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“グローバル最低線”の汚名を得たサムスン…大転換なしには未来はない

登録:2019-07-02 22:59 修正:2019-07-03 15:50
グローバル・サムスン持続不可能報告書(5)エピローグ 
 
下半期欧州連合議長国を受け持つフィンランド 
最近「人権実践点検義務」法制化推進を発表 
2年前に立法終えたフランスに続き2番目 
 
国際労総「企業監視はいっそう強化されるだろう」 
「中世の労働条件」レッテルを剥がせないサムスン 
労働尊重の大転換なければ持続不可能
サムスン電子のグローバル事業組織//ハンギョレ新聞社
グローバル・サムスン持続不可能報告書//ハンギョレ新聞社

 企業の人権経営に関する国際的基準が変化している。主要20カ国・地域(G20)の首脳が「持続可能なグローバル供給網」宣言を採択したのに続き、フランスやフィンランドなどヨーロッパを中心に企業の包括的労働人権遵守義務を法で規定する動きが続いている。国境を越えてなされる超国籍企業の労働搾取に積極的に介入するという趣旨だ。サムスンのグローバル経営を持続可能にするなら、企業の人権経営および労働権強化に注目する国際的流れに足並みをそろえ、組織全般の認識と体系を手術する大転換が必要だという指摘が出ている。

企業の人権基準が変わる

 今年6月初め、フィンランド政府は企業の「人権実践点検義務(Human Rights Due Diligence,HRDD)」の法制化を公式発表した。欧州の企業人権リソースセンターのホームページ(business-humanrights.org)を見れば、フィンランドは関連法案導入のためにまもなく利害当事者の意見取りまとめを始める予定だ。フィンランド政府は、人権実践点検義務の法制化を欧州連合(EU)レベルでも推進すると約束した。フィンランドは今月から欧州連合の議長国を受け持っている。

 人権実践点検義務とは、労働法の体系が緩く人件費の安い低開発国家を移動しながら、長時間低賃金労働などで莫大な富を積むグローバル企業を牽制するために、2011年に国連が初めて設けた概念だ。当時国連は「企業と人権履行原則」を制定し、サムスン電子のように世界各地で部品を調達し製品を生産し、これを再び各国に輸出するグローバル企業に一次元高い人権経営の責務を要求した。この原則は、グローバル供給網(Supply Chain)で起きている人権および労働権の侵害有無を把握し、これを予防しなければならない包括的義務が各企業にあると規定している。

 国連が企業の人権実践点検義務履行責任に釘をさし、欧州の多くの国がこれを国内法として受け入れる動きに出た。まずフランスが2017年初めに関連法を制定し、労働者規模5千人を超える大企業の人権実践点検義務を規定した。この法案には、フランスに本社を置く労働者数5千人以上の大企業は、例外なく人権実践点検義務履行計画を提出しなければならないとの内容が入れられた。これに伴い各企業は、フランス本社はもちろん全世界の工場で起きる労働人権および環境侵害の有無について報告し、その対応策も樹立しなければならない。フィンランド政府が世論の取りまとめを経て該当法案を制定すれば、フィンランドはフランスに続き二番目に人権実践点検義務を法制化した国となる。

 「フランスの人権経営制度化」報告書を書いたクァク・ウンビ弁護士(法務法人地平)は、「フランスなど欧州国家を中心に続いている人権実践点検義務の法制化は、人権経営が“遵法経営”の領域に移っているという事実を意味する」として「これからは低開発国家でなされるグローバル企業の人権侵害問題が該当企業の評判、消費者および投資家の信頼を決定する重要な要因として作用することになるだろう」と指摘した。サムスンなど韓国国内に本社を置くグローバル企業も、こうした動きを理解し受け入れるほかはないというのがクァク弁護士の説明だ。

