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朝鮮半島の核戦争危機、「恐怖のバランス」は可能なのか(2)

登録:2022-10-15 10:18 修正:2022-10-16 07:19
[ハンギョレS]カバーストーリー
今月9日、ソウル駅の待合室で市民が北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射のニュースを見ている/聯合ニュース

(1の続き)

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推測できない核戦争の危険性

 あるリスクの診断と対応は、そのリスクが発生する可能性と発生時の被害を同時に考慮するのが合理的だ。核戦争勃発の可能性は、いわゆる上昇(escalation)と「決断力の競争」(competition in resolve)という事前状況の悪化過程を通じて高まる。もしもこのような過程で南北または朝米間で核による威嚇を交換し、北朝鮮に対する先制攻撃が実行されれば、北朝鮮は「法に従って」核攻撃を敢行し、朝鮮半島で核戦争が勃発するというシナリオを描くことが可能だ。

 TNT1万5000トンの爆発力に相当する15キロトンの「戦術」核兵器が爆発すれば、暴風と熱が爆心から半径1キロメートル以内の人命と構造物を直ちに完全に破壊し、地形と構造物の堅固性に従って数キロメートル以内で致命的な被害を与えうる。上空数十~数百キロメートルで爆発しても発生する電磁パルス(EMP)の指向性により、人命殺傷とともに電力送配電システムと電子機器を無力化することができる。放射能の落下や原子力発電所の爆破時の汚染拡散問題も深刻だ。要するに、初期核攻撃を交換すれば、全社会が麻痺し、その後正常な軍事作戦と国家運営がほとんど不可能になる。

 戦争中の核爆発被害の歴史的事例は、唯一、日本の広島と長崎のケースのみだ。両都市で人口の30%にのぼる約20万人の人命被害が発生し、1950年代までに被爆後遺症で少なくとも10万人が死亡したという評価もある。最近ではコンピューターシミュレーションが発達し、参考になる核爆発被害推定がインターネットで様々な方法で公開されている。例えば、300キロトン爆弾が米ニューヨークのマンハッタンで爆発した場合、即死者は80万人程度と予測されている。

 米議会報告書は、北朝鮮が約60個の戦術および戦略核弾頭を保有していると推定している(米国議会調査局(CRS)レポート、2020年7月14日)。全面核戦争が勃発すれば、北朝鮮は保有するすべての核兵器を使用して韓国、米国、日本を攻撃し、米国もそれに相応する核兵器で北朝鮮を破壊するだろう。狭い国土で数十発の核爆弾が爆発してもたらす惨状と後禍は、これ以上詳しく記述できない。

先月23日、米原子力推進空母「ロナルド・レーガン」が釜山作戦基地に入港している/聯合ニュース

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「平和」が答えであり、皆が知っている

 核戦争の抑止は、共に滅亡する恐怖に基づく理性的判断力が正常に作動してこそ可能だ。しかし、人間はそれほど理性的ではないため、この「恐怖のバランス」は不安で不安定なバランスでしかない。

 北朝鮮は自分より国力が数十倍から数百倍に達する韓米日3国を相手に、生存のためのもがきを見せている。核兵器政策を具体的に法令化して公開したのも、そこに提示した条件を作ってくれるなという嘆願とみることもできる。実際、北朝鮮のミサイル試験は多くの場合、韓米の軍事行動が行われた後に実施されたことからして、相手の「挑発」に対する対応という性格が強い。そのような観点から、北朝鮮の7回目の核実験も状況悪化と関係なく先制的に実施する可能性は高くないとみられる。

 核戦争の危険性を「恐怖のバランス」という観点から防ごうとするならば、その過程で払わなければならない費用は莫大だ。第一に、南北は軍拡競争で多額のコストをかけ、より大きなリスクを買うジレンマを抱えていかなければならない。第二に、韓国の対米依存が深まり、周辺の大国の戦略的利益に南北が利用され犠牲になりかねない。第三に、最も重要な南北関係の回復と朝鮮半島共同体の平和と繁栄が不可能になる。

 答えは決まっており、皆が知っている。戦争を防ぐ最善の方法であり、核戦争を防ぐ唯一の方法は平和だ。平和の制度化であり、そのための対話だ。米国が希望するといっている北朝鮮との「条件のない対話」と、尹錫悦政権が明らかにした「大胆な構想」を同時に実現するために、韓国と米国がまず平和の雰囲気を大胆に造成していかなければならない。米国はレトリックだけで生きることができるが、韓国はそれによって死にかねない。

ムン・ジャンリョル|国防大学元教授・韓国軍事問題研究院客員研究委員

https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/1062765.html韓国語原文入力:2022-10-1509:00
訳C.M

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