のデモは、ますます暴走しています。尹大統領に拘束令状が発付された日には、デモ隊が裁判所を襲撃し、暴動を起こしたこともありました。極右勢力がファシズムに進んでいるという分析もありますが、こうした現象についてどうお考えですか。韓国社会はどのように対応すべきでしょうか。
「あの人々の多くは誤った情報、フェイクニュースなどに扇動されており、また付和雷同しているのです。だから、まずは憲法裁判所を通じた弾劾手続き、その次に裁判所を通じた刑事処罰の手続きができるでだけ速やかに行われ、大統領の戒厳宣布行為が反憲法的な行為であることを憲法裁判所が早く判断を下し、またそれが内乱行為として厳しく罰せられるべき行為であることを裁判所が早く確定すれば、多くの国民がきちんと判断できるのではないかと思います。当然その過程で非常に暴力的なデモに対しては断固たる処罰が下されなければならないと思います。
さらに根本的には、極右ユーチューバーを通じたフェイクニュース、扇動、それによる国民分裂、またそれを通じた極右・過激派の勢力獲得などは、我が国だけの問題ではなく、ヨーロッパや米国も同じように体験している問題です。実際に多国間首脳会議では、首脳たちが議題の他に何か議論する時間ができれば、一様に懸念していたのがフェイクニュースを通じた極右勢力の浮上でした。特にヨーロッパ諸国がそのような懸念を抱いていました。ところが、問題はそれに対するこれといった対応策を用意できていないことなんです。
ユーチューブを通じたフェイクニュースを広める行為を規制しなければならないのですが、この規制が下手に行われると、これが表現の自由を侵害する恐れがあるため、むしろ市民社会とか革新的な報道機関などがこれにもう少し先頭に立って反対しているのが現実です。そのような懸念も十分に一理ありますし、尊重しなければなりませんが、極右ユーチューブのフェイクニュースの生産とそれによる国民扇動と分裂、こういうことが国の存立を危うくする段階に来た、いわば大韓民国をほとんど政治的内戦状態に追い込んでいることが、今回の戒厳の過程を通じて確認されたではありませんか。これ以上放置できない問題です。なので今は、本当にどのように適切な水準でそれを統制し規制するのかについて、韓国社会が知恵を集めなければならないと思います。
ユーチューブのフェイクニュースだけでなく集会やデモも同じです。集会・デモも本来自分の主張を社会に知らせるために認められる基本権です。ところが、今やそのような集会・デモの本来の目的を通り越して、非常に嫌悪的な集会・デモや他の人々を苦しめるための目的の集会・デモだとか、さらに高性能マイクと録音機一つさえあれば集会・デモの自由という名のもとに、終日人を罵倒する録音を流すことができるのが今の現実です。韓国社会は過去の権威主義時代に集会・デモの自由を侵害された経験があるため、民主化されてからは非常に寛大に(その権利を)拡大し続ける方向に進みましたが、今は合理的な規制のようなものを模索すべき時になったと思います」
―1987年6月の抗争以後、韓国にはそれなりに民主主義が根付いたと多くの国民は思っていました。ところが、今回の非常戒厳事態を見ると、必ずしもそうでもないようです。今後、民主主義を強固にするためにはどうすればいいでしょうか。
「まずは弾劾後に早期大統領選が行われると信じていますが、早期大統領選で政権交代を確実に成し遂げ、いわば確実な民主主義のレジリエンス(回復力)を見せなければなりません。大統領選の過程で(大統領にふさわしい人を)きちんと選ぶことが本当に重要です。ネガティブ攻勢に乗って人を選んでしまうと、今回のようなことがまた繰り返されるのです。だから大統領選で最も重要なのは、誰が大韓民国を導いていく未来のビジョンを持っており、それを遂行できる政策能力を持っているか、どれほど大統領になるための準備ができているか。これをきちんと見て選択をすれば、今回のようなことの再発を防げるでしょう。
そして、先ほど話したように、今、民主主義の危機は韓国だけのことではありません。 世界中で民主主義の危機を語っているではありませんか。ヨーロッパの場合も、極右政党が今ちょうどあちこちで第1党に浮上しているような状況ですし、米国もドナルド・トランプ大統領の当選について民主主義をめぐる危険なシグナルとして受け止めている人がたくさんいます。だからこそ、民主主義を守っていくためには、民主主義を脅かすある勢力、先ほど話した過激なユーチューブやフェイクニュースをまき散らして扇動したりする行為に対して、民主主義を守り抜くことができる防御策が必要だと思います。
これまではその点について誰もが必要性を考えながらも、それが表現の自由を侵害したり、あるいは集会とデモの自由を侵害したりするという理由で、踏み切ることができませんでしたが、これからは本格的に知恵を集める時だと思います」
―12・3非常戒厳宣言後の野党第一党「共に民主党」の対応についてはどう評価しますか。民主党とイ・ジェミョン代表にどんな話をしたいと思いますか。
