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[寄稿]「核使用」掲げる金正恩委員長の戦略感覚

登録:2022-09-17 06:56 修正:2022-09-17 07:56
キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授
北朝鮮の金正恩労働党総書記兼国務委員長が8日、平壌の万寿台議事堂で開かれた最高人民会議第14期第7回会議で、施政方針演説を行っている/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 昨年10月に平壌(ピョンヤン)で開かれた「国防発展展覧会『自衛-2021』」で、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は「我々の主敵は戦争そのものであり、南朝鮮や米国など特定の国や勢力ではない」と述べた。「我々は決して南朝鮮を狙って国防力を強化するわけではない」と強調した金委員長は、核兵器で韓国を先制攻撃しない考えも明らかにした。核武力の目的は「戦争での勝利」ではなく「戦争抑止」にあるという意味だ。核兵器の破壊力に対する破滅の恐怖がもたらした秩序、すなわち冷戦で、核は存在するものの使用できない兵器だった。冷戦期に一群の戦略家たちは「核は使わない時、むしろ戦略的価値が高まる」とし、これを核の「影の政治」だと評した。昨年、金委員長が示した戦略感覚は冷戦以来定説となっていた抑止理論に基づいている。

 今年4月25日、金日成広場で開かれた軍事パレードで、金委員長は突如「北朝鮮の核武力の基本使命は戦争を抑止することにあるが、望まない状況が作られるまで核が戦争防止という使命のみに縛られてはならない」と述べ、劇的な転換を示唆した。「いかなる勢力であれ、北朝鮮の根本的な利益を侵奪しようとするなら、核武力は次の使命を決行せざるを得ない」とし、積極的な核使用の意志を示した。9月8日、最高人民会議で行った金委員長の施政方針演説は、核兵器に対する指揮統制と使用条件を具体的に明示した核武力政策法の制定につながった。北朝鮮政権の首脳部が攻撃を受ける兆しが見える場合、あるいは北朝鮮が大規模な攻撃の脅しを受けた場合でも、「核攻撃が自動的に即時断行される」と法律に明記したのだ。

 金委員長のこのような戦略の変化はなぜ起きたのだろうか。冒険的な衝動が金委員長を突き動かしたのだろうか。視野を世界に広げてみよう。北朝鮮の軍事パレードが開かれたその日、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はロシア国営放送とのインタビューで、「核戦争の危険は実在し、非常に深刻な水準だ」と述べた。3月のプーチン大統領の核準備態勢の発令に続き、冷戦時代の抑止理論の枠組みにとらわれず、実戦で戦術核兵器を使用できるというシグナルだった。この頃、西欧の戦略家たちは、米国の10倍に達する2000基以上の戦術核弾頭を保有しているロシアが、欧州を脅かすために自国の西部にこれを前進配備する可能性があるという見通しを示した。いつの間にか核は影ではなく実在する脅威となり、核戦争の敷居は大幅に低くなった。

 米国もドナルド・トランプ大統領時代、低出力核兵器または非戦略的核兵器と呼ばれる一連の核開発に着手した。航空機によって投下される核重力爆弾、核巡航ミサイル、潜水艦発射用短距離核ミサイルなどがそれだ。実戦で使用される可能性の高い核兵器を保有しようという発想の転換だった。ジョー・バイデン米大統領がひとまず開発を止めたが、トランプ大統領の核政策は韓国に大きな影響を及ぼした。米国の低出力核兵器と韓国軍の3軸体系が結合すれば、北朝鮮に対する実効性の高い抑止力、すなわち拡大抑止が可能になるとみた韓国の戦略家たちは、米国と戦術核共有、オーダーメード型抑止戦略と呼ばれる核使用戦略に傾倒した。4月、防衛省防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長は、日本メディアとのインタビューで、「核抑止の考え方も『核は存在していれば抑止力になる』から『使用を前提にしなければ抑止力にならない』に変わりつつある」と主張した。日本に原爆を投下した第1の核時代、冷戦時代の核の影からなる第2の核時代に続き、今は核を使おうとする第3の核時代が迫っているという主張だ。最近、日本は敵基地への攻撃能力の確保、米国の戦術核の共有など、新たな防衛政策を模索している。

 北朝鮮にこのような変化を捉える戦略感覚がなければ、それこそ驚くべきことだ。北朝鮮は国際情勢が「激変」しているとし、核に関する最新動向を機敏に収集して戦略を整えてきた。いったん核を保有すれば使いたい衝動は強大国だけの話ではない。ロシアと戦略的連帯で現在の困難を脱出しようとする北朝鮮は、これまで作り上げた原則を自ら破り、ロシアより先制的かつ積極的な核戦略に修正した。実際、核戦争を覚悟してこそ、相手を制圧できるという戦略感覚だ。 戦争で負けるくらいなら「地球を爆破してしまおう」という先代の戦争遺伝子が、現代的に進化している。

//ハンギョレ新聞社
キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1058796.html韓国語原文入力:2022-09-16 02:39
訳H.J

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