G20首脳も“労働人権”宣言

 2017年8月、主要20カ国・地域(G20)の首脳が「持続可能なグローバル・サプライチェーン」宣言を採択したことも注目すべき変化だ。当時G20の首脳は、ドイツ・ハンブルグに集まり「持続可能で包容的なサプライチェーンを実現するために、私たちは国連の『企業と人権履行原則』と国際労働機関(ILO)の『多国籍企業の社会政策に関する三者宣言』など国際的に認められた基本枠組に則り、労働、社会、環境基準および人権の履行を奨励することとする」と約束した。また「私たちは国家人権政策基本計画(NAP)など(人権経営に関する)適切な政策的枠組を設けることに努め、企業の人権実践点検義務を強調する」と付け加えた。G20の首脳が、グローバル企業のグローバル・サプライチェーンで起きる人権および労働権の侵害問題を解決するために、自ら解決法を出したことは類例のないことだった。

 2015年に設けられた英国の「現代版奴隷労働防止法(Modern Slavery Act)」も、人権実践点検義務を部分的に導入した法案として評価される。英国に進出した企業は、人身売買や児童労働を通じて製品を生産したり取り扱ったりしていないという事実を報告するよう義務化した内容だ。サムスン電子の英国法人も、2017年に関連報告書を提出した。オランダ議会も今年5月、児童労働などに関する人権実践点検義務を企業の義務として規定する法案を通過させた。今年2月、ドイツのマスコミは、連邦経済協力開発部(BMZ)が設けた人権実践点検義務法の草案を報道した。

“中世の労働条件”という批判

 国際社会が、グローバル企業を相手に過去とは異なる高水準の人権経営を要求するのは、サムスン電子がアジア各国で見せた経営形態と無関係ではない。ハンギョレの「グローバル・サムスン、持続不可能報告書」連続報道が出る前には、韓国国内ではほとんど紹介されなかったが、サムスン電子の国内外工場における劣悪な労働条件は、すでに少なからぬ国際的論議をかもしてきた。サムスン電子は、世界73カ国に217の事業組織(2017年末基準)を置いている。アジア、欧州、中南米などに置かれた39の生産法人もここに属する。

国際労総(ITUC)が2016年10月に発表した「サムスン:現代的技術、中世の労働条件」報告書//ハンギョレ新聞社

 世界最大の労組連合体である国際労総は2016年5月、労組破壊と低賃金労働、高い労働強度などについてグローバル企業の責任を問う「企業の貪欲を止めろ(End Corporate Greed)」キャンペーンを始めた。最初の対象企業がサムスンだった。国際労総は同年10月、「サムスン:現代的技術、中世の労働条件」報告書で、サムスン電子中国工場の長時間労働、インドネシアで起きた労組破壊、インドの無分別な見習工活用などに関する論議を紹介した。国際労総は報告書で「サムスンの無労組政策はアジア全体の電子産業に影響を及ぼしている」と主張した。

 報告書を総括したシャラン・バロウ国際労総事務総長は昨年3月、ベトナム訪問を控えた文在寅(ムン・ジェイン)大統領に公開書簡を送った。バロウ事務総長は書簡で、サムスン電子ベトナム工場の労働安全問題などを指摘して「(文在寅)大統領のベトナム訪問および首脳会談を控えて、国際労総はベトナムのサムスン電子工場の人権および労働権に対する深刻な憂慮を伝える」と明らかにした。韓国政府がサムスン工場問題解決のために乗り出してほしいということがバロウ事務総長の要求だった。

 非政府機構SOMO(多国籍企業調査センター)は2017年12月、「ブラジルに進出した外国系電子企業の労働条件」報告書を通じて、サムスン電子ブラジル工場の長時間労働と人権侵害問題を大きく扱った。欧州の電子産業監視市民団体「グッドエレクトロ」(goodelectronics.org)とブラジルの労働団体「リポーターブラジル」が報告書に共に参加した。SOMOは2012年12月「フレックス症候群」という報告書を出し、サムスン電子ハンガリー・ヤースフェーニャサル(Jaszfenyszaru)工場の労働条件を批判した。

「もう状況は変わっている」

 シャラン・バロウ国際労総事務総長は24日、ハンギョレとの書面インタビューで「サムスンのように全世界的サプライチェーンを持つ巨大企業は、今まで各国の労働者を(使い捨てる)消耗品と考えてきた。これは、これらの企業を管理・監督すべき各国の法制度が“グローバル・スタンダード”に合わないために起きたことだが、もう状況は変わっている点に注目しなければならない」と指摘した。

