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尹錫悦、チョン・グァンフンが率いる極右政党、国民の力次第

ソン・ハニョン先任記者の政治舞台裏 
保守主義は既存の体制の安定的な発展を追求する理念 
極右は体制を転覆する暴力…国民の力は日に日に極右化 
検察、裁判所、憲法裁判所を攻撃し支持層の結集を狙う
国民の力のクォン・ソンドン院内代表と尹錫悦大統領=キム・ギョンホ先任記者、写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 不正選挙陰謀論を信じて国会を破壊しようとした尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は保守でしょうか、それとも極右でしょうか。このような尹錫悦大統領をかばう国民の力は保守でしょうか、極右でしょうか。

 保守と極右は似ているようでまったく異なります。進歩と極左がまったく異なるのと同じ理屈です。

 保守は体制を守ります。保守主義は既存の社会体制の安定的な発展を追求する政治理念です。

 近代保守主義の創始者と呼ばれる英国のエドマンド・バークは、フランス革命のような急進的な革命や改革に反対しました。英国議会主義のような漸進的進歩に賛成したのです。

 極右は体制を転覆するものです。ファシズムを創始したムッソリーニは、1922年の国家ファシスト党と黒シャツ隊のローマ進軍でファシスト・イタリアの首相となりました。

 ヒトラーはナチスとして1933年に政権を握ってワイマール共和国を倒し、世界大戦を引き起こしました。極右は理念ではなく暴力です。

 先日、民主党のノ・ジョンミョン議員が2022年9月のキム・ゴンヒ女史の発言を公開しました。チェ・ジェヨン牧師の「進歩の一部は尹錫悦政権の極右化を懸念している」との発言に対し、キム・ゴンヒ女史は次のように述べました。

 「私たちがいつから極右だったというのか。話にならない。極端な極右や極左はなくならなければならない。彼らが国をこのように台無しにした」

 「ある時はクォン・ヤンスク女史とキム・ジョンスク女史に会ったからって、保守にとやかく言われる。大統領夫人として私がそうするのは当然。極右はおかしい」

 キム・ゴンヒ女史は極右を確かに嫌っているようです。そんなキム・ゴンヒ女史は、非常戒厳が発布されるまでそれを知らなかったそうです。

国民の力のクォン・ソンドン院内代表が1月31日午前、国会で行われた非常対策委員会で発言している//ハンギョレ新聞社

 警察が、尹錫悦大統領が12月3日夜9時ごろ大統領室に到着したハン・ドクス首相、イ・サンミン行政安全部長官らに「これ(非常戒厳宣布計画)は誰も知らない。しかもうちの妻も知らない。秘書室長も知らないし、首席も知らない。妻はとても怒りそうだ」と言ったという供述を確保したというのです。

 尹錫悦大統領はキム・ゴンヒ特検法の成立を防ぐために親衛クーデターを起こしながら、肝心の妻には叱られるのではないかと心配して話せなかったようです。本当に哀れです。

 尹錫悦大統領がキム・ゴンヒ女史に非常戒厳を実行することを話していたら、キム・ゴンヒ女史は反対したでしょうか。反対したと思います。キム・ゴンヒ女史は「公私を区分できない分別のない妻」かもしれませんが、「非常戒厳で国会と政党の政治活動を禁じる」極右クーデターに賛成するほどの怪物ではないからです。

 いずれにせよ、キム・ゴンヒ女史の抱く保守と極右についての概念に照らしてみても、尹錫悦大統領が保守ではなく極右であるということを否定するのは難しいように思われます。

 国民の力はどうでしょうか。12・3非常戒厳直後は、国民の力の議員の多くが尹錫悦大統領に批判的な態度を取りました。戒厳解除要求には国民の力の18人の議員が賛成しました。尹錫悦大統領の弾劾訴追にも12人が賛成しました。

 ですが弾劾訴追後、早期大統領選挙が可視化され、保守層が結集するにつれ、国民の力全体が急速に極右へと転じつつあります。

 国民の力は、国会が選出した憲法裁判所の裁判官の任命に反対しました。高位公職者犯罪捜査処と検察の内乱罪に対する捜査権限に言いがかりをつけました。裁判所が尹錫悦大統領の逮捕状と拘束令状を発行したにもかかわらず、執行に反対しました。西部地方裁判所に乱入した暴徒を擁護するような態度を示しました。検察が尹錫悦大統領を起訴したことを「違法捜査にもとづく問題のある起訴」と非難しました。

 最近は、憲法裁判所の裁判官を中傷しています。ムン・ヒョンベ、イ・ミソン、チョン・ゲソンの各裁判官が標的です。イ・ジェミョン代表との親交や裁判官の家族を問題視していますが、事実上、憲法裁判所による弾劾審判そのものを攻撃しています。

 多くの新聞がこのような国民の力を批判しています。2月1日付の東亜日報の社説を引用します。

 「憲法が大統領、最高裁判所長官、国会にそれぞれ3人の裁判官を任命、指名、選出する権限を与えているのは、憲法裁の政治的多様性を確保するためだ」

 「3人の進歩系の裁判官を審判から排除しようというのは、憲法の趣旨に合致しないだけでなく、こうした論理を認めたら尹大統領が任命した、または与党が推薦した裁判官も除斥や忌避の対象とならざるをえない。これは、6人以上の裁判官がかかわらなければならない弾劾審判をやらないと言っているのも同然だ」

