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[ニュース分析]北朝鮮「キム・ヨジョン副部長を通せ」…実質的なナンバー2を後押し

登録:2020-06-08 02:34 修正:2020-06-08 07:09
前面に出てきたキム・ヨジョン 

統一戦線部「対韓国事業総括」公式化 
労働新聞、大々的な談話報道に続き 
後続措置指示、各界反響で埋め尽くす 
「北朝鮮の権力構造上、金正恩のみが可能」 
「キム・ヨジョン談話、対北ビラへの対応次第で 
南北関係に『危機-機会』の分かれ目」
2018年2月10日、平昌冬季五輪の南北高官級晩餐会に出席したキム・ヨジョン労働党第1副部長=写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 朝鮮労働党中央委員会のキム・ヨジョン第1副部長の4日の談話を起爆剤として、一部の脱北住民団体による対北朝鮮ビラまきに対する北朝鮮当局の非難と韓国当局に対する「遮断圧力」が連日火を噴いている。「キム・ヨジョン談話」(4日)→統一戦線部(統戦部)報道官談話(5日)→抗議群衆集会を含む「各界反響」報道(6、7日付『労働新聞』)の順で4日間続いている。

 これまで北朝鮮でほぼタブー視されていた「脱北者、対北朝鮮ビラ」問題を「キム・ヨジョン談話」を契機として「朝鮮人民全体を冒涜・籠絡した特大犯罪行為」と規定し、むしろ「すべての人民の議題」にし、警戒を促した格好だ。「キム・ヨジョン談話」を「金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長談話」並みに扱うこのようなあり方は、キム・ヨジョン第1副部長がすでに「特別な地位」にあることを示す強力な指標と言える。

 三つの事実が特に重要だ。第一に、キム・ヨジョン第1副部長が「対韓国事業を総括」するということを統戦部の談話によって公式化するという異例の措置。第二に、キム第1副部長が後続措置を「指示」したという統戦部談話の言及。第三に、6、7日付『労働新聞』を1面から「埋め尽くした」ような「各界の反響」。これらは南北関係の進路、北朝鮮内部の権力構造に関する示唆に富んでいる。

 まず南北関係。統一戦線部の談話は「キム・ヨジョン談話」を「対韓国事業を総括する第1副部長が警告した談話」と規定した。続いてキム第1副部長が「5日に、対韓国事業部分について、談話文で指摘した内容を実務的に執行するための検討事業に着手するよう指示した」と明らかにしている。「まず開城(ケソン)北南共同連絡事務所を断固として撤廃する」という主張は、この「指示」による措置だ。「祖国統一」を国是とする北朝鮮において、対韓国事業の最高責任者は金正恩国務委員長、実務責任者は統一戦線部長だ。しかし統戦部談話はキム第1副部長が「対韓国事業を総括」するとあえて強調した。南北関係に関する限り、キム第1副部長が金正恩委員長の「代理人」であり、代表窓口だから、南北関係を解決するには「キム・ヨジョン氏を通せ」という意味と解釈できる。

 『労働新聞』がキム第1副部長の「指示」に言及した統戦部の談話を6日付の2面トップで報じ、「キム・ヨジョン談話」に対する「各界の反響」を6、7日付にまたがって報道した事実については、北朝鮮の権力構造についての繊細な読解が必要だ。『労働新聞』は6日付の記事(47本)のうち「キム・ヨジョン談話」関連の記事を1、2面に7本掲載した。7日付は全30本のうち12本の関連記事が1、3、6面を埋めた。金日成(キム・イルソン)金正日(キム・ジョンイル)社会主義青年同盟が主導した青年学生の集会(6日、平壌市(ピョンヤンシ)青年公園野外劇場)を含め、金策(キム・チェク)工業大学、平壌総合病院の建設現場、金鍾泰(キム・ジョンテ)電気機関車連合企業所などの「抗議群衆集会」が写真とともに紹介された。平壌市党委員長、国家計画委員長、中央検察所長、三池淵市(サムジヨンシ)党委員長、女盟中央委員長、黄海南道農村経理委員長らの寄稿文が『労働新聞』に掲載された。

 これは、北朝鮮の最高権威紙であり「人民の必読媒体」である朝鮮労働党中央委の機関紙『労働新聞』に「指示」が掲載され、「各界の反響」が紹介される人物は首領(最高指導者)だけだった北朝鮮の歴史に照らせば、前例のない現象だ。公式の権力構造上「序列2位」と呼ばれるチェ・リョンヘ最高人民会議常任委員長兼国務委員会第1副委員長にも、こうした待遇はただの一度もなかった。北朝鮮の動向に詳しい元高官は「北朝鮮では首領ではない人物が指示したという内容が労働新聞に載ることはありえない。キム・ヨジョン氏が既に内部的に『(潜在的)後継者』となったことを示す明確な証し」と指摘した。

 「敵はやはり敵」とし「行き着くところまで行こうというのがわれわれの決心」という統戦部談話は、キム・ヨジョン第1副部長が金正恩委員長に代わって「対韓国事業総括責任者」として前面に出てきたことと無関係ではないという指摘も多い。韓国政府が今回の対北朝鮮ビラ事態にどう対処するかによって、今後の南北関係の行方が全く変わってくる可能性があるということだ。

 前出の元高官は「北朝鮮は、南北首脳がすでに合意しており、制裁とも無関係な対北朝鮮ビラ禁止の約束さえ守ることができないのならば、今後何を共に行うことができようかと韓国側に投げかけている」と指摘した。そして「再び対北朝鮮ビラがばらまかれれば、南北関係の扉が完全に閉ざされ得る危険な局面。政府がこの問題を南北合意に則って原則的にうまく解決していけば、キム・ヨジョン氏が前面に出てきているだけに、むしろ南北関係にとって重要な機会の窓が開かれる可能性もある」と述べた。対北朝鮮ビラ問題で「前面に出てきたキム・ヨジョン」という新しく見慣れない現象は、危機と機会の二つの顔を持っているという指摘だ。

 7日に統一部が統戦部の荒々しい談話に対し、対抗を避けて「板門店宣言をはじめとする南北首脳が合意した事項を順守し、履行していくというのが政府の立場」という短くてあっさりした公式見解を発表したのは、こうした状況の敏感さに対する考慮が背景にある。またこれは「キム・ヨジョン談話」当日に統一部が「立法による対北朝鮮ビラ遮断」方針を明らかにし、大統領府が「対北朝鮮ビラは百害あって一利なし」という明確な態度を示したことの延長線上にある。

イ・ジェフン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/948244.html韓国語原文入力:2020-06-07 16:00
訳D.K

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