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[寄稿]「米中二者択一のジレンマ」という古いフレームを打ち破ろう

登録:2020-11-23 09:26 修正:2020-11-25 16:46

バイデン氏の対中国牽制路線、「新冷戦」とみるのは大袈裟な解釈 
極右勢力は退出される見込み…同盟の強調も防御の性格 
北朝鮮核問題も米中対立よりも協力の可能性あり 
韓国の長期的な中国に対する選択肢は「関与」以外にない 
地域紛争や対中国封鎖への参加は戦略的利益を害する 
 
韓国が直面した国際政治の現実を「ジレンマ」と規定するのは 
韓国の想像力を制限し、外交の選択肢を狭める 
小国と分断の被害意識が外交言説を支配 
経済力や軍事力に加え、Kカルチャー、K防疫、情報化の時代 
地政学的環境を宿命と受け止めては困る

「米中間の選択のジレンマ」というフレームは韓国の想像力を自ら制限し、外交的選択肢を狭める。韓国政府が提案し主導して3月26日に開かれたG20首脳会議はこのようなジレンマから脱皮する良い試みだ=大統領府写真記者団//ハンギョレ新聞社

 韓国の外交安保世論主導層の間には「外交的選択のジレンマ」という古いフレームがある。韓国が直面した国際政治の現実を「ジレンマ」と規定することは、どうしても逃れられない“宿命”のように受け取られる。しかし、このようなフレームは、韓国の想像力を自ら制限し、外交的選択肢を狭める。ジレンマだと考えた瞬間、ジレンマに陥る逆説が発生するのだ。

 「ジレンマというフレーム」は米中間で中途半端な綱渡りをしてはいけないと助言する。ややもすると、両方から捨てられる恐れがあるとも言う。同フレームの追従者たちの言う解決策は「原則的な外交」につながる。しかしその「原則」は大方、米国が主導してきた戦後の国際秩序の価値と規範だ。結局は二者択一にほかならないが、答えはすでに決まっている。唯一の同盟国である米国側に立つべきということだ。しかし、外交に果たして二者択一の道しかないだろうか。外交が存在する根本的な理由は、多様な選択肢を作るためだ。

 フレームはしばしば現実を誤導し、または誇張する。多くの専門家が米国と中国の「デカップリング」(切り離し)を指摘し、米中間の戦略競争と衝突は避けられないと主張する。攻撃的な現実主義に基づいても、覇権転移論の観点から見ても、構造的にそうならざるを得ないというのだ。ジョー・バイデン政権が発足しても変わることはないというのが、彼らの主張だ。共和党であれ民主党であれ、中国を脅威と見る見方は超党的であるからだ。

 バイデン新政権も対中国牽制路線を取らざるを得ないという主張はあながち間違った話ではない。米国の民主党は中国に対し関与政策の伝統を持っているが、習近平中国主席の権威主義的行動と攻勢的路線により、中国への見方が変わったのも事実だ。

 しかし、バイデン政権の対中国牽制路線を、一戦も辞さぬ「新冷戦」と見るのは大袈裟な解釈だ。ドナルド・トランプ政権ではいわゆる中国バッシングが経済領域に止まらず、理念的・軍事的領域にまで拡大した。ジョン・ボルトン前国家安保補佐官、スティーブ・バノン元ホワイトハウス首席戦略家、ピーター・ナバロ・ホワイトハウス貿易・製造業政策局長、ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表など“反中”主義者が政府要職に布陣し、トランプ大統領というポピュリスト政治家と連合したためだ。彼ら極右勢力は中国という地政学的実体ではなく、中国共産党と習近平共産党総書記を攻撃した。体制に触れるのは、敵と同志が鮮明な情報世界の心理戦の様相であり、新冷戦と言える。

 バイデンの時代には、反中極右派が政権から追放されるだろう。バイデン次期大統領と米民主党は基本的に“リベラリスト”だ。自由市場経済を信奉し、世界経済の破局を望まないウォール街と新自由主義資本勢力から支持されている。だからこそ、極右勢力は彼らも親中だと攻撃する。

 バイデン政権も広範囲な米国内部の反中感情を意識し、政治的には香港など人権問題を中心に“強い”態度を取ることもあるだろう。しかし「中国がこれ以上成長する前に潰すべき」という好戦論者とはかなり違いがある。バイデン陣営が同盟を強調するのも、トランプが同盟を破壊したことに対する反作用の側面が強い。

 もちろんバイデン氏も中国という“課題”に対応するため、同盟国と調整し協力すると述べた。しかし、本格的に中国と戦うために勢力を糾合するという攻撃的側面よりは、「未来のリスク分散」という防御的側面の方が強いとみられる。これは同盟国に一方的に二者択一を迫ることとは明らかに違う。

