朝鮮労働党中央委員会のキム・ヨジョン副部長が22日、米国に対して「誤った期待は自身をより大きな失望に陥れるだろう」という反応を示したのは、逆に対話開始に向けた朝米間の“駆け引き”が始まったことを知らせるシグナルといえる。
キム副部長は同日午後12時に「朝鮮中央通信」で公開された「キム・ヨジョン朝鮮労働党中央委副部長談話」で、「米国の国家安保担当大統領補佐官が、我が党の中央委全員会議が今回明らかにした米国に対する立場を『興味深いシグナル』と見なしていると発言したという報道を聞いた。朝鮮のことわざに『夢よりも夢占い』(どんな夢も解説次第では良いものにも悪いものにもなり得る)というものがある。米国はどうやら、自らにとって慰めになる方向で受け止めているようだ」と述べた。
今回の談話は、ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官が20日(現地時間)、ABC放送とのインタビューで、「今週の彼(金正恩労働党総書記)の発言は興味深いシグナルだとみている。彼らがどのような形の、より直接的なコミュニケーションを取るのか、待ちながら見極めていきたい」と発言したことに対する北朝鮮側の初の反応だ。
キム副部長の談話は4行140字(本文基準)と非常に短い。金正恩(キム・ジョンウン)総書記が数日前に全員会議で明らかにした「国際情勢対応方向」同様、本格的な対米非難がない点が注目される。「米国と対話や交渉はしない」と拒否する表現も見当たらない。北朝鮮特有の宣伝扇動レベルの批判や非難を取り除き、言いたいことだけを、それも比較的解釈の余地がある抽象的な言葉を選んで談話を構成したということだ。それだけ真剣であり、頭の中が複雑であることがうかがえる。
北朝鮮側がキム副部長の談話で米国に送ろうとしたシグナルは、「我々が動くのを待っているのではなく、あなたたちが先にもっと動け」といった内容と言える。「待ちながら見極めていきたい」というサリバン補佐官の発言に続き、ソン・キム国務省北朝鮮政策特別代表が21日、22日とソウルで2日連続行なった「『いつでも、どこでも条件なしで会おう』という提案に、北朝鮮が前向きに反応することを望んでいる。今度は北朝鮮の番だ」とボールを北朝鮮に渡そうとしたところ、これを米国側に送り返したわけだ。荒っぽく言えば、現在の状況で北朝鮮側が対話・交渉の場に出てくると期待するのではなく、より具体的で進展した提案を示すよう、米国側に求めたい思惑が込められているものとみられる。
キム副部長の談話が、サリバン補佐官の発言の直後に出ており、ソン・キム代表のソウル訪問中に発表された事実は、北朝鮮が米国の行動に神経を尖らせていることを裏付けている。対米交渉の窓口であるチェ・ソンヒ外務省第1次官が3月18日の米国務・国防長官の訪韓に合わせて談話を発表し、ジョー・バイデン政権に対する見解を表明した例が思い出される。こうした事情から、キム副部長の談話は表向きの冷ややかさとは裏腹に、朝米対話の時期や方式、内容などをめぐり、双方の本格的な綱引きが始まったことを示すシグナルといえる。