文在寅(ムン・ジェイン)大統領は休暇運には恵まれていないようだ。昨年は日本の安倍晋三政府の突然の輸出規制措置が立ちはだかり、今年は記録的な長梅雨と中部地方の豪雨が足を引っ張った。
夏の休暇はなくなったものの、悩みまでなくなったわけではない。政権後半期をどのように運用するか、苦しい選択を迫られている。来年5月頃までが「大統領の時間」と言える。それ以降は各政党の大統領選候補党内予備選挙が始まる「候補の時間」になるだろう。(文大統領が)主導権を握って国政を運営する時間は1年足らずだ。
大統領が決めるべき問題は山積している。しかし、不動産問題で崩れた大統領府の綱紀と組職を引き締めることが緊急課題に浮上した。昨年末、ノ・ヨンミン秘書室長の強い勧めで始まった大統領府参謀陣の多住宅問題の解消は、“内輪もめ”の末、8カ月でノ室長を含む大統領府首席秘書官5人の一括辞意表明に至った。その間、大統領府のリーダーシップは満身創痍になった。ノ室長自身がソウル江南(カンナム)と忠清北道清州(チョンジュ)の住宅処分をめぐって世論の非難を受けた末、虻蜂取らずになってしまった。大統領府自ら政府の不動産対策を形骸化しているという皮肉まで聞こえる。
キム・ジョウォン民情首席がノ室長の前轍を踏んだ。ソウル江南に2軒のマンションを所有しており、大統領府の方針にもかかわらず処分を見送ってきた彼が、相場より高い価格で蚕室(チャムシル)のマンションを売りに出したものの、後になってそれを撤回したのだ。大統領府の処分勧告期限が今月いっぱいで、その間に取引をするのは自由だ。しかし、民情首席は不動産取引価格をめぐり“駆け引き”するほど軽いポストではないことから、残念な振る舞いだった。内部世論に十分耳を傾けずに出されたノ室長の指示を不当だと考えているとされる彼が、似たような道を歩んだのは皮肉なことだ。
大統領府に向けられる視線は冷ややかさを増している。冷たい冷笑は、熱い怒りよりも恐ろしいものだ。怒りからは疎通の糸口を見いだすことができるが、冷笑と嘲弄からはその糸口を見いだせない。文大統領は任期序盤の2018年2月、「春風秋霜」(春の風のように暖かい心で他人に接し、秋の霜のように厳しい気持ちで自らを律する)という文が書かれた額縁を秘書棟に配った。文大統領の下半期の構想には、世論に鈍くなり、自らに寛大になった周りを引き締める対策が盛り込まれなければならないだろう。
野党とどのような協治を行うかについても考えをまとめなければならない。176議席の巨大与党は文大統領が何度も強調してきた「スピーディな改革」を推進する心強い資源だ。しかし、103という未来統合党の議席は、独自の法案の処理は無理かもしれないが、世論を動かすには十分だ。総選挙から3カ月であまり格差がなくなった与野党の支持率がこれを裏付けている。
対外的には、北朝鮮関係の解決策が優先課題であろう。文大統領は、南北関係の突破口を開くことを歴史的使命と考えている。前例のない3回の南北首脳会談は成果といえる。しかし、結果につなげることはできなかった。精一杯押し上げても、再び落ちてくるシシュフォスの岩のような状態だ。
文大統領は、パク・チウォン国家情報院長やソ・フン国家安保室長、イ・イニョン統一部長官という顔ぶれに安保陣営を変えた。何が何でも任期中に再び南北関係の改善を果たすという意志がうかがえる人事だ。米大統領選挙が3カ月後に迫っているため、不確実性が高く、文大統領の任期も後半期に向かっているという点、そして新型コロナが依然として猛威を振るっていることを考えると、状況は依然として厳しいかもしれない。しかし、南北をともに襲った記録的な梅雨と豪雨の被害は、人道主義レベルの交流の必要性を高めている。災い転じて福となすきっかけになる可能性もあるわけだ。
1年以上続いている日本の安倍晋三政府の輸出規制問題や韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了の可否も、決断を迫られる課題となっている。大統領府は韓米日の協力強化を土台に中国を牽制(けんせい)するという米国政府の圧力により、昨年11月、終了6時間前にGSOMIAを期限付きで延長することを決定した。しかし、当時条件として掲げた「韓国のホワイト国(グループA)資格の復元、輸出規制の撤回」はいまだ実現していない。延長する名分があまりない。
大統領府は、GSOMIA終了の3カ月前(8月24日)に延長の可否を日本に通知するという既存の規定は意味がないという立場だ。昨年すでに「日本政府の態度に変化がなければ、いつでもGSOMIAの終了を直ちに実行できる」と公示したため、24日という期限に縛られる必要はないと見ている。GSOMIAは日本との問題だが、実際には米国との問題でもあるため、この問題を解決するには文大統領の“交渉人”としての資質が必要と思われる。