「2年前、私がミュンヘンで演説した時、私は一般市民であり教授であり、選挙で選ばれた公職者ではありませんでした。しかし、私はその時、『我々は帰ってくるだろう』と言いました。そして、私は約束を守る人です。アメリカは帰ってきました」
米国のジョー・バイデン大統領が就任してちょうど1カ月となる19日に行われた「ミュンヘン安全保障会議」のテレビ演説は、様々な面で世界の注目を集めるのに十分でした。バイデン大統領が「アメリカが帰ってきた」という宣言とともに、ドナルド・トランプ前大統領が掲げた「アメリカ・ファースト(米国優先主義)」を廃棄するという意向を明確にしたからです。これに対する代案として出したのは「民主主義」という信念を共有する国々との連帯、すなわち、同盟を強化することでした。バイデン大統領は、現在の全人類が独裁と民主主義という二つの選択肢のうち何を選ぶべきかに対する「根本的な論争の真っただ中にいる」とし、米国と同盟国が「中国と長期的かつ戦略的な競争に備えなければならない」と強調しました。すなわち、「米国、欧州、アジアが太平洋地域でいかにして共に自由を守り、共通する価値を防御し、繁栄を増進していくか」、別の言葉に変えれば、米国と同盟国がどのように中国との「戦略的競争」に打ち勝つ方法を探しだすかが「我々が(今後)遂行しなければならない最も決定的な努力だ」と明らかにしたのです。
実際、米国はこの日バイデン大統領が演説で強調したとおり、トランプ前大統領時代に損なわれた米国の重要なパートナーである欧州とインド太平洋の同盟を再建しようとする動きを急いでいます。17~18日には、北大西洋条約機構(NATO)を再建するための米国・NATO国防相会議を開き、18日にはNATOの中心的な同盟国である英国・フランス・ドイツとともに、トランプ前大統領が2018年5月に一方的に脱退した「イラン核協定」に復帰するための交渉に乗りだすという意向を表明しました。インド太平洋方面に目を向ければ、19日に米国・日本・オーストラリア・インドなど4カ国が集まった「クアッド(Quad)」外相会議を開き、この集まりを定例化することを合意し、19日には韓国・米国・日本の3カ国の北朝鮮核問題の担当者が初の会議を開きました。
それならば、「米中間の戦略的競争」が露骨になったインド太平洋で、バイデン政権は韓国に具体的に何を要求することになるのでしょうか。バイデン大統領などの米国の主要人物が過去1カ月間に発した様々な言葉や文章を基に、答えを探ってみましょう。そのために、過去1カ月の間に米国が韓国に「具体的に要求したこと」と「まだ明示的には要求していないこと」を区別してみます。
まず、米国が具体的に要求したことです。文在寅(ムン・ジェイン)大統領とバイデン大統領の4日の電話会談、チョン・ウィヨン外交部長官とブリンケン国務長官の12日の電話会談、ブリンケン国務長官の様々な発言、ネッド・プライス米国務省報道官の会見内容などを総合すると、米国は次の二つを要求しています。
一つ目は、「対北朝鮮政策」の見直しについての協力です。ブリンケン国務長官は、1月19日に行われた上院外交委員会の承認聴聞会で、北朝鮮核問題の解決のために韓国や日本などと協議し「北朝鮮に対する全般的なアプローチ方法と政策を再検討するだろう」と明らかにしました。プライス報道官も、その後数回にわたる定例記者会見で、そのような方針を繰り返し確認しました。現在、これに関連し、韓米当局の間で活発な意思疎通が進められているものとみられます。
二つ目の要求事項は、現在最悪の状態で放置されている韓日関係の改善です。プライス報道官は9日の定例会見で「北朝鮮の(核)兵器実験よりさらに懸念されることは、韓国と日本で緊密な調整が行われていない状況」だと述べ、ブリンケン国務長官は12日、チョン・ウィヨン長官との電話会談で「持続的な米国・韓国・日本の協力の重要性を強調」しました。しかし、日本の冷淡な態度のため、チョン長官は就任後2週間が過ぎても、今なお日本の茂木敏充外相とあいさつを兼ねた最初の電話会談をできずにいます。米国が仲栽する形で19日に韓国・米国・日本の3カ国の北朝鮮核問題の担当者による協議が行われましたが、日本の外務省はこの日の会議が「実務協議」であることを熱心に強調するなど、相変わらず冷たい態度を隠しませんでした。
今度は、米国がまだ明示的に要求していないことを見てみましょう。韓国の立場として最も気になる点は、米国が“中国包囲”について韓国にどの程度の積極的な協力を要求するのかに関する部分です。これは、「米国が、中国を牽制するためのインド太平洋地域の安全保障協議体である『クアッド』に参加することを韓国に要求するのか」という問いに代えてみることができます。
現時点で“明確な答え”を出すのは不可能です。しかし、米国の考えを推定できる“ヒント”がないわけではありません。私が注目するのは、バイデン大統領がクアッドに属する3カ国の日本・オーストラリア・インドの首脳間で電話会談を行った後に公開した資料と、文在寅大統領と電話会談をした後に公開した資料から明らかになる“微細な違い”です。
