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文在寅前大統領インタビュー(3)「トランプ大統領は第一印象を重視…初会談がカギ」

登録:2025-02-10 10:22 修正:2025-02-10 17:38
【単独インタビュー|トランプ2期発足と北朝鮮】 
 
トランプ大統領はこれまでの外交文法を無視し、予測不可能 
一方、理念にこだわらず、実用的であるため、相手しやすい面も 
意図的な「大袈裟な主張」…正確な事実で反論すべき 
朝米首脳会談、すでに推進しているはず 
韓国は北朝鮮政策の基調を変えなければ自ら疎外を招くことに
文在寅前大統領が、平山村の自宅の接見室に置かれている2018年9月19日の平壌綾羅島競技場で撮った演説写真を指差しながら説明している。この写真は当時のチョ・ミョンギュン統一部長官が携帯電話で撮ったものだという=カン・チャングァン先任記者//ハンギョレ新聞社

―米国で第2次ドナルド・トランプ政権が発足するやいなや、全世界が通商戦争に巻き込まれています。在任期間中にトランプ大統領に何度も会っていますが、昨年、米国の政治専門誌「ポリティコ」は、トランプ大統領を最もよく扱った外国首脳の一人として、文在寅大統領を挙げました。大統領の目から見てトランプ大統領はどのようなリーダーですか。これから韓国政府はどう対応していくべきだと思いますか。

  「トランプ大統領は皆さんご存知のように、米国の利益を前面に掲げて非常に強く追い込むスタイルです。これまでの外交文法を全く無視したり、また予測不可能な姿を見せたりもします。しかし、一方では理念にこだわらず、非常に実用的でもあるため、相手にしやすい面もあります。私が経験したところによると、気になる事項には質問もたくさんし、その答弁に耳を傾け、自分の意見を率直に討論するため、話が通じる、対話できると、そう思いました。

 最も良かったのは、北朝鮮問題について、これまでの共和党の政治家や保守政治家とは違って、理念にこだわらず、実用的にアプローチしたことです。もともと一般的な共和党の政治家や保守的な政治家は北朝鮮を悪の勢力と捉えるため、北朝鮮との対話を信頼せず、持続的に圧力をかけて北朝鮮を屈服させなければならない、こういう考えを強く持っています。私はトランプ大統領にこう説明しました。制裁と圧迫も必要だが、果たしてこれまで制裁と圧迫を持続した結果、北朝鮮の核とミサイル問題が解決できたのか、その脅威が減ったのか、失敗したではないか、制裁と圧迫にもかかわらず、北朝鮮の核とミサイルは高度化し続け、脅威的になったではないか、だから制裁と圧迫の他にも対話の方法も同時に駆使する必要がある。もう一方で、軍事的オプションを考えるなら、それは韓米両国にとってあまりにも大きな犠牲を伴うため、それは到底選べない方法だ、だから外交的な方法を使わなければならないし、外交的な方法でも十分に北朝鮮の非核化という目標を達成できる、そう説明しました。トランプ大統領はそのような説明に全面的に同意しながら、本当にこれまでの米国の指導者とは違い、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と直接会うトップダウンの首脳会談をしました。

 結果的にその対話が全て成功したわけではなりません。しかし、2017年に就任した当時は、北朝鮮の核やミサイルの脅威が最高潮に達しており、戦争の危機が朝鮮半島を覆いつくしていたことを考えると、トランプ大統領のそうした実用的なアプローチのため、少なくともトランプ大統領の任期中、また私の任期中、朝鮮半島の平和を維持できたと思います。それはトランプ大統領の非常に大きな業績だと思います。トランプ大統領は一方で、大規模な韓米軍事訓練や合同訓練、または朝鮮半島の戦略資産を展開することについても、非常に費用のかかる無駄遣いだ、または愚かな戦争ごっこだという実用的な考えを持っており、その価値を高く評価しませんでした。そのようなトランプ大統領の態度が朝鮮半島の軍事的緊張を下げるうえでも、大きな役割を果たしたと言えます」

