グローバル超一流企業として君臨するサムスン電子は、今や韓国だけの企業ではない。超国籍企業サムスン電子は、世界の人々にどんな姿に映っているのだろうか。サムスン電子で働く労働者は、サムスンに対してどう思っているのだろうか。特にサムスン電子の主要生産基地に浮上したアジア地域の労働者の暮らしと労働の現実はどうなっているのだろうか。この質問の答えを得るために、ハンギョレはベトナム、インド、インドネシアのアジア3カ国9都市を訪ねた。2万キロ余り、地球半周分を巡って136人のサムスン電子労働者に直接会って質問調査した。国際労働団体がサムスン電子の労働条件に関する報告書を発刊したことはあるが、報道機関としては韓国内外をあわせて最初の試みだ。10人の労働者に深層インタビューし、20人余りの国際経営・労働専門家にも会った。70日にわたるグローバル・サムスン追跡記は、私たちが漠然とは察しながらも、しっかり見ようとしなかった不都合な真実を暴く。真実に向き合うことは、そのときは苦痛かもしれないが、グローバル企業としてサムスンがブランド価値を高めるためには避けられない過程だと判断する。5回に分けてグローバル超一流企業サムスン電子の持続可能性を尋ねる。
インドの市民団体がサムスン関連報告書を書いた後、9カ月にわたりサムスンと警察に査察されたという主張が出てきた。該当報告書は、サムスン電子チェンナイ工場の無労組戦略と違法な労働搾取に関する内容で、サムスンが会社に不利な内容を口止めするために公権力を動員したのではないかとの疑惑を買っている。韓国国内で多く問題になった警察との癒着関係、そして私生活侵害という後進的な形態を海外でもそのまま繰り返しているとの批判を免れられない。
「サムスン、9カ月にわたり公権力を詐称し監視した」
ハンギョレは、インドのNGOであるA団体がサムスンと警察の接触を記録した9カ月分(2016年8月~2017年5月)の日誌を入手した。日誌には、警察がA団体の活動家の両親の自宅を訪問したり、労働者に偽装してA団体に会った事実がすべて記されている。サムスンの職員が、警察官を同行させてA団体を直接訪ねて行き圧迫したという内容もある。サムスンのこうした動きは、A団体の事務総長が自らサムスン・インド法人の常務に抗議した後に一段落した。
A団体は、別の市民団体にこうした状況を知らせるために、2017年5月「A団体に対するサムスン電子の嫌がらせと威嚇日誌」を作成した。要約文でA団体は「この9カ月間、私たちの団体は労働者や公権力を詐称した人物の隠密な監視と妨害を受けた。ある女性活動家は、ストーキング行為までされた」として「最近、こうした嫌がらせと脅迫が世界的に名声が高いサムスン電子の指示によりなされたという事実がわかった」と書いた。
A団体の関係者は、ハンギョレとの通話で「サムスンに関連した問題に限っては、私たちの名前を明らかにしないことが身辺保護に良いと判断した」として匿名での報道を要請した。
警察官を伴ったサムスンの職員「綿密に監視するだろう」
日誌によると警察の接触は2016年8月13日に始まった。A団体が報告書をオンライン上に公開し、補完のために削除した後からだ。この日、A団体のある活動家は、個人用の携帯電話で「プレクストロニクス(電子部品製造企業)に通っているが悩んでいる」という連絡を受けた。翌日直接会うと、この“労働者”は警察官の身分証を差し出した。カーンチープラム郡警察庁のQブランチ(反政府団体関連事件を捜査・監視する部署)所属のバサンティ警衛(Sub-inspector)と記されていた。カーンチープラム郡は、サムスンのチェンナイ工場がある所だ。
バサンティ警衛は、A団体の資金の出処を問い質し、活動家の両親の自宅住所などの個人情報を収集して行った。調査の理由についてバサンティ警衛は「『A団体がプレクストロニクスの職員250人に電話して、女性労働者委員会への加入を薦めた』という申請が入ってきた。これについて上司がA団体を調べてみるよう指示した」と話した。A団体は、プレクストロニクスにそのような電話をかけたことはなかった。A団体の関係者は「この時まではサムスンと関連があるとは知らなかった。単に、何かおかしいという感じを受けた」と説明した。
