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勤務条件の改善が実現したブラジルのサムスン工場…強い労働法と労組があった

登録:2019-07-02 22:54 修正:2019-07-03 08:05
グローバル・サムスン持続不可能報告書(5)エピローグ 
2013年まで他所と同様“生産現況電光掲示板” 
現地の労働検察“労働搾取”でサムスン電子を起訴 
サムスン人権保護広告キャンペーン、労働尊重を約束 
「労働者が労組により代表される珍しいサムスン工場」
サムスン電子のブラジル工場でも、2011~2013年に長時間労働と罵りなどの劣悪な労働条件が問題になった。ベトナムやインドなどアジアの多くの国の工場とは異なり、ブラジル政府と労働者はこれに強力に対応し労働条件を改善した。写真はサムスン電子マナウス工場/聯合ニュース

 サムスン電子は、ブラジル北部のマナウスと南部のカンピーナスにも生産工場を置いている。この2カ所の工場は、アジア地域のサムスン工場とは違う。まず、ブラジル工場にはリアルタイムで生産現況と目標値を表示する電光掲示板がなく、不法な見習工雇用がない。過労の原因になる無分別な超過勤務や、“急げ急げ”に代表される韓国式いじめも見られない。労働条件の差を作ったのは、その国の労働法と“労働者の力”だった。

グローバル・サムスン持続不可能報告書//ハンギョレ新聞社

 サムスン電子のブラジル進出は、1995年に北部マナウスに職員6千人規模の携帯電話生産工場を建てて本格的に始まった。2004年にはマナウスに比べてやや小規模のカンピーナス家電製品工場を追加で作った。サムスンは、中南米市場に供給する製品の多くをそこで作る。

 サムスン電子のマナウス・カンピーナス工場の労働条件は、少なくとも2010年代初期まではアジア工場の事情と大差なかった。2カ所でも2011~2013年に長時間労働と韓国人管理者の言語的・身体的いじめ、解雇威嚇などに関する論議が起きた。

 2011年11月、カンピーナス工場で最初の事件が起きた。サムスン電子の生産ラインで仕事をしていた一部の労働者が、劣悪な労働条件を改善してくれとして労働部を訪ねた。彼らは、管理者の無理な目標量設定とそれに伴う高強度労働や罵倒、休憩時間を守らないことにより被害を受けたと主張した。

 ブラジル労働検察(MPT)は、労働法違反の責任を問いサムスン電子を起訴した。事件は裁判所の調停を経て、サムスンが地域社会福祉基金に50万レアル(当時の為替レートで約2400万円)を寄付することで終わった。労働者の作業速度を高めるために工場内に設置した生産現況電光掲示板もその後消えた。

 2013年8月、マナウス工場でも同様の事件が起きた。労働検察の調査で、一日最大15時間の長時間労働と高い労働強度の問題が明らかになった。労働者が工場外で休める時間は、一日1回(10分)しかなかった。正規職がしなければならない仕事を不法に雇用された派遣労働者が従事している事例も明らかになった。

 労働検察は、サムスン電子を相手に2億5千万レアル(当時の為替レートで約113億円)の損害賠償を要求する大規模公共民事訴訟を提起した。15日後、ブラジル労働法院は、サムスンに対し一日10時間を超える長時間労働と派遣労働者の不法雇用を直ちに中断するよう命じた。

 サムスンに対する天文学的規模の公共民事訴訟は、2014年12月サムスンがブラジル政府と「行動規範調停合意」(TAC)を結び一段落した。ブラジル労働検察は翌年、ホームページを通じてサムスンがTAC合意とともに地域社会福祉基金と労働人権保護に関する広告キャンペーンに合計1千万レアル(約4億5千万円)を寄付したと明らかにした。さらにサムスンは、事業場で労働者の人権と尊厳を侵害するいかなる行為もしないとブラジル政府に約束しなければならなかった。

