本文に移動

「名誉殺人の危機」パキスタンの夫婦、韓国で初の難民認定…その意味は

登録:2022-04-21 03:04 修正:2022-04-21 08:34
結婚めぐる名誉殺人の危機で初の難民認定例 
裁判所「家族の反対する結婚をしたことで脅されるのは迫害にあたる」
ゲッティイメージバンク//ハンギョレ新聞社

 ソウルのある大学院で修士課程に在籍していたパキスタン出身の留学生Aさんは、2016年3月、パキスタンにしばらく滞在し、今の妻のBさんに会って結婚を約束した。しかし、Bさんの家族はAさんの身分(カースト)が異なることなどを理由として結婚に反対し、母親と叔父は「家の名誉を汚した女」と非難し、Bさんを暴行した。耐えきれずに2人が共に逃げると、Bさんの家族はBさんを探し出して強制的に家に連れ戻そうとし、Aさんの家族を拉致して暴行を加えたり、脅迫したりもした。AさんとBさんはパキスタン警察に助けを求めたが、Bさんの家族から賄賂を受け取った警察は「法廷で家族に暴行を受けたと供述すればAさんを殺す」とBさんを脅してもいる。家族の脅迫は、2人が2016年8月に韓国に留学生とその配偶者という滞在資格で入国した後もやまなかった。2人は2019年3月に難民申請をした。

 家族の反対する結婚をしたという理由で家族から殺すと脅されていた(名誉殺人)パキスタン出身の夫婦に対し、裁判所は初めて難民としての地位を認めた。裁判所はこれまで、これと似た難民申請事件において「家族内部の問題だ」、「本国に助けを求るべき」などの理由をあげ、難民申請を認めていなかった。今回の判決が確定すれば、結婚などにより名誉殺人の危機に瀕している難民申請者にも難民としての地位が認められる道が開かれるとみられる。

 ソウル高裁行政1-1部(シム・ジュンボ裁判長)は19日、AさんとBさん夫婦が難民としての地位認定を求めて起こした難民不認定決定取消訴訟の控訴審で、一審判決を覆して原告勝訴の判決を言い渡した。裁判所は、2人がパキスタンの家族からの継続的な脅迫と暴行にさらされており、パキスタンでは毎年数百件の名誉殺人が行われていることをあげ、「パキスタンに戻れば迫害を受ける恐れがあるという、十分な根拠ある恐怖を感じている人たちにあたる。パキスタン政府や捜査・司法機関には、彼らに効果的な保護を提供する意思や能力が十分にない」とし、彼らを難民と認めるべきだとの判決を下した。

 法務部仁川(インチョン)出入国・外国人庁と一審は「家族が反対する恋愛結婚をしたため、本国に戻れば名誉殺人に遭う恐れがある」という彼らの主張を受け入れていなかった。難民法や難民条約などは、「特定の社会集団の構成員としての身分」または政治的見解を理由として迫害を受けるとの十分な根拠があれば、難民と認めると規定している。「特定の社会集団の構成員としての身分を理由とした迫害」とは、多数集団と対立する性別、理念、アイデンティティを持っているという理由で迫害されることを意味する。男性中心社会において、女性である、あるいは同性愛者であるという理由で迫害される、などが代表的な例だ。

 一審は、彼らの恋愛結婚はこのような迫害にはあたらないと判断した。一審は「彼らを脅かしているのは一部の過激な家族構成員にすぎない。これは私人の犯罪行為に過ぎず、パキスタンの司法制度を通じて解決すべきだ」とし、彼らを本国に送還すべきとの趣旨の判決を下した。夫婦側は「家父長文化が強く残っているパキスタンにおいては、女性が家の反対を押し切って結婚すれば名誉殺人の標的になる可能性が高く、パキスタンでは現在も毎年1千人以上の名誉殺人被害者が出ている」と指摘したものの、一審はこれを認めなかった。

 いっぽう二審は、夫婦は迫害にさらされているとして、彼らの難民としての地位を認めた。控訴審は「難民申請者が家族の意思に反して社会階級の異なる相手と結婚したという理由で、生命、身体に対する脅迫などの、人間の本質的尊厳に対する重大な侵害や差別が生じている場合は、難民条約のいう迫害にあたる」とし、一審より幅広く迫害を解釈した。Aさん夫婦が感じている名誉殺人の脅威は、パキスタンの社会的状況に照らせば十分起こり得ることで、パキスタン政府がAさん夫婦を適切に保護するとは思えないことなどをあげ、「原告の難民認定申請を不許可とした処分は違法だ」と判決した。

 ソウル大学法学専門大学院公益法律センターのキム・インヒ弁護士とともにAさん夫婦の代理人を務めたキム・ジョンチョル弁護士は、「結婚をめぐる社会規範に背いたとの理由で名誉殺人にさらされている人を難民と認めた最初の事例であり、名誉殺人の背後にある家父長的な社会規範の存在を認めたという意味がある。迫害の範囲を広く認め、性的自己決定権および結婚の自由を含む自由に対する脅威も迫害とみなしたわけだ。この判決が確定すれば、家族同士の名誉殺人事件についての良い前例になりうると思う」と述べた。

シン・ミンジョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/1039722.html韓国語原文入力:2022-04-20 16:46
訳D.K

関連記事