20日のファン・サンム大統領室市民社会首席の辞任とイ・ジョンソプ駐オーストラリア大使の早期帰国決定の背景には、3週間後に迫った4月10日の総選挙で与党と大統領室が共倒れになることはできないという危機感がある。首都圏で総選挙世論が急激に悪化する中、2人の去就をめぐって政府と与党の対立があらわになり、収拾に乗り出したのだ。しかし与党内部からは「遅れたが幸い」だとの反応と共に、イ大使の辞任が必要だとの意見が噴出している。
20日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は「政権批判メディア刺身包丁襲撃事件」を取り上げる発言を行ったファン首席の辞意を受け入れた。17日に与党「国民の力」のハン・ドンフン非常対策委員長兼総括選挙対策委員長が辞任を公に要求してから3日後のことだ。海兵隊員C上等兵殉職事件に外圧を加えたとの疑惑で高位公職者犯罪捜査処(公捜処)の捜査を受けているイ大使も、25日の防衛産業協力公館長会議への出席を名目に総選挙前に帰国することを決めたため、ハン委員長の3日前の要求は事実上すべて受け入れられた。
大統領室は当初、ハン委員長の要求は大統領の人事権に関するものだとして否定的な見方を示していた。イ大使については「公捜処による呼出し前の帰国は不適切だ」との立場を守っていた。ファン首席については「言論の自由の尊重が国政の哲学」だとして辞任観測を否定していた。
しかし与党に対するソウル・首都圏の世論が悪化したことで「首都圏危機論」が広がっていることから、大統領室もハン委員長の要求に応じざるを得ないとの判断に至ったとみられる。
実際に、今月10日のイ大使の出国後の12~14日に行われた韓国ギャラップの3月第2週の世論調査では、国民の力の支持率はソウルで30%と、直前の調査(5~7日)に比べ15ポイント下落。一方、共に民主党のソウルでの支持率は8ポイント上昇(24%→32%)。仁川(インチョン)・京畿道では、3月第1~2週の国民の力の支持率は、民主党に6~7ポイントのリードを許している(中央選挙世論調査審議委員会のウェブサイト参照)。大統領室の関係者は「(大統領は)大局的に判断したようだ」と述べた。与党の関係者は「総選挙まで残りわずかなので、国民世論に沿ってイ・ジョンソプ、ファン・サンムを整理していくということ」と述べた。
「イ大使帰国」、「ファン首席辞任」が伝えられると、ハン・ドンフン委員長はこの日、京畿道安養(アニャン)の街頭演説で「本日すべて解決された。国民の力と尹錫悦政権は運命共同体」だと述べ、国民の力への支持を訴えた。そして「私たちは民意に順応しようと努める政党であり、民主党はそうではなく民意を拒否する政党だ。その違いをこのような状況が明確に示している」とし、民主党に対する攻撃の手綱も改めて引き締めた。
しかし対立の火種は依然として残っている。与党内ではこの日、首都圏の候補を中心として、イ大使は早期帰国にとどまってはならず、任命の撤回や辞任が必要だとの声があふれた。
キム・ハギョン議員(京畿道安城(アンソン)、当選4回)はCBSラジオに出演し、「残念だが国のために辞任して帰国」すべきだと述べた。首都圏の別の候補も「早期帰国が実現して幸いだが、次のステップを踏むべき。総選挙の民意を考慮すれば辞任が答えではないか」、「国民の目線が辞任や解任なら、それに従うのが正しいのではないか」と語った。