バサンティ警衛の意図は2カ月後に明らかになった。10月20日、彼はサムスンの職員ティライナヤガムと共にA団体を再訪した。ティライナヤガムは「警察署長を歴任し、今はタミル・ナードゥ州警察庁の刑事部で勤務している」と自身を紹介し、A団体の活動報告書などを持っていった。彼が実際には元警察官であり、現職はサムスンの警備業者の職員であるという事実は、6カ月後に明らかになった。
その間、ティライナヤガムは現職警察官に偽装して、A団体の情報を収集していった。A団体の関係者は「警察官だと思ったので、くれと言われた資料はほとんどすべて渡した」と話した。10月22日には「一部の市民団体をさらに綿密に監視するよう政府の指示があった」として、A団体の資金内訳を調査した。
報告書が発刊された2017年3月以後には、いっそう執拗になった。3月21日から4月22日まで8回にかけて、直接またはバサンティ警衛らを通して連絡を取った。「(サムスン内に)労働組合を作ろうとする意図があるのではないか」「労働者にパンフレットを配ったことがあるか」という追及が続いた。身分がばれた後には「会社(サムスン)にA団体に関する報告書を出さなければならない」として、露骨に協力を要求した。2017年5月にはサムスン労務チームも加勢した。5月2日、ティライナヤガムとパルティバン(サムスン労務チームの職員)は、20分間隔である活動家に電話をかけ、会うことを要求した。
家族を追跡した警察官「借金はないか」
日誌には、警察官がA団体の活動家の故郷を訪ねて行き、裏調査をした情況も含まれている。サムスン工場から200キロメートル以上離れた地域なので、サムスンと警察の癒着が地域レベルを越えて広範囲になされた可能性が提起される。
ダルマプリ郡警察庁Qブランチ所属の警察官2人は、2016年9月まである活動家の両親が暮らす自宅に少なくとも2回訪問し、1回電話をかけた。彼らはこうした調査を基に報告書を作成し、バサンティ警衛らと共有した。報告書には、活動家が学資ローンを返し切れていないという内容などが含まれていた。警察が両親から受け取った活動家の顔写真も含まれていた。調査する中で、警察官は該当活動家が毛沢東主義者やスリランカの団体との関連の有無などを問い質したという。
活動家の知人を通した裏調査もなされた。4月18日、ある活動家は自分の以前の指導教授から電話を受けた。この教授は「ティライナヤガムが君について尋ねてきた。彼はサムスンの職員で、A団体を徹底的に調査するよう指示を受けたと言っていた」と伝えた。A団体はこの時、ティライナヤガムがサムスンの職員である事実を知ったという。
A団体の関係者は「私たちは、ティライナヤガムが自分の警察の後輩を動員して裏調査をしたと推定している」として「家族や知人を動員した圧迫に、一部の活動家は深刻な恐怖を感じた」と話した。
「もう接触しない」と言いつつも…公式な謝罪はなかった
A団体の事務総長は2017年4月24日、サムスン電子インド法人のマヌ・カプール常務に直接連絡し抗議した。ティライナヤガムの所属部署と職務を確認することも要請した。これに対しカプール常務は5月2日、事務総長に電話をかけて「職員に二度とA団体に接触しないように言った。これまでのことは謝る」と話したという。また3日後には、同様の内容の電子メールをA団体に送った。この電子メールには、ティライナヤガムなど職員がCC受信者として指定されていた。しかしカプール常務は、ティライナヤガムの所属を明らかにしてほしいというA団体側の要請には答えなかった。公式な謝罪もなかった。
ハンギョレもサムスン側に説明を要請したが、公式な返事を受け取ることはできなかった。ただし実務陣は、A団体を調査した事実を一部認めた。当時、市民団体関連業務を担当したというあるサムスン・チェンナイの関係者は「A団体の活動家の規模、資金の出処などを把握した」と話した。