新型コロナウイルスの新規感染者が5000人を超えた中、オミクロン株流入の可能性まで高まったことで、韓国の医療システムがこれに耐えられるかが懸念されている。在宅治療の基本化や病床の追加確保などの政府の対策にもかかわらず、重症患者病床の稼働率は急激に高まり、限界に直面している。医療崩壊を防ぐためには、社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)の強化などの、感染者を減らす対策が並行されるべきだとの指摘が出ている。
非常計画発動基準を超えた重症患者病床の稼働率
1日の中央防疫対策本部の集計によると、前日午後5時現在の全国の重症患者病床の稼働率は78.8%。1週間前の先月24日(66.2%)から12ポイントを超える上昇だ。首都圏の状況はさらに深刻だ。重症患者専門病床の稼動率は89.2%で、前日より0.7ポイントの上昇。ソウルは90.7%で、京畿道も87.6%、仁川(インチョン)も88.6%と90%に迫る。大田(テジョン、100%)、忠清北道(97.6%)、忠清南道(92.1%)など、首都圏に近い非首都圏地域の病床稼動率も臨界値にあるため、首都圏の患者を非首都圏に移送するのも容易でないのが実情だ。政府は先月1日に段階的日常回復を開始しつつ、重症患者病床の稼働率が75%を超えれば非常計画を検討すると明らかにしていた。先月28日にはすでに全国の重症患者病床の稼働率が基準を超えたが、政府は「過去に戻ることはできない」として現体制を維持している。
政府は重症患者病床の稼働率を下げるために病床確保行政命令などを下しているが、病床稼働率の上昇には歯止めがかかっていない。中央事故収拾本部のソン・ヨンレ社会戦略班長は「これまでに下した行政命令と自発的な参加を通じて、12月中旬までに重症病床50床、準重症病床190床を含む1300床を追加確保できると見ている」とし「病床を確保するほか、重症患者の在院期間を短縮するなどの方法で、重症患者の診療に支障がないよう最善を尽くしている」と説明した。
政府は病床確保に力を入れているが、現場はこれ以上絞り出せる余力がないと口をそろえる。日常回復支援委員会(日常回復支援委)防疫・医療分科委員のイ・ジェガプ翰林大学江南聖心病院教授(感染内科)は「現場では今、コロナ患者が増加し、死者も増えたことで、コロナで死亡した患者の遺体が火葬場がないため病院で待機しており、霊安室の冷凍庫が不足する状況にまで至っている」とし「医療機関は大変なのに政府は深刻だと言うばかりで何もしていない」と批判した。
コロナ重症患者が多くの集中治療室を使用していることから、現場からは「生きられる人だけを救おう」という声すらあがっている。大韓重症患者医学会はこの日、談話を発表し、その中で「病床が絶対的に不足している状況で、回復の可能性などについての適切な考慮なしに行われている現行の病床割り当て方式は、回復の可能性が高い患者の治療まで妨害している」とし、「国際的に回復の可能性が極めて低いと合意された患者の集中治療室への入室を制限することについて、積極的な検討が必要だ」と提案した。回復の可能性が極めて低いと合意された患者とは、末期臓器不全、重症の外傷や火傷、深刻な脳機能障害、末期がんの患者、生命を脅かすほどの重度の身体疾患を有する人、生存が困難な瀕死状態の患者などを指す。これについてイ・ジェガプ教授は「蘇生可能な人を選別して治療しなければならないほど、今は危険な状況だということ」とし「誰を先に入院させるのかの優先順位と責任所在をどうするのかなどについて議論する倫理委員会を設置すべき」と指摘した。
病床確保行政命令よりコロナの流行規模の抑制を
専門家は、空き病床に対するインセンティブや病床確保行政命令を発動するよりも、まずはコロナの流行規模を抑制することで、医療スタッフや防疫システムを整備する余力を蓄えるべきだと提言する。日常回復支援委防疫・医療分科委員のチョン・ジェフン嘉泉大学医学部教授(予防医学)は「流行が拡大すれば感染者も増加せざるを得ない。来週と再来週には状況がさらに悪化するだろう」とし「今からでも流行規模を抑制するために人と人との接触を減らす政策が打ち出されなければならない。(国民に)シグナルを送ることが重要だ」と指摘した。イ・ジェガプ教授は「小商工人が店を開いても、5000人以上の感染者が出る状況においては、消費心理は冷え込まざるを得ない」とし「今日にでも非常計画を発動して自営業者に確実に損失補償すれば済むものを、政府は難しく考え過ぎている」と指摘した。
政府が「コロナ集団免疫」が可能になるとしていた予防接種率80%が1日に達成されたが、コロナの拡散は過去最大規模となっている。免延力の落ちた高齢層を中心として突破感染(ブレイクスルー感染)が相次いでいるためだ。これは、デルタ株が拡散した時期に、国民全体の予防接種率を高めることよりも免疫脆弱層を中心とした追加接種(ブースターショット)の方を急ぐべきだとした専門家たちの指摘に目をつぶってきた結果だ。専門家は、政府は追加接種を急ぐことと並行して、免疫力が備わる4週間の空白を埋めるための最小限の対策を講じるべきだと強調する。イ・ジェガプ教授は「デルタ株が国内で流行するまでに2~3カ月かかったことを考慮すれば、オミクロン株が国内に広まる前に、高齢者はもちろん小児・青少年と全国民の追加接種を済ませることで対応しなければならないだろう」と説明した。現在、追加接種を終えているのは対象者の22%(322万人)のみ。
政府は、早ければ今週にも防疫を強化するかどうかを決める方針だ。中央災害安全対策本部のチョン・ヘチョル第2次長はこの日、私的会合の人数制限、食堂・カフェ利用時の未接種の人数制限、防疫パス適用対象の拡大などを内容とする防疫強化について「今週中に日常回復支援委員会で議論し、その結果を国民の皆さんにお伝えする」と述べた。