冷戦時代、人類は核戦争の恐怖に震えながらも、核抑止戦略と多様な核軍縮交渉を通じて戦略的な安定を築き上げた。いわゆる冷戦のパラドックスだ。しかし長期化しているウクライナ事態が、これまで70年以上も続いてきた「核のタブー」というパンドラの箱を揺さぶり始めた。特に、低出力戦術核兵器使用の可能性が可視化したことで、世界各地で議論が巻き起こり、懸念が高まっている。ウクライナ事態が北東アジアの核ドミノという「バタフライ効果」を誘発するかもしれないという憂慮の声もあがっている。
その発端となったのはプーチンだ。これまでの国際的な核秩序を脅かし、核兵器使用の可能性を公然と暗示している。ウクライナ侵攻から4日目にして西側の軍事的脅威を理由に核警戒態勢を取ったほか、先月9日には公の場に「核カバン」を持った政府要員とともに登場した。プーチン大統領を含むロシア指導部は「国家存立が脅かされた場合は、核兵器を使用できる」というシグナルを繰り返し西側諸国に送っている。戦勢が不利になったり、西欧が軍事的に介入した場合、核兵器を使用できるというニュアンスだ。ビル・バーンズ米中央情報局(CIA)長官も最近、ある講演で、ロシアが戦術核兵器または低威力核兵器を使用する可能性を排除しないと述べた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の発言も核ドミノ現象を後押ししている。2月19日、ミュンヘン安全保障会議に出席した彼は、「ウクライナが旧ソ連時代に保有した核兵器を放棄すれば、安全を保障する」とした1994年のブダペスト覚書の約束を西側(米国と英国)が守らなかったと批判し、自国の安全のために核保有を強く希望している。
皮肉なことに、このような流れは、北朝鮮が固守してきた核武装の正当性と戦術核の有用性を裏付けるものでもある。これまで北朝鮮は、イラク戦争とリビア事態を見て、核武装だけが生き残る道だという認識を強めてきた。ウクライナの今は、そのような思考に決定的証拠を与える。「わが核武力の基本使命は戦争を抑止すること」にあるが、「いかなる勢力であれ、わが国の根本利益を侵奪しようとするなら、わが核武力は二番目の使命を決行せざるを得なくなるだろう」という軍事パレードでの金正恩(キム・ジョンウン)の発言は、これを如実に示している。ロシアのように核兵器を先制的に使用することもあり得るという暗示だ。さらに北朝鮮官営メディアは先月16日、新型戦術誘導兵器の発射実験の意義が「戦術核運用の効果性と火力任務の多角化の強化」だと規定した。これは朝鮮半島の域内で戦術核を実戦戦力として活用するという核教理が具体化していることを意味する。
日増しに強化される北朝鮮の核戦力と教理は、国内の核武装世論を大きく刺激している。カーネギー財団とシカゴ国際問題協議会(CCGA)の最近の世論調査によると、韓国の回答者の71%が、北朝鮮だけでなく中国の脅威に備えるためにも韓国が独自の核武装をすべきだと答えた。広島と長崎の悲劇を経験した日本も、今は反対世論が強いが、ロシアや中国、北朝鮮に続き韓国まで核武装に乗り出せば、その流れに追随するだろう。 この場合、台湾の核武装も避けられない。域内のすべての国家が核戦力で互いを威嚇する「核ドミノ現象」は、我々にとって悪夢として訪れるだろう。
ワシントンの論客の一部が韓国の核兵器保有に友好的な態度を示してきたのは事実だ。しかし、米政府を含むワシントン主流の反対は全く揺るぎない。彼らにとって、韓国の核武装と韓米同盟は共に進められるカードではない。核兵器不拡散条約(NPT)に象徴される国際的な不拡散体制は依然として確固たるものだ。その枠組みを越えた瞬間、もう一つの北朝鮮に転落し、経済制裁と外交的孤立を余儀なくされるだろう。要するに、核武装は韓米同盟あるいは経済的繁栄と二者択一の関係にある。前者を選択した瞬間、後者を維持する方法を探すのは規範的であれ現実的であれ、困難を極めることになるだろう。
北朝鮮核問題に代表される核拡散と、ロシアの脅威に象徴される核使用可能性の増加が、すべての国家の不安を刺激していることは否定できない。 しかし、韓国の国益は依然として北東アジアでの核ドミノを防ぎ、戦略的安定を維持することにある。だからこそ、各国が先を争って核武装に乗り出す状況を阻止するための予防外交が韓国の政策的志向点でなければならない。これはまた、韓国と米国が共有できる同盟の最優先価値でもある。急速に強まる核拡散圧力を下げようとする域内の多国間協議体の稼動は、その出発点になるだろう。膠着状態にある北朝鮮核交渉の早期再開は、さらに重要な軸だ。世界各地で核兵器の影が色濃くなっている今、時間は誰の味方でもない。