―最近のトランプ大統領を見ると、自国の経済的利益を最大化しようと非常に努力していますが、大統領の在任時代にも防衛費分担金交渉で苦労されましたね。

 「トランプ大統領は自分の要求を貫徹するために大袈裟な主張をすることも多々あります。実際に対話をしてみると、トランプ大統領が朝鮮半島問題をそれほど深く知らないことが多く見られました。なぜなら、私たちにとってはあまりにも重要なので、韓米間の問題に精通していますが、米国の大統領にとっては数多くの世界問題の一つに過ぎず、時にはそれほど重要な問題ではないからです。だから、米国大統領が米国の国家利益を前面に掲げて外交を展開してくるなら、私たちも同じように私たちの国益を守るそのような交渉の原則を必ず貫く必要があります。トランプ大統領が正確でない情報の中で大袈裟な主張をしてくるならば、それを一つひとつ丁寧に説明する必要があると思います。

 例えばトランプ大統領は私に会って防衛費分担の話が出るたびに、在韓米軍は4万人だ、それでも韓国が防衛費分担を全くせずに安保ただ乗りをしている、と主張しました。しかし朝鮮半島の在韓米軍は2万8500人なんです。その2万8500人は米国議会が設定したラインです。そう説明して、その次に安保ただ乗りという言葉が事実ではないことについて説明しました。韓国の国防費がGDPに占める割合は約2.7%になります。米国の同盟国の中で最も高い割合です。当時、日本は1%余り、ヨーロッパ諸国は皆2%未満、だから2.7%なんて、こんなに高い国防費を負担した国はありませんでした。その上、私たちはベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争、朝鮮戦争以来、米国が行ったすべての戦争に参戦し、いわば同盟国の義理を果たしました。そのような国は韓国しかありません。

 それで韓国は絶対に安保ただ乗りをしているわけではなく、最も高い安保費用を負担する国であり、米国に多く助けられたが、韓国なりに米国を助けるために最善を尽くしてきたと、こういうふうに説明しました。それだけでなく、防衛費も決して少ない金額ではなく、それも韓国経済が発展するにつれて、新たに交渉するたびにいつも早く引き上げてきた、それに在韓米軍基地の敷地を無償提供していることとか、平沢(ピョンテク)米軍基地の建設費用100億ドルを韓国政府が負担したとか、こういう点まで考えると、韓国は十分に高い防衛費を分担していると、もちろんそのように説明したからといって、トランプ大統領が防衛費を5倍に一気に引き上げるとかの要求を撤回するわけではありません。しかし、そのような説明を聞くと、そこまで強くは要求できなくなります。

 米国側の交渉代表でさえも、韓国の立場を十分に理解する、だがトランプ大統領の指針があるから仕方がない、というような話をしたほどでした。そのような膠着状態が続いたため、私は交渉中断を宣言し、韓国の交渉代表団を撤収させたりもしました。それでも、トランプ大統領は何の報復措置も取りませんでした。それでトランプ政権時代は結局防衛費分担協定を妥結できず、ジョー・バイデン政権に移ってから、バイデン大統領とより合理的な金額の防衛費分担協定を、5年単位で結ぶことができました。

 そこで私は、防衛費分担協定が政治的な交渉にならないように、交渉代表を国防部や軍側の人物ではなく、企画財政部出身の財政専門家を交渉代表として送り出しました。それで、政治的な問題はすべて大統領に任せ、従来の防衛分担の枠組みから韓国がいくらの防衛費を分担するのが合理的なのか、そのような純粋に技術的な事項だけで交渉に臨むように指針を与えました。今後、新政権が米国と防衛費分担協定をもしすることになれば、その時の交渉代表団から経験談を十分聞いた方が良いという助言を申し上げたいです。

