尿素水の品薄問題が広がり、大気汚染防止装置に尿素水を使用する火力発電所の稼動と電力供給に問題ないか懸念が生じている。メディアには10日、「韓国の尿素水、在庫はわずか1カ月分…火力発電所の15%が停止の危機」「暖房が急増する冬到来、尿素水による電力大混乱が迫る」という記事も登場した。火力発電所の15%が停止する危機のため、電力不足が生じることもあり得るというのは、事実なのだろうか。
まず、火力発電所の15%が尿素水を使用するというのは、産業通商資源部の公式説明とは違う。火力発電所から排出される窒素酸化物(NOx)を除去する窒素除去装置には、触媒として尿素水以外にアンモニア水や無水アンモニアなども用いられる。産業通商資源部は、韓国内の火力発電プラントの能力73ギガワット(GW)のうち、尿素水を使用するのは7.4GWだと明らかにした。全体の約10%に相当する。
尿素水を使用する発電所の尿素水の在庫が1カ月分程度しか残っていないというのは、産業通商資源部も認めていることだ。しかし、それには前提がある。尿素水の品薄問題前の使用量を基準にするならば、そのとおりだ。産業通商資源部の関係者は「現在、在庫が1カ月分しかないというのは、過去の基準に照らせばそのとおりだが、今後は尿素水を使用しない発電所をもっと稼働させたり、発電量の上限制約を解除すれば、在庫量の調整は可能だ」と述べた。
上限制約は、2019年から施行されている粒子状物質の季節管理制にしたがい、冬期に一部の石炭火力発電所の稼動を停止させ、粒子状物質が多い場合、すべての石炭発電所について出力を80%以上に上げられないよう制限することを指す。この制度により、昨年の冬(2020年12月~2021年2月)に全石炭発電所58基のうち9~19基の稼動が止められ、最大46基については発電出力に上限制約が加えられた。尿素水を使用しない大半の火力発電所に対する出力制限を解除し100%出力させれば、尿素水を使用する発電所は稼動を減らしても問題ない。尿素水の在庫量の使用期間を増やせるという話だ。電力取引所の資料によると、季節管理制にしたがい石炭発電所に対し稼動停止と出力制限が加えられた条件でも、2019年の冬(2019年12月~2010年2月)の最大電力需要発生日(2020年1月16日)の予備電力は12.4GW、昨年の冬(2020年12月~2021年2月)の最大電力需要発生日(2021年1月11日)の予備電力は8.6GWを記録した。
短期間に発電用の尿素水の在庫を増やすことが不可能な場合、空気汚染物の排出基準が許容する範囲内で尿素水の投入量を減らすことも可能だ。これまで発電所は、大気汚染を最小化するために、環境部が設定した排出基準値より半分ほど低い濃度まで窒素酸化物を除去し排出してきた。もし、排出濃度を法定排出基準値を破らない程度まで少し高めるのであれば、尿素水を減らして投入してもよい。この方法は、すでに一部の発電所で適用されているというのが、産業通商資源部の説明だ。
尿素水を使用する発電機から尿素水がすべてなくなった場合、発電機は停止するのだろうか。ディーゼル車は、排気ガス低減装置に尿素水が投入されていない場合、初めからエンジンがかからない。しかし、発電所は違う。発電所では、尿素水は、発電機ではなく発電後に排出される排出ガスを浄化する大気汚染低減装置に用いられる。尿素水が完全になくなれば、窒素除去装置が稼働を止め、大気汚染を悪化させることになるが、自動的に発電機が止まるわけではない。この場合、大気汚染の悪化を防ぐために発電機を止めるのか、電力供給のために動かし続けるのかは、政府と発電所の選択にかかっている。物流の大混乱を防ぐために大気汚染を甘受し窒素酸化物低減装置(SCR)を止める選択をしたくても、準備する費用と所用時間のため、選択が事実上不可能なディーゼル車の場合とは違う。
産業通商資源部は、関連報道に対する説明資料を出し、「尿素水の不足はただちには電力不足につながるものではない。尿素水の供給状況を綿密に調べ、電力供給に支障をきたさないよう、発電設備を安定的に運営する計画」だと明らかにした。