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基本所得の実験から3年…農業者・若者・児童手当広がる

登録:2019-04-30 07:46 修正:2019-05-01 16:43
地方自治体54カ所で農業者手当を推進 
海南郡、年60万ウォンを来月から初施行 
江原道は4歳までの育児基本手当 
京畿道・慶南固城郡は若者手当支給 
自治体首長65人が「基本所得の導入に努力」 
基本所得施行のための“財源調達”が課題 
「金持ちになぜ手当て?」認識も変えるべき
全国の基本所得導入および推進現況//ハンギョレ新聞社

 「一年の農作業の末の収穫前の気分だ」

 全羅南道海南郡(ヘナムグン)の農家のチョン・ゴソプさん(54)が29日、3日後に迫った「農業者手当」申請を控えて、にっこり笑いながら話した。チョン氏を含む海南郡住民らは、昨年の6・13地方選挙の後、郡守を説得して農業者手当条例を制定に力を込めた。その結果、郡は6月から1万5千世帯の農家1世帯当たり年間60万ウォン(約5万8千円)の農業者手当を支給する。これは全国で初めてだ。もちろん、月5万ウォンでは暮らしは大きく変わらないということを農業者たちもよく知っている。しかし農業者手当が持つ「意味」は、彼らにとって格別だ。チョンさんは「農業者手当で所得や暮らしが良くなるのは難しいが、農業と農村の公益的機能を社会が補償するという面から、食糧生産者としての自負心を農家に植えつけることができると思う」とし「農家の価値が認められたということに意味がある」と述べた。

 基本所得政策が全国に拡散している。2016年、京畿道城南市(ソンナムシ)とソウル市がそれぞれ、若者配当や若者手当政策を施行して火をつけた地方政府の基本所得の実験が3年を迎え、様々な形に進化している。

 江原道では、今年生まれる児童からは4年間月30万ウォン(約2万9千円)ずつの「育児基本手当」を受けることになる。地方政府が育児手当を支給するのは今回が初めてだ。政府(保健福祉部)が支給する児童手当(月10万ウォン)と家庭養育手当(年齢によって月10万~20万ウォン)まで加えると、最大で月60万ウォンまで認められるということだ。

 京畿道では9日から「若者基本所得」(青年配当)の施行に入った。これによって、京畿道に3年以上居住した満24歳の青年は所得、職業と関係なく、四半期ごとに25万ウォン(約2万4千円)ずつ、年間100万ウォンを地域通貨で受け取れるようになった。慶尚南道固城郡(コソングン)では13~18歳の子どもに毎月10万ウォンずつ、電子バウチャーの形で「青少年手当」(クムペア)を支給しており、京畿道富川(プチョン)と安山(アンサン)では芸術家基本所得の導入に向けた議論も行われている。

 特に、農業者手当を導入したり、導入を検討している地域が大幅に増えた。29日、全国農民会総連盟と忠南研究院のパク・ギョンチョル責任研究員などが集計した資料を総合すると、いわゆる農業者手当てを導入したり、導入を推進中の地方自治体は全部で54カ所だ。全羅南道、全羅北道、江原道など広域地方自治体9カ所と、全羅南道康津(カンジン)・海南(ヘナム)、慶尚北道奉化(ボンファ)、忠清南道扶余(プヨ)などの基礎地方自治体45カ所だ。今の農業直払金制度は、耕地面積に応じて支給され、土地を多く所有している者が多く受け取るなど、農村内の不平等と不均衡が増す構造であるため、多くの地域で基本所得の一種である農業者手当の支給を検討しているのだ。パク・ギョンチョル責任研究員は「無分別な自由貿易で農業・農村の基盤が崩れ、農家の暮らしそのものが存続しにくいだけに、農家の基本所得や農業者手当の必要性が提起されている」と説明した。

 全国35カ所の地方自治体も、基本所得の実施に向けた準備に乗り出した。この日、京畿道水原(スウォン)のコンベンションセンターで開幕した「2019大韓民国基本所得博覧会」で、イ・ジェミョン京畿道知事はヨム・テヨン水原市長など道内30の地方自治団体の団体長とペク・ドゥヒョン慶尚南道固城郡守、パク・ジョンヒョン忠南扶余郡守、チョン・トジン全羅北道高敞(コチャン)副郡守など35カ所の自治団体長とともに「基本所得地方政府協議会」共同宣言文を採択した。彼らは宣言文で「基本所得導入に対する全国民の共感の拡散と基本所得基本法の制定、基本所得の財源づくりのためにともに努力する」と明らかにした。

 問題は、韓国社会で基本所得をめぐる議論が依然として論争の対象となっていることだ。所得や財産などの多寡を区別せず条件なしに支給するため、「なぜ金持ちまで支援するのか」といった反発が関連する論議を制約しているのだ。

 これについて専門家らは、基本所得を国民全体の権利という概念としてアプローチする必要があると指摘した。基本所得韓国ネットワーク理事長であるカン・ナムフン韓信大学教授(経済学)は「多くの先進国がすでに『学生手当』など普遍手当を支給している」とし、「貧しい人だけを選別して支援する形態の基本福祉制度が少ない予算で最低生活を保障する概念だとしたら、基本所得は土地環境など社会の共有資産から出る収益を均等に分け合う国民すべての権利という概念でアプローチしなければならない」と述べた。

 財源の調達も障害となる。京畿道が基本所得の趣旨に合わせて若者基本所得を拡大し、京畿道民に1人当たり年間100万ウォンずつの基本所得を支給する場合、一年に13兆ウォンの予算が必要だ。京畿道の一年間の予算は20兆ウォンだ。イ・ジェミョン京畿知事をはじめ、国内の基本所得学者たちが基本所得型国土保有税の導入を主張しているのもこのためだ。国土保有税は、すべての土地所有者に土地面積によって保有税を一括して徴収し、これをまた個人に基本所得として分配する制度だ。「土地+自由研究所」のナム・ギオプ所長は「基本所得の実現のためには土地と天然資源から財源を調達する必要がある。不動産の不平等を減らしつつ、財源を調達する正しい方法だ」と述べた。

 基本所得を巡る議論を拡大させるためには、中央政府が積極的に乗り出さなければならないという指摘も出ている。ニューヨーク大学のアルマーズ・ゼレケ教授は「基本所得に対する関心が拡大するのは、資本主義に対して世界的所得不平等を解決する唯一の解決策だからだ」とし、「基本所得は富の再分配の問題であり、特定の階層でなくみんなが豊かに暮らす道を追求する。基本所得の拡大のためには富裕税など富の再分配が必要だが、これは結局、中央政府の法制改編を通じてこそ可能だ」と説明した。

ホン・ヨンドク、アン・グァノク記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/area/892029.html韓国語原文入力:2019-04-30 07:07
訳M.C

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