<韓国の法廷には窓がない。明るい日差しが差し込む法廷は、映画やドラマの中だけに存在する。外部と遮断されたこの空間で、毎日多くの人々のため息と歓声が交差する。数行の判決文によって平坦だった人生が大きく揺れたり、自らどうしようもなかった誰かの人生は転換点を迎えたりもする。誰も注目しない普通の人々の裁判は、隣人をもう少し深く理解できるきっかけになるかもしれない。平凡な人々の裁判が開かれる法廷に小さな窓を開けようとする理由だ。>
ピンクのマスクをしたチョン・ミスクさん(仮名、51)が先月末、ソウルの法廷に立った。弁護士にも頼らず、一人で法廷に出てきたチョンさんはずっとうなだれていた。自分の裁判を待ちながら傍聴席に座っている時も、被告人席から判事の質問を受ける時も、頭を上げなかった。彼女は時折涙を拭き、長い溜息をついた。
ソウル冠岳区(クァナクグ)でカラオケ店を経営するチョンさんは今年6月、集合禁止命令を違反し、商売をしていたとして(感染症予防法違反)裁判にかけられた。彼女は罰金200万ウォン(約19万3千円)の略式命令を受けたが、罰金が負担になるとして正式裁判を求めた。社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)で数多くのカラオケ店が直撃を受けた。彼女が弁護士も選任せず法廷に立ったのも、そのためだろう。
チョンさんは公訴事実を全て認めた。検事が提出した証拠にも同意すると述べた。検事は略式命令と同様、罰金200万ウォンを求刑した。裁判が終わる前の最終陳述で、チョンさんはこう語った。「法律を違反したのは事実です。生活が苦しく、違反してしまいました。すみません」。彼女は頭をあげなかった。裁判は10分足らずで終わった。一週間後に開かれた宣告公判で、裁判所はチョンさんに求刑通り罰金200万ウォンを言い渡した。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のためのソーシャル・ディスタンシングが長期化するにつれ、法廷で感染症予防法違反の疑いで裁判にかけられた自営業者などをよく見かけるようになった。防疫のため商売の自由などがかなり制限され、コロナ禍以前は当たり前だった日常の一部が犯罪になる場合もある。
ソウル鍾路区(チョンノグ)で居酒屋を営むイ・サンヒョンさん(仮名、32)も感染症予防法違反の疑いで起訴された。今年5月、防疫規則を違反し、客7人に酒を販売して摘発されたのだ。イさんは法廷で「無念を訴えたい」と話した。「自営業者への営業制限は、私のように零細な居酒屋を経営する人にとってはもっと過酷で不公平です。法律を破り、過ちを犯したのは重々承知していますが、もどかしく悔しい部分が多くて、正式裁判を請求しました」
社会人になって間もない人たちも、法の審判台に上っている。ソウル市江南区(カンナムグ)のある塾で講師を務めるチョ・ヒョヌさん(仮名、31)は今年8月、集合禁止命令に反し、夜10時以降に学生を対象に講義をしたとして、起訴された。勤労契約書を書いていない塾講師は自営業者に分類される場合もある。チョさんは裁判で、「社会人になったばかりで、給料をもらうものとしての責任感に加え、生計が苦しく、過ちを犯してしまった」として、善処を求めた。検事は罰金50万ウォン(約4万8千円)を求刑した。イさんとチョさんは、来月に予定されている判決公判を待っている。
感染症予防法違反の疑いで処罰された自営業者の数は確認されていない。ただし、警察の司法処理の現状を基にその規模を大まかに推測することはできる。共に民主党のシン・ヒョニョン議員が警察庁から入手した資料によると、昨年1月から今年6月まで、新型コロナ関連の感染症予防法違反で警察が司法処理したか、または捜査中の人たちは計6821人。このうち、チョンさんなどの集合禁止命令に違反した事例は計4697人で、全体の68.9%を占める。彼らの多くが自営業者とみられる。さらに自主隔離違反が25.0%(1702人)、疫学調査妨害が4.1%(278人)、その他違反が2.1%(144人)の順だった。終結事件のうち84%(4124人)は検察に移管された。
検察は感染症予防法違反事件を通常の刑事事件より厳しく扱っている。起訴率と公判請求率が一般の刑事事件より高い。民主社会のための弁護士会(民弁)の研究会(新型コロナと人権研究会)がまとめた報告書「新型コロナ関連の司法処理の現状と問題点」によると、昨年1月から今年4月までの感染症予防法違反の被疑者に対する検察の起訴率は39.8%(2744人)で、最近5年(2016-2020年)の検察の全体事件起訴率(29.6~34.7%)を上回った。容疑が比較的軽い場合、検察が正式公判なしに罰金や科料などの判決を請求する略式命令ではなく、正式裁判にかける「公判請求」の割合も43.7%で、過去3年(2017年-2019年)の全体の公判請求率(24.1%から29.5%)を大きく上回った。検察の処罰意志が反映されたものと見られる。
個人の自由と基本権よりも防疫に重きを置く基調は裁判所も同じだ。民弁が昨年2月から今年6月にかけて、感染症予防法違反の刑事確定判決566件を全数調査した結果、罰金刑が言い渡された事例は78%(439件)で、懲役刑の判決は22%(126件)だった。大半が刑事処罰を受けたのだ。無罪はたった1件だった。民弁は「自主隔離から離脱した時間が極めて短かったり、追加伝播がないなどの軽微な違反、生活必需品の不足などやむを得ない事由による違反にもかかわらず、裁判所は例外なく罰金刑を科した」とし、「多くの判例から防疫による基本権制限を当然視する裁判所の認識がうかがえる」と指摘した。
国連人権機関はコロナ禍初期から「防疫措置違反を刑事処罰することは最後の手段として考慮しなければならない」という原則を強調してきた。しかし、韓国社会全般には厳罰主義が定着し、新規感染者数の増加と共に、処罰を受ける人々も増えている。今月に入って一日の新規感染者数が7000人を超えたことを受け、政府は1カ月半で段階的な日常回復(ウィズコロナ)を中止し、ソーシャル・ディスタンシングのレベルを上げ、自営業者に対する規制を再び強化した。営業は制限され、損失補償は遅れている状況で、自営業者が選べる道はあまりない。今月22日、光化門(クァンファムン)広場に集まった全国の自営業者300人余りは「普通に暮らしたい」と叫んだ。