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[ルポ]20~30代の大半、マンション暮らしは「他人事」

登録:2019-11-15 04:16 修正:2019-11-18 04:36
[ハンギョレ21]大多数の20~30代の住居は 
「一軒家の地上のワンルーム 
入居保証金のある月払い家賃で 
1年も安住できず引越し繰り返す若者世帯」
大多数の20~30代は保証金あり、月払い家賃で一戸建て住宅内の地上ワンルームに住み、1年以内に引越しを迫られている=パク・スンファ記者//ハンギョレ新聞社

 24歳のイ・スンヒさん(女・仮名)はソウルにひとり暮らし。彼女の年齢より4年古い集合住宅はすでに寿命を全うしたようだ。キーキーと音を立ててようやく開く茶色の鉄製サッシは風を防げず、いつかボイラー工事をした際にいい加減に仕上げられた部屋の床は暖房がつかない。だからスンヒさんは多くのことをあきらめている。玄関の扉を開くと隣の集合住宅の居間が丸見えになるので、換気はあきらめた。トイレで洗面台の前に立って顔を洗うのもあきらめた。異様な家の構造を見るたびに、「前の家主が一軒家だったのを複数のワンルームに分けて売り、出ていった」という噂を思い出す。「そうだろうな」とスンヒさんはうなずく。

若者の56.0%が40平方メートル以下の家に住む

 それでも冷たい風が吹く時期はまだましだ。「春と夏にはカマドウマだのゴキブリだの嫌な虫たちと家を一緒に使わなければならず、ストレス」が非常にたまる。スンヒさんの家にカマドウマが寄生しているのかスンヒさんが寄生しているのか、こんがらがる。若者世帯全体のうち、14%の「スンヒさん」たちが自分の居住環境に不満を持っていた(2018年度住居実態調査、国土交通部)。それでも家賃30万ウォン(約2万7900円)の集合住宅の2階は保証金に2千万ウォン(約186万円)出した家だ。大学入学で地方から上京して最初に住んだ家は、保証金200万ウォン(18万6000円)に家賃25万ウォン(約2万3200円)の屋上小屋(住環境があまり良くない代わりに家賃が安い)だった。「暑い時はより暑く、寒い時はより寒い」家だった。「大学に通いながら懸命にバイトして1千万ウォン(約92万9000円)を貯め、両親から1千万ウォンを借りて」今の家に引越した。

 来年1月、スンヒさんはついに洗面台がある家に引越しする。地方にいた姉が上京して一緒に住むことになり、まとまった金が入ってくることになった。就職準備中の姉が政府から7千万ウォン(約650万円)の融資を受けて保証金9千万ウォン(約836万円)、家賃20万ウォン(約1万8600円)の集合住宅に入ることになったのだ。姉妹は「それでもひとつ(洗面台)はかなった」と喜ぶ。姉と暮らしたら、以前のように「家賃を3カ月滞納して大家から電話がかかってくる」こともないだろう。ただ、一つは諦めなければならなかった。「きれいな家を選んで、光はあきらめた」。スンヒさん姉妹は、半地下に居所を定めたのだ。

 親と別居する大多数の2~30代の住居の形態と環境は、スンヒさん姉妹と大きな違いはない。「保証金あり、月払い家賃、一軒家の地上ワンルームに1年も住めずに引越しする若者世帯」。これは20~30代世帯の住む住居を代表する。実際に国土交通部が発表した「2018年度住居実態調査」で、満20歳から満34歳以下の若者世帯で最も多かった回答だけを集めて大まかに再構成したものだ。全国的にみると、20~30代(ごく一部20代未満を含む)1444万人のうち14.1%(205万人)が住宅(一軒家・小規模集合)を、10.7%(155万人)のみがマンションを所有していた。その中でも最も高いソウルのマンションを所有する20~30代は10人に1人もいないと推定される。

 若者の56.0%が40平方メートル以下の家に住んでいる。キム・ヒョンミンさん(29・仮名)もそうだ。ソウル江南区(カンナムグ)のある一戸建て住宅のワンルームが、ヒョンミンさんの初めての伝貰(チョンセ。家主に一定のまとまった金額を預けて住宅を借りること。別途家賃は発生しない)賃貸住宅だ。トイレ付きの26平方メートル(8坪)のワンルームだが、それでも彼が20歳以降に住んだ家の中では最も広い。彼の家は韓国土地住宅公社(LH)が補助する「青年伝貰賃貸住宅」だ。彼はLHから伝貰金6900万ウォン(約641万円。自己負担100万ウォン(約9万2900円)を除く)の補助を受け、2018年12月に家を借りた。この制度で、伝貰補助金として最大9千万ウォンまでの融資が受けられる。しかし、伝貰補助金の年1~3%の利子に当たる月賃貸料は自己負担のため、彼は補助を受ける額を下げた。補助金が大きいほど利子負担も大きくなるからだ。