2月1日付の東亜日報の社説//ハンギョレ新聞社

 そうです。国民の力の憲法裁判所への攻撃は、弾劾審判への不服従に向けた「ビルドアップ」です。弾劾に従わないことで保守層をできる限り結集させ、早期大統領選挙で勝とうという計算でしょう。

 クォン・ソンドン院内代表は2月2日に記者懇談会を行い、国会が請求したマ・ウンヒョク憲法裁判官候補の任命の保留権限争議審判について「憲法裁判所が認容したとしても、チェ・サンモク権限代行はマ・ウンヒョク候補の任命を拒否すべきだ」と主張しました。

 チェ・サンモク代行に対し、露骨に憲法違反を注文したわけです。憲法裁判所が権限争議審判を認容したにもかかわらず、チェ・サンモク代行がマ・ウンヒョク裁判官を任命しなかったなら、チェ代行は弾劾されるでしょう。

 クォン・ソンドン院内代表は「無法者」のようです。この調子だと、憲法裁判所が尹錫悦大統領を罷免しても「罷免決定が間違っているのだから、大統領職から退かずに居座ればよい」と主張するでしょう。

 繰り返しますが、保守は体制を守る集団です。極右は体制を転覆して否定する集団です。検察、裁判所、憲法裁判所は体制を守る憲法機関です。国民の力は保守なのでしょうか、それとも極右でしょうか。

 アーロン・リー・ラルストン(Aron Lee Ralston)という米国人がいます。2003年にユタ州のブルー・ジョン・キャニオンを旅行中に大きな岩が落ちてきて、右腕を挟まれました。死に直面しましたが、5日後にナイフで右腕を切断して脱出し、命をとりとめました。彼の物語は「127時間」という映画になっています。

 国民の力は今、アーロン・リー・ラルストンのように絶体絶命の危機に陥っています。大きな岩は尹錫悦大統領と非常戒厳です。右腕は党内外の極右勢力です。極右勢力を切り取らなければ党全体が死ぬでしょう。

 国民の力は、早期大統領選挙でイ・ジェミョン代表と戦えば勝算があると考えているようです。そうなることもあり得ます。しかし、客観的な指標は国民の力の期待とは差があります。

 一つ目は世論調査です。非常戒厳の直後と比べると党の支持率の差はかなり縮まり、イ・ジェミョン代表との二者対決でキム・ムンス、オ・セフン、ホン・ジュンピョの各氏ら国民の力の候補が善戦しているのは確かです。しかし、確実に優位に立ててはいません。

 政治の両極化が今のように深刻な中では、「5.5対4.5」は非常に大きな差だと考えるべきです。2022年の大統領選挙で尹錫悦大統領のつかんだ勝利は、イ・ジェミョン代表とわずか0.73ポイント差でした。

 二つ目は、中道層の民意が国民の力に対して今も冷たいこと。最近の世論調査をよく見ますと、保守層の結集ははっきりとした現象です。保守層がイ・ジェミョン代表と民主党を極度に嫌っているのも事実です。しかし、中道層は民主党を支持するか、無回答にとどまっています。中道層の支持なしに国民の力は勝てるのでしょうか。

 このような政治地形においては、国民の力が尹錫悦大統領をかばい、反イ・ジェミョンを旗印として結集すればするほど、イ・ジェミョン代表が大統領に当選する可能性は高まります。反イ・ジェミョンの旗は、国民の力の再起に向けたエネルギーを使い果たすだけだということです。

 国民の力が尹錫悦大統領を最後まで放棄しないとすると、どうなるでしょうか。保守は極右に飲み込まれるでしょう。韓国の政治地形は「民主党」対「極右」へと再編されるでしょう。チョン・グァンフン牧師と尹錫悦大統領が極右政党のリーダーになるでしょう。

尹錫悦大統領が1月23日、ソウル鍾路区の憲法裁判所の大審判廷で行われた弾劾審判第4回弁論に出席し、メモを見ている=写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 まとめます。ヒトラーは1923年のミュンヘン一揆でランツベルク刑務所に収監されました。ヒトラーはそこで人種差別、全体主義、世界征服の野望など、自分の思想を表明する多くの文章を書きました。『我が闘争』という本です。

 尹錫悦大統領は12月3日の非常戒厳以降、多くの映像と文章を発表しています。不正選挙陰謀論、反国家勢力国会掌握論、北朝鮮と中国に対する敵視などです。いつか尹錫悦大統領が極右政党を率いることになれば、その政党の綱領になるほどの内容です。

 恐ろしいことです。ですが、果たしてそのようなことが起こらないと断言できるでしょうか。12・3非常戒厳という内乱犯罪の真相を徹底的に糾明し、無寛容に責任を問うべき理由はここにあります。国民の力が一日も早く尹錫悦大統領を除去し、健全な保守へと生まれ変わるべき理由でもあります。みなさんはどうお考えですか。

ソン・ハニョン|政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/polibar/1180310.html韓国語原文入力:2025-02-02 09:09
訳D.K