韓国政府は29日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が主宰する「特別防疫点検会議」を開き、新型コロナの特別防疫対策を打ちだした。「段階的な日常回復」(ウィズコロナ)の2段階への移行を見合わせ、4週間にわたるブースター接種(追加接種)の拡大、病床の追加確保、在宅治療中心の医療対応システムへの転換などの後続措置に乗りだすという基本方針だ。しかし、首都圏の私的な集まりの規模縮小や、防疫パス(接種完了・陰性確認制)の拡大など、流行の拡散を抑制する措置は含まれなかった。はたしてこの程度の対策で現在の危機状況を乗りこえることができるのか、心配になる。
政府が打ちだした対策は、「ウィズコロナ」の基本方針の維持に重点が置かれている。文大統領もこの日の特別防疫点検会議で、「ようやく開始したウィズコロナを取りやめ、過去に後退することはできない」と明らかにした。事情がそうであるのを見ると、今後4週間で推進するとした措置も、「特別対策」とみなすにはあまりにも中途半端だ。何より、足元に火がついている重症患者の増加と重症患者用病床の不足の問題を解決するために、すぐに効果を出せるだけの対策は見えない。高齢層へのブースター接種には3~4週間の時間を要するうえ、在宅治療は重症患者問題の解決策にはならないからだ。病床確保も目新しさに欠ける。多くの専門家は、高齢層へのブースター接種の効果が現れるまでの4週間の間は、人々の接触を減らすことが必要だという意見を出したが、今回の対策にはまったく反映されなかった。特に、防疫当局がこの日、全国単位の新型コロナの週間危険度を、最高段階の「非常に高い」と評価したのにもかかわらず、すぐにリスクを下げるような対策を打ちださないのは理解できない。
現在の新型コロナの流行状況は、「危機」という言葉では足りないほど厳しい。重症患者は5日連続で600人台を記録し、死亡率も次第に高まっている。全国の重症患者病床の稼動率は、ウィズコロナを一時中断する「非常計画」発動の検討基準である75%をすでに超えた。首都圏の重症患者病床の不足問題を解決するため、非首都圏に重症患者を移送する「泥縄式の対応」をとったためだ。新たな変異ウイルスの「オミクロン株」が全世界に広がる兆しを示していることも懸念を強めている。
事態がこのような状況に陥ったのは、政府の誤った判断と安易な対応によるものが大きい。政府は、高いワクチン接種率だけを信じ、ウィズコロナにともなうリスクを過小評価した。そうしたなか、病床確保に消極的な対応をしてきた。ブースター接種をためらっていたのも失策だ。災害状況における政府の試行錯誤は、多くの人命の被害につながりうるという点を、肝に銘じてほしい。