今年1年間の朝鮮半島情勢に大きな影響を及ぼす変数の一つは何といっても、7月に予定されている東京五輪が実際に開催されるかどうかです。文在寅(ムン・ジェイン)政権は昨年9月、日本の菅義偉首相の就任直後、「東京平和五輪開催の成功に向けて積極的に協力する」と述べ、韓日関係改善に向けた積極外交を繰り広げました。しかし、新型コロナウイルスによる危機と「関係回復のきっかけは韓国が作るべき」とする日本の強硬な姿勢により、関係改善の重要なきっかけと目されていた韓中日3カ国首脳会議の「2020年開催」は実現しませんでした。
その後、韓国国内では東京五輪に対する関心が大きく低下したものの、日本では先日、女性蔑視発言で不名誉な退陣を余儀なくされた森喜朗五輪組織委員長の問題まで重なり、五輪開催の可否が政局を揺さぶる中心争点として浮上している状況です。
では、この辺で考えてみましょう。「問題の絶えない」2021年東京五輪は開催されるのでしょうか。生半可な予断は禁物ですが、日本が2011年3月の東日本大震災のような大惨事に見舞われない限り、開催されると予測できます。それは次の3つの理由からです。
第1に、米国などの世界の主要国からの支持です。
米国や日本などの主要7カ国(G7)の首脳は19日、米国のバイデン大統領の就任後初めてとなるG7首脳会議(サミット)を画像で開催しました。この日の会議終了後に出た共同声明で、G7首脳は「新型コロナに打ち勝つ世界の結束の証しとして安全、安心な形で今夏に開催するという日本の決意を支持する」と表明しました。そのためか、会談を終えて記者団の前に立った菅首相も、以前よりもはるかに明るい表情で「安全安心の大会を実現をしたい、そうしたことを私から発言し、G7首脳全員の支持を得ることができた。たいへん心強い」と述べています。
G7の支持はなぜ重要なのでしょうか。五輪は世界平和を誓うための「人類の祭典」でもありますが、冷徹な経済論理で動くビジネスでもあります。G7が五輪開催を支持したということは、大きなさらなる変数がない限り、主要7カ国が大会に選手を派遣するということを意味し、ひいては国際五輪委員会(IOC)がこれらの国々に対し、予想どおり高い値段で中継権を売れるということを意味します。また、世界をリードするG7が五輪参加を決定すれば、その他の国々も参加せざるをえません。つまり、G7の支持を確保したことで五輪開催の8合目を越えたのです。
日本は、コロナによって米国社会が大きな混乱に陥っている中で、バイデン大統領が五輪についてどのような立場を明らかにするか心配していました。待ちに待ったバイデン大統領の五輪に関する発言が出たのは今月7日でした。バイデン大統領はその日、「五輪を安全に開催できるかどうか、科学に基づいて判断せねばならない。開催は望んでいるが、まだわからない」と述べました。しかし続けて「4年に1度の五輪のために努力する選手が突然機会を失うということを考えてみてほしい。我々は科学を重視する政権だ。他の国々もそうだろうと思う。日本の首相は五輪開催に向けて懸命に努力している。安全に開催できるかは科学に基づいて判断すべきだ。開催されることを願っている」と述べ、開催に肯定的な認識を示しました。この認識が19日の五輪開催「支持」として具体化したのです。
第2に、日本の政治状況です。
昨年9月に65%の高い支持率(朝日新聞)で発足した菅政権は、コロナへの対応のまずさや息子による総務省官僚接待疑惑などが重なり、2月現在の支持率は35%にまで落ち込んでいます。このような状況で、すでに昨年に一度延期されている五輪を開くことができなければ、東京五輪は事実上、雲散霧消することになります。そうなると、ぎりぎりのところで保たれている菅政権も退陣を迫られることになります。強い自らの派閥を持たない菅首相は、昨年8月末に安倍晋三前首相が突然辞任を発表した後に、主要派閥間の“微妙な”妥協の結果、漁夫の利で首相になった人物です。