 おそらく米国が防衛費分担金交渉の再交渉要求をしてくるかもしれませんが、実は私たちは2026年から2030年まで防衛費分担協定をすでに締結しています。これは私たちには国会の同意まで経た一種の条約の性格を持っているため、その有効期間内に新たに交渉をしようというのは一種の国際ルール違反なのです。米国が防衛費分担の引き上げを要求するなら、新たな協定が満了する頃に、新たな協定を締結する時に要求すべきことです。そのような点を強く掲げながら、米国の防衛費分担再交渉を強く拒否する姿を見せる必要があり、もしやむを得ず再交渉に臨むとしても、最大限交渉の時期を遅らせ、日本やドイツの再交渉が先に行われた後に、その結果を見ながら韓国が交渉に乗り出す態度が望ましいと思います」

文在寅前大統領が7日、慶尚南道梁山市平山村の自宅でハンギョレのインタビューに応じている=カン・チャングァン先任記者//ハンギョレ新聞社

―もし、次の政権が発足し、次期大統領が「トランプの扱い方」を大統領に聞くとしたら、どのような話をするか、もう少し話していただけますか。

 「まずは先ほど言った韓国の外交の原則、韓国が大韓民国の安保のためにも経済的側面でも韓米同盟を最大限重要視するということは誰もが知っていることなので、そのような原則のもと、韓国の国益を守る原則を確実に守っていく必要があります。ですから、受け入れるべきことは受け入れながらも、そうでない部分ではないと明確に線を引く必要があります。

 よく(米国が)強く追い詰めて要求してきたら、面と向かって断るのは難しく、その瞬間は曖昧に取りつくろってから帰ってきて実務的に他の道を模索をすることを考えがちですが、実は米国はそのような態度を最も嫌っています。ノーと言うべきことは面と向かってノーと言わなければならず、その時は何も言わず、まるで同意しているかのような姿を見せ、後になって他のことを言い出すことが最も嫌われるのです。むしろ同盟国の間で意見の相違があるのは当たり前のことで、相違を明らかにしたうえで同盟国間で協議していくのが最も健全な同盟だ、米国はその点を常に強調します。韓国の大統領と外交当局も常にそのような態度を持つ必要があります。

 首脳会談に臨む方々は、少なくとも朝鮮半島問題、あるいは韓米間の問題、いずれにしても米国との首脳会談で問題となり得る問題については、完全に熟知する必要があります。トランプ大統領が私と初めて対面した時、普通の首脳会談は互いに議題別に対話する内容をあらかじめ整理して順番にやりとりする、いわゆる約束組手で行われることが多いのですが、トランプ大統領はそのような外交の正攻法を完全に無視して、自分が気になる部分をやたらと質問するのです。時には攻撃的な質問をしたりもします。しかし、幸いにもその質問は私がすべて十分に分かっている問題だったので、十分うまく答えることができたし、そうした過程を経て、場が和み、その後は和気あいあいとして残りの日程を終えることができたのです。私の経験からすると、トランプ大統領は第一印象を非常に重要視する人に見えました。最初の会談がかなりうまくいったので、任期中ずっとトランプ大統領と良好な関係を維持することができたと思います」

ー大統領が今おっしゃった同盟間にも意見の相違は当たり前のことだというのは、とても良いお話だと思います。ところが、韓国の保守メディアは韓米間に少しでも意見の相違があれば、「韓米間に意見の相違がある」として1面トップ記事として掲載するなど、大きな問題であるかのように報じます。

 「例えば米国の省庁間でも意見の相違が多いんです。朝鮮半島問題について国務省と国防部も違うし、または大統領安保室の話も違うし、米国内部で異なる意見があるのは戦略的なものだ、『良い警官、悪い警官』というような戦略的なアプローチだと言いながら、韓国内部の意見の相違や韓米間に見解が違うと、まるで大変なことが起きているように、分裂しているかのように思うのは大きな弊害です。政府が外交を行う人々により多くの信頼を与え、十分に力を発揮できるよう後押しする必要があります」

―トランプ大統領は米国の大統領選挙の過程で、「自分は金正恩委員長とうまくやってきた」とよく言っていました。1期目の時のようにトランプ大統領が金正恩委員長と朝米首脳会談を再び進めるとみていますか。もしそうなら、私たちはどのように対応すべきでしょうか。

