療養病院を違法に開設して国民健康保険公団から22億9000万ウォンあまりの療養給付金を不正に受け取った疑いで裁判中だった尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の義母のチェ・ウンスン氏(76)の無罪が確定した。この事件で、同業者全員の有罪判決が確定してから5年9カ月かかった。有罪の疑われる部分はあるものの、検事がこれを十分に立証できていないとの趣旨だ。
最高裁2部(主審:イ・ドンウォン判事)は15日、特定経済犯罪加重処罰法の詐欺および医療法違反の疑いで起訴されたチェ被告に無罪を言い渡した原審を確定した。A4で1枚あまりの最高裁の判断は、控訴審の無罪の論理を全て認める内容だった。チェ氏自身が2億ウォン(約2080万円)を投資し、設立許可書類と病院の建物の契約書に捺印した療養病院が「違法に開設・運営されていた事実をチェ氏は知っていたのか」を、検事は証明できなかったということだ。
チェ氏はJ氏ら3人の同業者と共に2013年2月、京畿道坡州市(パジュシ)に療養病院を開設し運営に関与することで、同年5月から2015年5月までの間、国民健康保険公団(健保公団)から22億9420万ウォン(約2億3900万円)の療養給付を不当に受給していた疑いで起訴された。
この事件は「非医療人が違法に開設した、いわゆる『事務長病院』であることが疑われる」という健保公団の捜査依頼で発覚した。警察は2014年10月に捜査を開始し、チェ氏を除く同業者は2017年3月までに全員有罪が確定した。主犯格のJ氏には懲役4年の実刑が言い渡された。しかしこの過程で、チェ氏は立件すらされなかった。「検事である婿」が影響力を行使したのではないかと裏ではささやかれた。2020年4月に尹錫悦検察総長(当時)と衝突していた共に民主党のチェ・ガンウク議員が義母であるチェ氏を告発したことで、警察の捜査開始から5年6カ月が経過してようやく再捜査がはじまった。ソウル中央地検は2020年11月、チェ氏を起訴した。
昨年7月、一審は「療養給付の詐取によって健康保険財政の悪化を招き、誠実な加入者の負担を増やすなど、罪質が不良だ」としてチェ氏に懲役3年を言い渡し、法廷拘束した。一方、控訴審は今年1月、同じ事実と証拠について異なる判断を下し、無罪を宣告した。
控訴審はまず、チェ氏の同業者が2014年5月に作成してチェ氏に渡した「責任免除覚書」の性格について、真逆の判断を下した。同業者たちはチェ氏の要求に沿って「チェ氏は病院経営に全く関与しておらず、チェ氏には民事上、刑事上の責任を問わない」とする内容の覚書を書いた。一審は「(犯行に)関与していなければ、このような覚書を要求する必要はなかっただろう」と判断したが、控訴審は「同業者の資金詐取行為を見て、法的責任から逃れるために要求したものとみられる」と解釈した。
チェ氏の長女の夫であり尹大統領の妻の義兄にあたるY氏が、療養病院設立の直後から3カ月間にわたって同病院の行政院長として勤務し、職員採用や医療機器の購入などに関与したことについても、判断が分かれた。一審はチェ氏がY氏を通じて病院運営に深く関与したと判断したが、二審はY氏の勤務期間が3カ月に過ぎないことなどをあげ、病院運営に深く介入したとは考えにくいと判断した。
チェ氏は同業者と共に療養病院の建物の購入契約にかかわっているが、控訴審は「チェ氏は契約の具体的な内容を知らずに、あらかじめ作成された契約書に署名しただけだと考えられる」と判断した。いっぽう一審は「不動産取引経験が少なくないとみられるチェ氏が内容を全く知らなかったというのは納得しがたい」と判断した。チェ氏は自分の名前の一文字が使われている同病院の運営医療財団の理事長も務めたが、これも控訴審の判断ではあまり考慮されていない。
相反する証拠判断のうち、最高裁は最終的に控訴審の判断を選んだ。最高裁は判決文で「共謀関係は合理的な疑いの余地のないほど証明されなければならず、そのような証明ができないなら、たとえ被告人に有罪の疑いがあったとしても、被告人に有利に判断せざるを得ない」と述べた。適切な時期に捜査が行われていたなら、結果は変わっていたかもしれないわけだ。
最高裁のイ・ヒョンボク公報裁判研究官は「検事の証明が確信を持たせるまでに至らなかった場合、たとえ被告人の主張や弁明が矛盾していたり、釈然としない面があり有罪が疑われたとしても、被告人に有利には判断しなければならないという法理を再確認したもの」だと説明した。チェ氏側の弁護人は無罪確定後「チェ氏は主犯の詐欺行為による複数の被害者の1人だったが、政治家チェ・ガンウクらのむやみな告発により捜査と起訴がなされた。虚偽公訴事実に対する厳重な真相調査がなされるべき」だとする立場を明らかにした。