まず、日本の資料を見てみましょう。バイデン大統領は先月27日、菅義偉首相と初の首脳間の電話会談を終えた後、短めの報道資料を出し、米日同盟を「自由で開かれたインド太平洋の自由と繁栄のための礎(cornerstone)」という意味を付与しました。さらに、両首脳が「中国と北朝鮮を含む地域の安全保障問題について論議した」という事実を明らかにしました。中国包囲を含むインド太平洋という用語と、中国の国名を具体的に明示しました。オーストラリア首脳と電話会談した資料の基調も同様でした。ホワイトハウスは、米国・オーストラリア同盟を「インド太平洋と世界の安定のための錨(anchor)」という用語で説明した後、両首脳が「中国を含む全世界的で地域的な課題に、どのように共に対応できるのか論議した」と明らかにしました。やはり、インド太平洋という用語と中国という国名を用いたことがわかります。
最後にインドに対しては、二人の指導者が「自由で開かれたインド太平洋を振興するために、密接な協力を継続することにした」とし、そのための具体的な協力課題として「航行の自由、領土の純粋性、クアッドを通じたより強い地域協力構造(architecture)」などに言及しました。インドは米国の同盟国ではないため、日本やオーストラリアの時に使われた「礎石」や「錨」のような表現はなく、複雑で微妙な中国とインドの関係に配慮したためなのか、中国という国名を直接は用いませんでした。しかし、「航行の自由」「領土の純粋性」などは、誰がみても中国を牽制しようとする意図を込めた表現です。すなわち、インド太平洋という用語を使い、中国に間接的に言及したのです。
それならば、韓国にはどのような表現を用いたのでしょうか。ホワイトハウスは両国の首脳会談が終わった後、韓米同盟を「東北アジアの平和と繁栄のための核心軸(linchpin)」だと表現しました。インド太平洋という用語の代わりに東北アジアという表現を使ったことが確認されます。さらに、中国に直接言及したり暗示する表現は使いませんでした。カン・ミンソク大統領府報道官は、電話会談のニュースを伝えた4日の会見で、両国の首脳が「価値を共有する責任ある同盟国として、朝鮮半島とインド太平洋地域の協力を越え、民主主義、人権、多国間主義の増進に寄与する包括的な戦略同盟に、韓米同盟を引き続き発展させていくことにした」と明らかにしましたが、実際の米国の資料からは、そのような印象を受けることはできません。インド太平洋や中国はもちろん、両国が「共通の価値を共有する」という表現さえも入れなかったのです。米国が韓国の「戦略的重要性」をクアッド3カ国とは違ってみているのではないかと判断できます。もちろん、12日に行われた「チョン・ウィヨン長官とブリンケン長官」の電話会談の結果を伝える米国務省の資料によると、「韓米同盟は、自由で開かれたインド太平洋の平和と繁栄のための核心軸」だという表現が復活していることがわかります。しかし、インド太平洋という用語は、一時的に東北アジアの平和と繁栄に言及した後、付け加えるような形で使われています。
このような事実を幅広く見てみると、米国が韓国に期待するのは、他のクアッド3国のような「中国牽制」などの国際的な役割というより、「北朝鮮核問題への対応」のような地域的な役割だと注意深く結論を下すことができます。生半可な予断は禁物ですが、米国が直近の“近い未来”に、クアッドに参加してほしいと韓国に要求はしないだろうと予測されます。バイデン大統領は19日の演説でも「同盟は絞り出すものではない(They are not extractive)」と述べました。同盟国にできないことを無理に要求しないという意味です。韓国の立場からみる場合、熾烈な米中対立のなかでしばらく息をつける“戦略的な隙間”ができたわけです。
しかし、これは韓国には“もろ刃の剣”にもなり得ます。期待する役割が大きくないということは、戦略的な重要性が低くなるという意味であるからです。直ちに比較対象になるのは日本です。米日両国は2015年に米日防衛協力指針(ガイドライン)を改正した後、米日同盟を名実ともに「グローバル同盟」へと地位と役割を拡大しました。結局、米国が「対北朝鮮政策」などの東アジアの未来について重要な判断を下す時、韓国よりも戦略的に重要な日本の声をより聞き入れる可能性があります。
このような厳しい現実のなかで、私たちはどのような選択をしなければならないのでしょうか。今のこのままがいいのでしょうか、それとも、保守勢力の主張どおりクアッドなど米国が主導する「中国牽制」の動きに積極的に参加しなければならないのでしょうか。はっきりとした解答を出すには大変な“難題”ですが、明らかな事実は一つです。世界は今、バイデン大統領も言及したように、国際秩序が揺れ動く変曲点(inflection ponit)の上にいます。今、私たちが下す選択の結果は、今後の私たちの共同体全体が何代にもわたり担うことになり得るほど、影響を及ぼすことがあり得るのです。