賃貸住宅の直接訪問や支援の確認必要

 初めての伝貰借家の月平均住居費は、管理費6万ウォン(約5600円)に月賃貸料11万8千ウォン(約1万1000円)だった。直前に住んでいた江南区(カンナムグ)の月26万ウォン(約2万4100円)の考試院(コシウォン。2畳ほどの賃貸部屋。もともとは司法試験などの受験生が住むためのもの)より安い。彼は大学の寮、集合住宅のワンルーム、考試院より広いがワンルームより狭い「ミニワンルーム」、シェアハウス、考試院と、遊牧民のように転々としていた。より家賃が安い家へと、短い時では二カ月で引っ越した。いま住んでいる青年伝貰賃貸住宅に入るのは容易ではなかった。江南区で働いている彼は、3カ月間に10カ所以上の不動産屋を訪ね歩いた。青年伝貰賃貸住宅を申請するためには、申請者が物件を直接見つけて、支援が可能かどうかを確認しなければならなかった。しかし、ある集合住宅は賃貸収益を増やすために1部屋を複数の部屋に分けた違法建築であったため不適格で、ある適格住宅の家主は個人情報開示などを嫌って申請に同意しなかった。

 LHには大学生、若者、婚姻期間7年以内または結婚準備中のカップルなどに周辺の相場より安価に供給する公共賃貸住宅「幸福住宅」があるが、敷居は高かった。2017年11月に就職して資産と所得が少ないヒョンミンさんが、相場の60~80%ほどの幸福住宅の家賃を賄うのは事実上不可能だったのだ。実際、今年募集する幸福住宅の保証金は若者層の場合、全羅南道の霊岩龍仰(ヨンアム・ヨンアン)地区で835万9千ウォン(約77万6000円)、最も高いソウル麻浦ジャイ3次地区では8528万5千ウォン(約792万ウォン)に上る。しかし苦労して得た彼の家も2年の期限付きだ。彼は『ハンギョレ21』との電話インタビューで「賃貸期間が終わればまた引っ越さなければならないと思うと今から不安だ。2回まで再契約することはできるが、家主が再契約を望まなければ出ていかざるを得ない」と話した。居住期間の不安定さに住環境の劣悪さが重なっているのが現実だ。

 若者の10人に4人が一軒家に住んでいる。名前こそ一軒家だが、大抵は「集合住宅」というのが実態だ。ソウル冠岳区(クァナック)で友人と住むパク・ソンヒさん(29・女)の家もヒョンミンさんのような一軒家だった。彼女が住む家は3階建てと紹介されたが、実際には2階建てだった。地下よりは高く1階よりは低い「地階」、1階、そして2階に彼女の家があった。居間がひとつに部屋が3つだが、40平方メートル(14坪)強のこの家の、寝室を除いた残りの2部屋は寝られる広さではなかった。彼女の家は保証金500万ウォン(約46万4000円)に家賃55万ウォン(約5万1100円)の半伝貰の借家だった。

 もともとのソンヒさんの初めての伝貰住宅は2階ではなく、同じ家の「地階」だった。事務職として働いていた大企業を2018年7月に退職して大学院に入学した彼女が、家賃を20万ウォンずつ出し合って友達と住みはじめた初めての伝貰借家だった。しかし引越し直後、梅雨で雨が降ると部屋の床から水がしみ出し、雨水が溜まり始めた。壁にはすっかりかびが生えていた。「運が良かったと言うのが悲しい。不幸中の幸いか、同じ家の2階に移った」。2階は水が漏れることも、雨水が溜まることも、カビが生えることもなかった。「地屋考(ジオクコ。地獄苦と音が同じ。地下の部屋、屋上小屋、考試院)」と称される家に住んでいたが、家賃を15万ウォン(約1万3900円)追加してようやく地上に生きる青年の生活を手に入れることができたわけだ。