菅首相がコロナ対応で手を焼くと、政権への揺さぶりが始まりました。下村博文政調会長は1月5日、あるテレビ番組に出演し、4月25日の衆参両院補欠選挙で自民党が敗れたら「政局になる可能性がある」と述べました。日本において「政局」になる可能性があるというのは、菅首相に対する自民党内の辞任圧力が本格化するということです。しかし、下村政調会長は数日後の1月13日、「菅義偉政権を支える立場で、私から『菅おろし』のようなことをするはずがない」と、ひとまず一歩引く姿勢を示します。
しかし、ほんとうに引き下がったのでしょうか。いいえ、五輪開催が雲散霧消したら、それまで沈黙していた他の派閥の主な政治家たちも本格的な「菅おろし」を始めるでしょう。そのような状況は避けねばならない菅首相としては、多少無理をしてでも、五輪開催を強行するほかありません。菅首相は1月29日、世界経済フォーラム(WEF)で、日本は五輪を「この夏、開催する。人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして、大会を実現する決意」と発言しました。本当に切迫した状況なのです。
第3に、国際五輪委員会(IOC)の立場です。IOCのジョン・コーツ副会長(オーストラリア)は5日付けの日本経済新聞のインタビューで、東京五輪開催の確率について「100%開催する。プランBはない。困難はあるが、開催する。選手は(五輪出場という)夢をかなえたいと思っている」と語りました。彼は五輪の準備状況を監督するIOC調整委員会の委員長でもあります。IOCも絶対に五輪を開催するという立場であることが分かります。
しかし、今回の五輪は私たちが見慣れてきた「平凡な五輪」とはならない可能性が高いのです。五輪には世界の200カ国以上の国から1万人以上の選手が参加します。これらの国々の感染状況や医療システムはそれぞれ異なるため、選手たちには取り急ぎワクチンを接種させたとしても(9日に出たIOCの感染防止対策規則集は、ワクチン接種を義務づけてはいません)、すべての観客にワクチンを接種するのは無理です。こうした状況において、全世界のすべての観客を全面的に収容することは不可能です。リスクが高すぎるからです。
そのため、日本では「無観客開催」の可能性について議論が活発になっています。コーツ副会長もその可能性を認めつつ「ワクチン流通の状況が分かる前に、判断を下すのは間違いだ。(無観衆で五輪を開催するかどうかについての判断は)3~4月になる」と語っています。IOCは早ければ3月、遅くとも4月には、世界的なワクチンの普及状況を綿密に検討し、観客の観戦を認めるかどうか、認める場合はどの程度認めるのか、などを決める見込みです。もし無観客で五輪が開催されれば、東京五輪組織委員会が推計していた900億円(約9500億ウォン)のチケット収入は消えることになります。この金を誰が埋めるのかをめぐっては、IOC、日本政府、東京都の間で、再び複雑な論議をせねばなりません。
それで五輪は開催されるのでしょうか。はい、開催される可能性は高くなっています。2011年の3・11東日本大震災で大きな被害を受けた福島県から、1カ月後の3月25日に聖火リレーが始まります。そして観客を受け入れるかどうかは、遅くとも4月頃には決定されます。そして、さらに突発的な状況が発生しなければ、7月23日に予定通り東京五輪は開幕すると予想されます。しかし、今回の五輪は観客がいない「無観客大会」、または一部のみを受け入れる「制限観客大会」となる可能性が高いのです。
東京五輪はそもそも、3・11東日本大震災に打ち勝った日本人の強靭な精神をアピールするために準備された大会です。ですが今やそれは、コロナに打ち勝った人類全体の強靭さを象徴する大会として生まれ変わることになりました。
残された問題は朝鮮半島です。今大会は、3年前の2018年2月の平昌(ピョンチャン)冬季五輪がそうだったように、「朝鮮半島平和プロセス」を再稼働する契機となるでしょうか。五輪をきっかけとして北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長、あるいはキム・ヨジョン労働党副部長の訪日などの、巨大な「外交イベント」が現実のものとなるのでしょうか。それについての予測は容易ではありません。第2の「平昌の奇跡」は、日本政府やIOCが作り出せないものです。それを実現すべきなのは、他ならぬ私たち自身です。