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「江西区三母子」悲劇の背景にはわずかな給与も奪う「削減福祉」があった

登録:2019-09-07 07:40 修正:2019-09-07 10:21
88歳の老母・重い障害の兄の看病
扶養義務者の弟、日雇い仕事にも出られず
月扶養費25万ウォンみなし、支給額削減
国民・基礎年金も引き15万ウォンのみ支給
障害者年金など合わせても月100万ウォン
3人世帯の最低生計費にも満たぬ生活費
母子が死んだまま発見されたソウル江西区の賃貸マンションの入口//ハンギョレ新聞社

 ソウル市江西区(カンソグ)のある賃貸アパートで、病気を患っていた母親(88)と重度の身体障害を持つ兄(53)を世話していた50代の男性が、自分と家族を全員死亡させたと推定される事件が発生した。基礎生活費(日本における生活保護)受給者の母と障害者年金を受けている息子、そして彼らの世話をするため仕事すらできなかった次男が政府と地方自治体から受け取っていた1カ月の生活費は、3人世帯が最小限の人間らしい暮らしをする上で必要な生計費約112万ウォン(約10万2800円)にも満たない100万ウォン(約9万2千円)程度だったことがハンギョレの取材でわかった。

 特に、母子世帯は国民基礎生活保障の生計給与だけでなく、基礎年金、障害者年金、国民年金など生活安定のためのほぼすべての社会保障給与を受け取っていたが、「扶養義務者制度による見なし扶養費」「与えて奪う基礎年金」「基礎年金の段階的引き上げ」などにより、国が保障する最小限の公的支援金さえ受け取れていなかった。

■母子が受け取っていた生計給与は月15万ウォン

 5日、保健福祉部の関係者の話を総合すると、2000年から基礎生活保障受給対象だった母親と2人の息子は、2011年に母親と障害者の長男の2人世帯と次男の1人世帯に分離される。日雇いをする次男に稼ぎが生じ、受給資格を剥奪されることを心配した窮地の策と推定される。基礎生活保障受給の母と長男の2人世帯の生計給与の支給基準は87万1958ウォン(約8万円)だが、実際には所得認定額を引いた金額が生計給与で支給された。母子が今年4月から8月まで毎月受け取っていた生計給与は約15万ウォン(約1万3800円)に過ぎなかった。極度に健康状態が悪化していた母子に、いったいどんな所得があったとみなしたのだろうか。

 まず、母の扶養義務者である次男が扶養費を出すものと「みなされた」金額の約25万3千ウォン(約2万3千円)が所得認定額になった。現行法上、受給基準を満たすほど貧しくても扶養能力があると判断された親・子ども・配偶者の「扶養義務者」がいるなら、生計給与・医療給与の受給者にはなれない。「扶養能力あり」と「なし」の間には「扶養能力微弱」というカテゴリーがあるが、扶養能力が弱い扶養義務者に扶養費の一部を負担させる代わりに受給権を与える。 この場合、政府は扶養義務者が扶養費を負担するとみなす「みなし扶養費」を計算し、受給者世帯の生計給与からその金額を天引きしてしまう。受給者世帯に実際に扶養費が支払われているかどうかを政府が確認しないまま、生計給与から扶養費とみなされた金額を削減することに対して「責任放棄」という批判が続いてきた。

江西区の母子が受け取っていたひと月の支援金//ハンギョレ新聞社

■所得なしでも扶養費を賦課した政府

 次男は今年、健康状態が急激に悪化した兄と母親の面倒を見るために日雇い仕事さえできなかったという。にもかかわらず、なぜみなし扶養費が課せられたのか。扶養義務者世帯の所得の調査は毎年3月と9月の二度行われるが、今年3月の調査では昨年下半期(10月~今年3月)に稼いだ所得が反映されるため、みなし扶養費が発生したというのが福祉部の説明だ。6カ月間に稼いだ金額を合算して月平均所得約254万ウォン(23万3千円)を算出した後、基準中位所得100%(1人世帯170万7008ウォン=約15万7千円)を引いて残った金額のうち30%の25万ウォンを母親と兄の生計給与から差し引いたのだ。それに先立つ2018年下半期には、みなし扶養費が課されていない。

 福祉部の関係者は、「次男が所得変動の事実を直接申告していたなら、生計給与からみなし扶養費を引かなかっただろう」と述べた。しかし、政府や自治体が生計給与の削減理由を具体的に知らせず、この家族は「みなし扶養費」の存在すら知らなかった可能性が高い。そのうえ母親の基礎年金約25万3千ウォン(約2万3千円)も所得認定されてしまった。基礎年金は所得下位70%の65歳以上に支給されるが、極貧層の生計給与受給者である高齢者宛には、その金額が次の月の生計給与から天引きされるので「与えて奪う基礎年金」と呼ばれている。また、母親は国民年金法による月21万1千ウォン(約1万9千円)の配偶者遺族年金を受け取っていたが、これも所得認定された。

 このように政府はみなし扶養費・基礎年金・国民年金の約71万7千ウォン(約6万6千円)を引いて、母と兄にひと月の生計給与として約15万4千ウォン(約1万4千円)を支給していた。基礎年金と国民年金、障害者年金及び付加給与38万ウォン、基礎自治団体の支援4万ウォンなどを加えて3人が受け取っていた公的移転所得は、毎月約100万ウォンだった。毎月約4万ウォンの家賃補助が支給されたものの、通常5~6万ウォンである賃貸アパートの家賃にも満たない金額だった。足りない生活費を割いて医療給与受給者にも時々発生する患者本人負担金や追加介護費も払わなければならなかっただろう。

■看病の負担に貧困まで背負った次男

 扶養義務者基準の緩和が少しでも早まっていれば、この母子の困窮を軽減することができた。2020年からは生計給与の受給者世帯に重度の障害者がいれば、扶養義務者基準が適用されない。もう少し早ければ、次男が負わされたみなし扶養費自体がなかっただろう。

 国民基礎生活保障法は7日で制定20周年を迎える。制度施行初年から19年のあいだ受給してきた、長く貧困から抜け出せずにいた母と2人の息子。そのうち唯一の働き手だった次男は、不十分な長期療養保険と障害者活動支援サービスによって生じた「介護・看病の空白」を自ら満たしてきた。人間らしい暮らしが保障されないまま、重複受給防止を名目に複雑に設計された制度による経済的困難まで一人で耐えてきた。個人が埋めていた社会保障のあちこちの隙間で、声もなく死にゆく人々が連なっている。

パク・ヒョンジョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/908684.html韓国語原文入力: 2019-09-06 06:01
訳D.K

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