「サムスンの影響力は、むしろ解雇されてからよく分かるようになりました。警察もマスコミも、そろってサムスン側でした」
プレラナ・シンさん(27)は2017年8月9日、インド・ノイダのサムスン電子研究開発センターを解雇された。突然の通知だったが、それほど驚かなかった。プレラナは「セクハラなどの疑いで管理者3人を告訴した後だったため、ある程度の報復は覚悟していた」と話した。本当に驚いたのはその後だった。助けを求めに訪ねて行った警察は「すぐに出て行け」と脅したし、関心を見せたマスコミは「広告問題がある」と言って背を向けた。最後の手段として、プレラナはサムスンに僅か1ルピー(約1.6円)を請求する損害賠償請求訴訟を起こした。
先月25日、インド・デリーの最高裁の近隣にある弁護士事務室で会った彼女は、「お金も復職も望まない。サムスンの謝罪を受けたいだけだ」と淡々と話した。
プレラナは、インタビューの間ずっと“警察”という単語を発することを敬遠した。解雇通知を受け取った日、彼女は僅か20分で会社から追い出された。警備員が「出て行け」と大声を張り上げ、彼女の腕を掴みもした。プレラナは、同僚の職員と一緒に管轄警察署のノイダ62区域派出所を訪ね「助けて欲しい」と要請した。解雇された時、解雇されても自分の足で歩いて出たかった。だが、派出所に入った瞬間、おかしな印象を受けた。
「その派出所は、普段は職員が多くても3~4人だけなんです。ところがその日は10~15人もいて、皆私が来ることをあらかじめ知っているようでした」
プレラナの予感は当たっていた。警察はプレラナの話を聞こうとしなかった。彼女が口を開く前に「出て行け」と大声を張り上げた。あきれたプレラナが携帯電話でこれを撮影すると、警察は「撮影を中断しなければ携帯電話を壊してしまうぞ」と脅迫した。ある警監はプレラナに“MCBC”と罵り、彼女を手で押し退けもしたという。“MCBC”は、相手の母親と女きょうだいを性的蔑視する表現で、インドの女性には最も侮辱的な悪口の一つだ。プレラナは「ここでそんな言葉を聞くとは思わなかった」と涙まじりに話した。結局プレラナは、5分後には派出所から追い出されていた。
“サムスン”という文字にマスコミの態度も急変した。解雇以後、プレラナと彼女の友人は、オンラインで被害の事実を積極的に知らせた。解雇当日にはプレラナが警備員と警察の対応をフェイスブックで生中継した。この映像は数カ月間に照会数49万件を記録する程に関心を集めた。報道機関数十社から連絡が来た。
しかし、結果的にプレラナ事件を報道したメディアはオンライン・メディア2社だけだった。プレラナは「最初は記事を書くと言っていた記者も、後になってデスクがウンと言わないとし、申し訳ないと言いました」として「サムスンから広告をたくさんもらっているためだと言った」と話した。
当時、プレラナ事件を取材したアチトゥ・グプタNDTV記者は「プレラナの話は本当だ」として「サムスンは、大企業で多くの報道機関に広告を与えている。インドには公式にサムスンの後援を受けている報道機関もある」と話した。
サムスンは、プレラナを解雇した後に100万ルピー(約160万円)の損害賠償請求訴訟を起こした。プレラナによるフェイスブック生中継などが、会社の名誉を傷つけ会社に損害を及ぼしたと主張した。これに対しプレラナ側は、1ルピーを請求する対抗訴訟を起こした。プレラナは「後で聞いた話だが、私のようにサムスンから不当解雇された職員は多いが、誰もまともに問題提起できなかったという」として「二度と新たな被害者が出ないようにしたかった」と話した。
訴訟はまだ進行中だが、最近プレラナは小さな勝利を収めた。これに先立ってプレラナとサムスンは相互の訴訟についてそれぞれ訴えを取り下げる申請をしたが、先月21日に裁判所がプレラナの手を上げた。サムスンが出した訴訟は却下の有無が決定されるまで訴訟を中止するものの、プレラナが出した訴訟はそのまま進めることにした。
プレラナは「2年かかって初めてこの社会にまだ“品格”があることを感じた」として「必ず最後まで戦うだろう」と力強く話した。