 アジア、中南米、東欧の一部国家の労働環境は相対的に劣悪だ。労働法が国際的基準に合わなかったり、法体系は備えているものの現場にまともに適用できない社会的雰囲気のせいだ。グローバル企業にとって、低い人件費と使用者に親和的な現地法体系は魅力として映らざるをえない。

シャラン・バロウ事務総長は「サムスンのように全世界的サプライチェーンを持つ巨大企業も状況が変わっていることに注目しなければならない」と指摘した=国際労総ホスト・ワグナー提供//ハンギョレ新聞社

 例えばサムスン電子は、2001年に中国・天津に携帯電話工場を新たに建てた。中国市場に直ちにアプローチできるという条件も長所だったが、それ以上に“安い人件費”がさらなる長所として作用した。年間1億台以上の生産能力を備えた天津工場は、2010年代初中盤までサムスン電子の最大生産基地の役割を果した。

 天津工場の地位は2012年、劣悪な労働条件問題に続く人件費負担の上昇で、急速に落ちた。同年9月「中国労働監視」などの国際市民団体は、天津工場で日常的に起きていた長時間超過労働、不法見習工活用などに関する問題を提起した。これに対しサムスンは、2013年4月から勤務体系を昼・夜2班交代から3班2交代制に変え、労働時間を減らした。一時は全生産人材の6%に達していた見習工も2013年からは使わなかった。生産量と関係なく雇用が増え、人件費負担はさらに大きくなった。(韓国労働研究院「グローバル生産ネットワークと東アジアの働き口変動」)

 サムスン電子がベトナム・バクニン(2008年)に続きタイグエン(2014)に携帯電話工場を建てた後、天津工場の生産量はさらに大幅に減った。サムスンは結局、昨年12月に天津工場の撤収を発表した。ベトナム労働者の平均賃金は、中国の半分にも届かないことが分かった。

 来年完工すれば単一工場としては世界最大のスマートフォン生産基地になるインド・ノイダのサムスン電子工場のケースも、ベトナムへの移動と同じ脈絡で把握できる。こうした形の移動は、賃金水準だけでなく労働の強度および時間、化学物質に対する規制など労働条件をめぐる該当国家の全般的な管理が不十分なところを探して移動する資本の特性を克明に見せる。これに伴い「サムスンが行く所にはグローバルの最低線が作られる」という非難がついてまわる。だが、工場がどこにあるかに関係なく、グローバル資本に対する人権および労働権の関連規制が強化されている現在の傾向を見る時、サムスンの「グローバル最低線作り」が限界に直面するのは時間の問題と指摘されている。先制的なパラダイム転換を通じて、あらかじめ備えないならば、安定した経営を困難にする決定的な脅威要素に浮上すると見られる。

サムスン、国際労働人権専門家を迎え入れたが…

 サムスン電子も、グローバル企業に対する国際社会の人権経営要求を認知している。今年3月、多くの韓国メディアは、サムスンが韓国企業として初めて国外労働・人権担当(部長級)を新設し、リンダ・クロムヨン元国際経営者団体(IOE)総裁を迎え入れたと報道した。グローバル水準に合わせて、労働と人権に関する企業の社会的責任を高める意思と解釈される。

 また、サムスンは毎年持続可能経営報告書を通じて、労働・人権基準と履行実態を詳細に紹介している。サムスンが属する「責任ある企業同盟(RBA・旧電子産業市民連帯)」の行動規範に徹底的に従うとも強調している。労働・人権分野の危険事業場を選定し「サムスン電子専門家診断」を実施していることも特徴だ。ただし、グローバル労働・人権専門家で構成される点検団を、サムスンが自ら選抜しているという限界がある。

 これと関連して、ナ・ヒョンピル国際民主連帯事務局長は「世界的次元で人権実践点検義務に対する関心が高まっているだけに、少なくとも欧州の消費者はサムスンの製品が労働権が十分に尊重される工場で生産されたものか、生産過程に労働搾取がなかったかを問い詰めることになるだろう。サムスンの持続可能性は、労働・人権の“専門家”の招聘ではなく、人権経営の実践の意志をどこまで持っているかによって変わるだろう」と指摘した。

チェ・ソンジン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/900003.html韓国語原文入力:2019-07-02 07:19
訳J.S

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