「本当にうまく対応したと思います。民主党が速やかに国会に集結し、早いうちに戒厳解除の議決をしたことで、いわば戒厳を失効させましたから。もちろん、多くの国民の皆さまが力を貸してくださいました。このように驚くべき民主主義のレジリエンスを示すその過程で、民主党が先頭に立ったことを非常に誇りに思っています。弾劾訴追も民主党が主導し、弾劾裁判が開かれ、また尹錫悦大統領は刑事上でも起訴されてこれから裁判を受けることになるため、これからは民主党がもっと国政に責任を負うという姿勢を持たなければならないでしょうし、国民もそれを期待しているのではないかと思います。
それでこの前、イ・ジェミョン代表に、今は本当に経済が厳しく補正予算があまりにも急がれるから、全国民支援金とか、地域貨幣とか、補正予算の規模とか、これらのような民主党流の補正予算を進めようと欲を出さずに、政府側に全面的に協力して補正予算が一日も早く実行できるようにした方が良いと助言し、イ・ジェミョン代表も同意しました。実際にそのような立場を発表しました。これから、政府与党が早く野党と協議して迅速に補正予算を樹立し、また実行して国民の暮らしを安定させていくことを願っています。
民主党の次の課題は必ず早期大統領選で政権を取り戻すことです。それが今、民主党に与えられた一つの歴史的責務だと思います。そのためにイ・ジェミョン代表に申し上げたいことは、民主党が勝つためには必ず民主党がもう少し包容し拡張する姿を見せなければならないということです。そして、その拡張された後に拡張された力を一つに結集する団結が最後の段階で行われなければなりません。
民主党が勝利を収めた2017年の大統領選挙を振り返ってみますと、その時は私とイ・ジェミョン候補、アン・ヒジョン候補の3人が非常に激しく競争しました。熾烈な競争を通じて民主党は大きく拡張することができました。そして、拡張されたうえで団結することで、我々は政権交代を成し遂げることができました。ところが今、民主党にはその当時のイ・ジェミョン候補のような方、その当時のアン・ヒジョン候補のような方々がいません。イ・ジェミョン代表を支持する人だけで51%になるかというと、そうではないのが現実ではありませんか。競い合い、それを通じて支持ももっと広く集めることが必要だと思います。外部の祖国革新党もその役割を果たさなければなりません。その後、汎野党圏が一つに力を合わせて政権交代をやり遂げなければならないのです。
こういうことについて、ある活動や競争について民主党内の一部でそれを分裂だと批判し、押しのけるのは本当に望ましくないことです。そのようなことが民主党をさらに狭めてしまうのです。前回の総選挙の時、祖国革新党の役割だけを見ても、当時民主党内の多くの人々が分裂だと批判しましたが、結局祖国革新党が成し遂げたのは拡張だったと思います。祖国革新党も成功しただけでなく、民主党もそのおかげでより多くの議席を確保することができました。民主党がもう少し開かれて包容し拡張していき、その後に再び力を集めるそのような過程にうまく導いていくことをイ・ジェミョン代表にお願いしたいです」
(文前大統領は公式インタビューが終わった後、「拡張と包容」に関してこのように付け加えた。「今、党内でイ・ジェミョン代表にはライバルがいないのではありませんか。そうであるならなおさら拡張しなければなりません。(旧正月連休の時に訪れた)イ・ジェミョン代表にもそのような話をしました。イ代表も私と同じ考えです。だけど、周りにに少し強硬派の人たちがいるみたいで…」)
―今のお話は、包容と拡張を成し遂げた後に団結するのが望ましい、そういう意味だと理解すればよいのでしょうか。
「そうです。団結とは、最後に我々の代表選手、誰が代表選手になっても、その代表選手に向けて団結することです」
―大統領は2018年3月に国会に任期4年で再任可能な大統領制(現行は任期5年で1期限り)への改憲案を発議しました。ところが当時野党だった「国民の力」の前身である「自由韓国党」の反対で議決定足数にならず廃棄になりました。最近、再び改憲に関心が集まっています。現実的に大統領選挙前の改憲は難しいと思いますが、次期政権での改憲についてどうお考えですか。
「大統領選前の改憲は難しいが、大統領選と同時に改憲することは現実的に可能です。だから大統領選と改憲国民投票を一緒に行うこともできます。だから改憲が行われると、新たに選出された大統領がその改正された憲法の適用を受けるということになります。改憲案が公告された後に、国会が60日以内に議決すれば良いし、また30日以内に国民投票に回付しなければならないので、国会が議決する日付を30日以内に繰り上げるだけで十分可能です。ただしそうするには、与野党と政府が少なくとも改憲に対する最小限の合意を実現しなければなりません。今回の戒厳事態について言えば、二度とそのようなことが起きないよう、最低限の改憲に合意すべきです。ところが、今の政府や与党『国民の力』の行動からして、そのような反省があるようには見えないし、だから改憲はできそうにありません。