高所得と低所得のマイホーム購入、18年差

 まだ20代だが、彼女はすでに同世代での住居の格差を感じている。元の職場の彼女より2、3歳年上の同僚たちの一部は、30代前半でソウルにマンションを買った。交通などが便利で、長期的に値上がりする住宅だった。逆に、中小企業に通う友人たちは1カ月に100万ウォン貯めるのも大変だった。学資ローンを2~3年返済してから1年に1千万ウォン(約92万9000円)ずつ貯めてもマイホームには10年以上かかる給料だった。実際、高所得層世帯と低所得層世帯では、マイホームを手に入れるまでの期間に平均18年以上の差があるという分析もある(2016~2019年所得階層別マンションPIR(家を所有する世帯の住宅価格対所得比率)、国土交通部)。

 新しく家庭を築く新婚夫婦にとって、住宅価格はさらに頭の痛い問題だ。パク・チョンウンさん(29・仮名)とキム・スヒョンさん(37・仮名)は昨年11月に結婚したものの、まだ2軒住まい。平日はチョンウンさんが住む伝貰金6千万ウォン(約557万円)の集合住宅で、週末はスヒョンさんが住む2億9千万ウォン(約2690万円)のオフィステル(住居兼用オフィス)で過ごす。各自の伝貰ローンを返済すれば、残るのは1億ウォン(約929万円)ほど。個人向けの運動トレーニング指導をするチョンウンさんの仕事のためにソウルで新居を得なければならないが、ソウルの坪当たり平均相場を考えると24坪マンションの伝貰には3億5千万ウォン(約3250万円)、18坪のオフィステルには2億1千万ウォン(約1950万円)がかかる。新婚夫婦のための公共賃貸住宅や住宅金融も調べてみたが、夫婦合算の所得基準(年収7千万ウォン(約650万円))を少し超えるので恩恵を受けるのは難しい。「家を探し始めたところなのに、すでに憂鬱でたまらない」2人。

 若者であるヒョンミンさんとソンヒさんが挙げた住居政策が、賃貸料が低く一定期間住居の安定が確保された公共賃貸住宅の供給拡大なら、新婚夫婦のチョンウンさんとスヒョンさんが挙げるのは伝貰資金の融資だ。最近、若者世帯が挙げた「最も必要な住居支援プログラム」は、多い順に伝貰金資金の融資(32.2%)、住宅購入資金の融資(24.3%)、家賃補助金(16.4%)だった。所得水準が低くなるほど、若者と新婚夫婦の政策需要は住宅購入資金融資→伝貰資金融資→家賃補助へと移っている。

 しかし、政府が推進した公共賃貸住宅供給政策の基調は、若者たちの希望とは逆の方向に動いた。実際に国土交通部が国会に提出した2017会計年度決算検討報告と2018会計年度決算及び予備費支出承認の件検討報告資料によると、住宅都市基金からLHに出資される基金は、国民賃貸住宅の場合、2013年の3196億ウォン(約297億円)から2017年には0ウォンに減っている。所得最下位層のための永久賃貸住宅も同じ期間に1512億ウォン(約140億円)から356億ウォン(約33億円)へと、4分の1になった。一方、賃貸料が相場の60~80%ほどの幸福住宅は同期間に20億ウォン(約1億8600万円)から7935億ウォン(約737億円)へと400倍近くに膨れ上がった。文在寅(ムン・ジェイン)政権発足以降、公共賃貸住宅支援額の総額は以前より増えているが、賃貸料の負担が大きな公共賃貸住宅の供給が中心で、住居環境が劣悪な若者や新婚夫婦の住居費の軽減にはあまり役立っていない。住居脆弱階層を疎外するこのような政策基調は、監査院からも絶えず指摘されてきた。

賃貸料の負担が大きい公共賃貸住宅は増加

 「新しい社会を開く住宅」のクォン・ジウン理事は『ハンギョレ21』の電話インタビューで「若者と新婚夫婦のための公共賃貸住宅の総供給量は増えたが、公共性は後退した。青年に住宅を多く供給するという名目で生まれた幸福住宅、駅に近い青年住宅などの公共賃貸住宅は賃貸料が高く、かえって低所得層の若者が入れる家は実質的に減った。単に若者に供給する公共賃貸住宅の量を増やすのではなく、どの所得水準の若者の入居が優先なのか、社会的合意が必要だ」と述べた。

チョ・ユニョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/917015.html韓国語原文入力:2019-11-14 14:13
訳D.K

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