 「進めるでしょうし、すでに今進めていると思います。北朝鮮が対話の場に出てくるように誘導する言葉を使っているではありませんか。かなり多くの専門家が、トランプ大統領はウクライナ戦争の即時終息を約束しているため、その問題にまず取り組み、北朝鮮との対話はウクライナとロシア戦争が終わってからになるだろうと予測していますが、私はそうではないと思います。北朝鮮との対話は金正恩委員長側が呼応さえすれば、ウクライナ戦争の終息前にも実現する可能性があると思います。

 トランプ大統領としては1期目に外交を通じた北朝鮮の核問題の解決を目指しましたが、それは米国の歴代大統領ができなかったことなんです。やり遂げることができるなら素晴らしい業績になります。(トランプ大統領には)その手前で立ち止まった経験があります。それも自身の意志ではなく、本人は交渉する意思があったにもかかわらず、周りのネオコンに強く足を引っ張られ、最後までたどり着けなかったため、2期目には必ずそのような交渉目標を達成し、非常に大きな業績を残そうとする政治家としての野心を持っていると思います。

 ところが、私たちが今のように北朝鮮を敵視し、対話をしない政策基調を持ち続ければ、韓国は朝米対話から疎外され、パッシングされることを自ら招くことになるのです。ですから、韓国が早く北朝鮮との政策基調を対決から対話を進める方向に転換する必要がありますし、実際に朝米間で向かい合ったとしても、韓国がその対話を促進するうえで非常に重要な役割を果たさなければなりません。南北関係の進展なしに朝米間だけで何か問題を解決することはできないんです。仲裁者、促進者の役割を果たすためにも、韓国政府は速やかに対話基調に変えなければなりません。そしてそのような対話を通じて、北朝鮮の核やミサイルの脅威を完全になくしたり、減らしたりするトランプ大統領の努力を積極的に支持し、歩調を合わせていく必要があります」

―ところが、北朝鮮の金正恩委員長はハノイでの2回目の朝米首脳会談の結果にあまりにも失望し、交渉のテーブルにつくのは難しいだろうという分析もあります。大統領は北朝鮮も結局は朝米の対話に乗り出すとみていますか。

 「その代わり、もっと厳しい条件を掲げるでしょう。このかん北朝鮮の核とミサイルがはるかに発展したので、今では核保有国の地位を主張しているではありませんか。交渉の場には出てきても、これまでより厳しいことを求めるでしょうし、その点で朝米間の対話に入るための、神経戦のようなものが繰り広げられるでしょう。おそらく北朝鮮は核保有国の地位を主張しながら、過去のように非核化ではなく核凍結または核軍縮といった方向で交渉対話の目標を設定する可能性が高いと考えます」

―韓国では保守勢力を中心に、韓国も核を持つべきではないかという「核保有論」がますます高まる可能性も大きいと思いますが、これについてはどうお考えですか。

 「韓国独自の核武装だけでなく、一部で折衷案として提示した戦術核を再び韓国に配備することまでも、米国は絶対に同意していません。前回の韓米間の核問題交渉でも、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が独自の核武装論を手放す代わりに、核運用に関する協議をするということで、いわば核の傘を強化する方向で合意したことがありました。おそらく米国はそのような対応をするでしょう。現実的に私たちが独自に核武装をすることは不可能です。独自の核武装のためには、NPT体制から脱退しなければならず、そうすると、韓米同盟に非常に大きな亀裂が生じ、また国際社会から多くの制裁を受けることになります。韓国が核武装をすることになれば、日本、台湾も核武装の方に乗り出し、東アジア地域で核ドミノ現象も起こり得ますが、それは米国にとっては決して受け入れられない要求だと思います。しかし、米国側も韓国の要求をただ無視するわけにはいかないため、「完全な非核化」という最終目標を私たちが手放さないと言えば、米国もその点まで拒否したり否定したりすることはできないでしょう」

パク・チャンス大記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/politics_general/1181561.html韓国語原文入力:2025-02-10 09:23
訳H.J

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