 2017年12月、ブラジルの労働団体「リポーターブラジル」(Reporter Brasil)と欧州の非政府機構SOMO(多国籍企業調査センター)が発表した調査報告書によれば、サムスン電子のマナウス・カンピーナス工場の労働条件は、その後大幅に良くなったと見られる。両団体は、ブラジルに進出した多国籍企業の労働人権実態を扱った「ブラジルに進出した外国系電子企業の労働条件」報告書を通じて、2011~2013年にサムスン電子の工場で問題になった過度な超過勤務と韓国人管理者のいじめは、2015年調査では発見されなかったと明らかにした。

サムスン電子マナウス工場の生産ラインで、立って仕事をする労働者=リポーターブラジル提供//ハンギョレ新聞社

 当時の調査に直接参加したリポーターブラジルのアンドレ・カンプス研究員はハンギョレとの電子メールのインタビューで「2014年にブラジル政府とサムスン電子の間でなされた合意は、その後のサムスン工場の労働条件改善に肯定的影響を及ぼした」と説明した。

 サムスン電子ブラジル工場の労働条件が数回の論議を経て一定程度良くなったのは、一次的には政府の積極的介入とそれを可能にした労働法のおかげだ。ブラジルの労働法は、2017年に改悪論議をかもしたりもしたが、今もなお労働親和的という評価だ。労働検察と労働裁判所も韓国にはない制度だ。労働者が使用者の労働権侵害に訴訟で対抗するケースが多い。所得が一定基準以下ならば、無料訴訟も可能だ。

 労働組合の高い組織率と強い影響力も、サムスン工場の労働者の労働条件を改善するうえで大きな役割を果たした。サムスン電子のマナウス・カンピーナス工場労働者の相当数は地域別金属労組に加入し活動しているが、サムスンの労働者が比較的自由に労組活動をできる数少ない地域がブラジルだ。労組はサムスン工場の雇用不安と賃金水準の下落に対抗した。

 2012年サムスン電子ハンガリーに続きブラジル工場の労働実態調査にも参加したSOMOのイレナ・スヒポール先任研究員は、ハンギョレとのインタビューでグローバル・サムスンの労働条件が当該国の労働法と労組の地位により変わると話した。「サムスン電子は、超国籍企業に関する国連のガイドラインなど国際規範に従うよりは、各国の労働法の水準に合わせて自分たちの“低費用モデル”を実現することにはるかに関心が高いというのが私たちの結論だ。現地政府が低費用モデルを許容しさえすれば、サムスンは労働権保護のための“グローバルスタンダード”などは簡単に無視すると判断する」

 実際、SOMOの調査結果によれば、サムスン電子ハンガリー工場では2012年の調査当時「タイムバンク」という名前で4カ月単位の弾力勤労制を施行していた。超過労働に対する補償は手当ではなく、オフシーズンに少なく働くことによりなされた。これは賃金減少につながった。ハンガリーでは、弾力勤労制を労働者代表の同意を得ずに使用者の指示で実施できる。労組組織率が8~9%に過ぎないほど低く、団体協約の保護を受ける労働者も多くない。昨年5月、欧州連合(EU)執行委員会が「ハンガリーの社会的対話の構造およびプロセスは、後進的水準に留まっている」と指摘したほどだ。

 スヒポール研究員は「(2015年の調査で)依然として一部の労働条件で問題が見つかったが、ブラジルはサムスンが進出した他国とは明確に違った」として「ブラジル工場は、労働者が労組に代表される世界中のサムスンの数少ない工場の1カ所」と話した。

 低賃金長時間労働と雇用不安など、全世界のサムスン電子工場でよく見られる劣悪な労働条件を改善するには、当該国の意志とともに労働者に実質的な“結社の自由”が保障されなければならないという話だ。インドネシアの労働団体LIPSのパフミ所長も、アジアにおけるサムスン工場の劣悪な労働条件問題と関連して「サムスンの労働者は無労組状況でこうした問題に集団で抗議できる手段がない。アジアにおけるサムスンの工場に労組が存在していれば、労働者自身が最小限の権利を主張し守れる環境を作ることができただろう」と話した。

チェ・ソンジン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/900101.html韓国語原文入力:2019-07-02 07:04
訳J.S

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