ならば、次の大統領選の時に改憲を公約に掲げ、そうして当選した大統領が就任当初に改憲を成し遂げること、それがもう現実的な案でしょう。実は私も(2017年の大統領選)当時、そのように選挙の時に公約して就任後に改憲案を発議したのですが、その時は少数与党だったため、改憲を成し遂げることができませんでした。しかし、今は民主党が多数党なので、十分進められる立場にあります。そうなることを願っています」
―今、改憲論が高まっているのは、主に帝王的大統領制に対する問題意識によるものだと思います。選挙で選ばれた大統領が軍を動員して国会を掌握しようとしたという衝撃が大きいのですが、「帝王的大統領制」についてはどうお考えですか。
「韓国の大統領制が帝王的大統領制だという指摘には同意できません。金大中(キム・デジュン)大統領や盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が帝王的大統領でしたか。(むしろ)あまり力のない大統領でしたよね。私も帝王的大統領だったとは思っていません。言ってみれば、大統領の権限を乱用する、そういう逸脱する大統領たちがいたわけです。皆さんご存知のように、全員国民の力側の大統領でした。しかし、だからといってそれを帝王的大統領制だとして、内閣責任制に変えれば解決するのか。内閣責任制になったら、もう政府権力と行政府の権力と国会権力を一人が持てるようになるではありませんか。そうなれば、まさに帝王的党代表、帝王的首相になり得ます。ですから、これは制度の問題ではなく、結局は人の問題で、運用の問題だと思います。
もちろん、今の大統領制で大統領の権限が過度に肥大化しているところは引き続き権限を減らしていき、国会の統制権限をさらに高めていくような改憲はしなければなりません。そのような土台の上で任期4年・再任可能な大統領制への改憲が実現可能であり、また国民が支持できる案ではないかと思います。任期4年で再任可能な大統領制への改憲になっても大統領制であることは同じではないか、こう言えるかもしれませんが、そう変われば少なくとも最初の4年間は次の再選を見据えているので、さらに国民の世論に耳を傾けるような政治をせざるを得なくなります。すると、2期目の時はもうそうしないのではないかと思うかもしれませんが、2期目は1期目に行った政策基調を続けていくため、またそこから逸脱する可能性ははるかに低くなります。
ですから、任期4年で再任可能な大統領制への改憲とともに、大統領の赦免権とか、先ほどもお話しましたが、戦時事変でもないのに戒厳令を敷くことができるとか、そういう部分は抑制し、それに対して国会の統制権をさらに強化するというような、こういう類の改憲ができるのではないかと思います」
―(文前大統領が)大統領に当選した時も弾劾後でしたが、その後の広範囲な弾劾連帯が検察の捜査とかいろいろなことを経て、あまりにも狭くなったのではないか、それが文在寅政権の国政運営にも負担になったのではないか、という批判があります。それについてどうお考えですか。
「むしろその反対について言わせていただきたい。今、戒厳以降に弾劾裁判に入り、(尹錫悦大統領が)拘束起訴され、このような状況であるにもかかわらず、あちら(尹大統領と国民の力側)が何をしているのかを見てください。そのような状況でも、戒厳は正当だったと詭弁を並べ、むしろこちら(民主党側)が内乱だと言い張っているではありませんか。むしろそうやって結集しています。(一方で民主党側としては、)いまでは金大中大統領は歴史的に評価されていますが、金大中大統領の頃はまるで歴代最悪の大統領であるかのように、批判され罵倒されました。失敗した大統領とまで言われました。盧武鉉大統領はどうですか。支持率はどん底でした。振り返ってみると、盧武鉉大統領こそ本当に多くの改革を成し遂げたにもかかわらず、イラク派兵で支持が離れていき、韓米FTAでさらに支持が離れていき、そうしてついには退任の頃には支持されなくなり…。私はこちら側もそうだと思います。
もちろん、こちら側の人たちは価値を重視するので、自分が考える価値と合わなければ批判することもあります。それがこちら側の特性ではありますが、しかし、弾劾連帯というのがもしあったというのなら、弾劾連帯がそんなふうに崩れてはいけない。はるかに堅固でなければならないのです。文在寅政権が(時代に)逆行した政権でしたか。期待には及ばなかったかもしれませんが、その方向に向かおうと努力した政権であることは明らかです。ならば、弾劾連帯というのがあるなら、最後まで支持して後押しして、新しい政権を生み出すところまで行かなければならないのではありませんか。期待に及ばなかったから、弾劾連帯が瓦解して尹錫悦政権を誕生させたんでしょうか」