 米中関係は、戦略競争を続けるだろう。しかし、これは新冷戦の様相というよりは「競争的共存」(competitive coexistence)であり、米中間の対決はしばらく調整期と小康状態に入るとみるのが現実的だ。自然に、米国防総省と中央情報局(CIA)など安保エリートたちの支持を受けてきたトランプ政権のインド太平洋戦略も、少なくとも看板は変わるものとみられる。

ジョー・バイデン新政権が発足しても、米中が一戦も辞さぬ「新冷戦」を避けられないという見方があるが、これは大袈裟な解釈だ/ロイター・聯合ニュース

 このような点を総合的に考慮すれば、バイデン政権では韓国が息をつくことのできる外交的空間は多少広がるだろう。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への参加は、経済的観点から当然の決定だった。第5世代通信システム(5G)や「クアッド」(米国・日本・インド・オーストラリアが参加する戦略フォーラム)、THAAD(高高度防衛ミサイル)、南シナ海、台湾など、米中間の対立が続く懸案に対しても実事求是に基づき、立場を決めれば良い。

 対北朝鮮政策は言うまでもない。バイデン政権で、北朝鮮核問題は米中間の対立懸案ではなく、協力事案になる可能性が高い。バイデン氏も、同盟国の韓国、そして中国と協力して北朝鮮の非核化を推進すると表明した。バイデン政権では、北朝鮮核問題の優先順位が下がり、北朝鮮の人権を重視するため、強硬な対北朝鮮政策基調を維持するという主張もある。しかし、これは韓国の立場と役割を排除した過度に米国中心的な考え方だ。また、北朝鮮はすでに6回目の核実験を通じて100キロトン規模の水素爆弾製造能力と、火星-15型大陸間弾道ミサイル(ICBM)試験発射の成功で米本土への到達能力を見せつけた。北朝鮮の核問題は、バイデン政府にとって決して緊急性の低い事案ではない。

 長期的には米中関係の脈絡で、韓国の対中国政策の方向性を確立しておく必要がある。地政学的、地経学的な要素を考慮すると、韓国の選択肢は「関与」(engagement)しかない。事案別の牽制は必要だが、反中同盟や対中国封鎖への参加は、韓国の戦略的利益に反する。韓国の死活的利益と無関係な地域紛争に巻き込まれる必要はない。この点を米国にはっきり理解させなければならない。

 「外交的ジレンマ」というフレームには、小国意識と敗北主義が込められている。伝統的な事大主義に基づいた小国意識と、植民地-分断-冷戦につながる経験に由来する被害意識が、知らぬ間に韓国の外交談論を支配してきたのだ。経済成長やKカルチャーなどの韓流の拡散、K防疫、そして成熟した民主主義と市民意識によって、国民の自負心はますます高まっているにもかかわらず、外交安保世論の主導層は敗北主義的言説を再生産しているだけだ。

 大韓民国は経済力10位、軍事力9位、人口5千万で、決して小さな国ではない。トランプ大統領によって主要7カ国(G7)の拡大改編対象に指名されており、来年英国で開かれるG7首脳会議にも招待された。もしかすると、日本に続き、「脱亜入欧」するアジアで2番目の国になるかも知れない。

 フランスやドイツ、イタリアやカナダなど西欧先進国も米中の対立懸案から自由ではないが、外交的ジレンマに直面していると自らを描写することはない。列強に囲まれた韓国の地政学的環境の厳しさを指摘する人もいるかもしれない。しかし21世紀というグローバル化と情報化の時代に、地政学的環境を宿命として受け止めては困る。

 一部では「中堅国外交論」を代案として提示している。韓国も国力が成長したため、カナダやオーストラリアのように国際舞台でグローバル・アジェンダを中心に役割を模索しようという提案だ。メキシコやインドネシア、韓国、トルコ、オーストラリアの国家会議体であるMIKTAを稼動させるのも、そのような脈絡だ。李明博(イ・ミョンバク)政権以降、韓国外交部を中心に今でも採択している路線だ。

 しかし「中堅国外交」も、「ジレンマというフレーム」のように韓国の想像力と潜在力を制限するさらなる足かせになりはしないかという懸念の声もある。文在寅(ムン・ジェイン)政権は新型コロナウイルスへの対応の過程で、韓国の防疫経験を共有し、国際的協力体制を構築する主要20カ国・地域(G20)首脳テレビ会議の開催を主導して注目された。中堅国外交の枠組みから脱皮する良い事例だ。

 変化は迫ってきてからようやく実感するものかもしれない。これからも構造的には全く変わらないという主張は退屈であるだけでなく、政策決定と政治的動学を無視した机上の空論だ。外交的ジレンマに悩むよりも、外交的ジレンマを打ち破り、中堅国外交を越える果敢で大きな外交ビジョンについて考えなければならない。

//ハンギョレ新聞社
キム・ソンベ国家安保戦略研究院首席研究委員(元国家情報院海外情報局長)(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/971017.html韓国語原文入力:2020-11-23 04:59
訳H.J

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