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ソウル市青年手当、3年間で1万3663人…「夢を叶える支えになった」

登録:2019-02-25 09:26 修正:2019-02-27 14:36
[青年手当をさぐる] 
ソウル在住の19~29歳の未就業者に月50万円、プログラム支援 
多くが心理的不安が薄れ、社会に対する信頼感が高まる 
20代の若者の貧困率、30代より2倍高い 
「倒れても起こしてくれる制度を実感」

 最近、ソウル市が「条件のない青年基本所得」を支給する政策実験を検討しているというニュースが伝えられ、若者政策をめぐる論争が再燃している。労働能力のある若者を支援するのが正しいのか、無条件で現金を支給するやり方が適切なのか。2016年にソウル市が「青年手当」制度を、城南市(ソンナムシ)が満24歳の若者に年間100万ウォンを支給する「青年配当」制度を施行すると発表した時と似ている論争だ。ソウル市の青年手当制度の成果とともに、議論になった青年基本所得についても、それぞれ別の記事で探ってみる。

2016年、ソウル市が青年手当に対する政府の職権取消措置に抗議する大型の横断幕をソウル市役所の外壁(左写真)に、政府が政府の立場を知らせる横断幕をソウル世宗路の政府総合庁舎の外壁に掲げた=キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 「青年手当を受けたこの6カ月間、集中したのは『自分の中の小さな子どもに耳を傾ける』ということ。本当に私がやりたいことを考えた。小さい子どもはこう言った。『昔から夢見てきた文学者の夢を叶えてみたら』」

 ファン・インギョンさん(23)は特性化高校3年生だった19歳の時から会社に勤めていた。最初は金融会社、2番目は流通会社だった。約2年間、追われるように会社に通った。仕事が終わると疲れて眠るばかりだったので、「夢」という言葉はすっかり遠く感じられた。昨年3月、会社を辞めた。文学を勉強したかったが、勉強するお金がなかった。自発的な退社のため失業手当も受けられない立場だった。

青年手当どの程度役に立ったか//ハンギョレ新聞社

 その頃、ソウル市の青年手当て制度を知った。ソウル市に居住する満19~29歳の未就業青年に6カ月間月50万ウォン(約5万円)を支給し、心理相談や進路探索、地域別若者の会などのプログラムを支援する制度だ。申請者を対象に世帯所得(60%)や未就業期間(40%)、扶養家族数(加点12%)などを計算して1次評価し、主に活動計画を2次評価して、最終対象者を選ぶ。雇用労働部の青年求職活動支援金など雇用に焦点が当てられた既存の政策とは異なり、勉強や芸術活動、創業など若者たちのさまざまな社会進出を支援するために設けられた政策だ。ファンさんのような「雇用セーフティネット外の若者」たちのための一種の社会セーフティネットだ。

 昨年、ファンさんを含め計6338人が青年手当を受け取った。2016年、青年手当など青年活動支援事業が初めて始まって以来、事業に参加した若者は計1万3663人だ。ソウル市は3年間450億ウォンの予算を投入した。ソウル市に住む満20~34歳の青年は約210万人、このうち未就業状態の若者は50万人余りと推定される。未就業青年の2.7%程が支援の恩恵を受けたことになる。

 3月になればファンさんは大学生になる。望んでいた文芸創作学科に合格した。「青年手当を受けて経済的余裕、時間の余裕ができたおかげ」だ。青年手当は作文の勉強に投資した。足りない生活費はアルバイトをしてまかなった。青年手当をもらう前にファンさんは「失敗する余裕がない」と考えていた。しかし、今は違う。「私が倒れても起こしてくれる制度」があることを経験したからだ。

ソウル市青年手当の支給現況//ハンギョレ新聞社

 青年活動支援事業に参加した若者たちの満足度は高い。2017年の参加者2002人に「周りの人々に参加を勧めるか」と尋ねたところ、回答者の93.9%が「勧める」と答えた。「ソウル市の青年手当が目標達成にどの程度役に立ったと思うか」という質問には、「非常に役に立った」という回答が64.4%に達した。32.8%は「役に立った方だ」と答えた。

 貧しい若者たちはこのような助けがもっと切迫していた。キム・ジュンソクさん(仮名・27)は、基礎生活保障(生活保護)受給者の母親と2人きりで暮らしている。真冬でも冷たい地下の部屋に慣れていき、給食費と制服代の心配が頭を離れなかった。高校卒業後に軍隊に行き、デパートの販売職として1年間余り働いた。月150万ウォン(約15万円)を稼いだが、未来が見える仕事ではなかった。2017年に仕事をやめて警察官の試験勉強を始めた。貧しい生活のため、月50万~60万ウォン(5~6万円)の予備校代を払わなければならない鷺梁津(ノリャンジン)の国家試験予備校に通うのは想像もできなかった。がんで闘病中の母親に助けを求めることもできなかった。平日には一人で勉強し、週末にはコンビニエンスストア、ネットカフェでアルバイトをしながら生活費を稼いだ。心身ともに疲れた頃、友人にソウル市の青年手当の話を聞いた。昨年、青年手当を受け取った6カ月間、キムさんの机には、ぶ厚く高価な受験書が、食卓には毎日食べていたラーメンの代わりにご飯が上がった。キムさんは「青年手当は誰かが言うように酒を飲んでゲームをするためではなく、生きていくために、夢を叶えるために、あまりにも切実に助けになった」と語った。

 疎外された階層に福祉費用を集中させるのが効率的であり、労働能力のある若者に所得保障制度が必要なのか、という懐疑論も少なくない。しかし、20代の若者の貧困率は7%台に上る。学業と就業の間の移行期に置かれ、稼ぎのない若者が多いからだ。30~34歳になると貧困率は3.7%に低下する。若者に対する支援が必要なのはこのような理由だ。青年手当などの活動支援事業を委託運営するソウル市青年活動支援センターのキ・ヒョンジュセンター長は「低所得層の若者だけを支援する社会扶助の形よりは、未就業状態なら誰でも支援を受けられる『手当』という制度を選んだのは、社会進入を準備する若者に“烙印”が押されるという感じを与えないため」と話す。

 パク・グァンスさん(仮名・28)は自分のソウル暮らしを「みじめなソウルライフ」と呼んだ。2017年に就職し、地方からソウルに上京して一人暮らしを始めた。しかし、6カ月で職場を辞めた。アルバイトをしながら就職準備を続けたが、いくらお金を節約しても窮乏した。ストレスは不眠症に表れた。疲れていった頃、青年手当を受けることになった。パクさんは「何の縁故もないソウルでだんだん心せわしくなっていたときに心理的な安定感を得た」と語った。

 実際、青年手当てを受けた対象者たちが心理的に健康になったという研究結果もある。ソウル大学教育学科のラ・スヒョン博士がソウル市の依頼を受けてまとめた報告書によると、青年手当を受け取った564人全員が青年手当を受けてから「心理・情緒健康性」領域の不安定な点数が目立って減少していることが分かった。

 社会に対する信頼感も高まる。昨年2月に心理学科大学院を卒業したイ・ハヨンさん(28)は、普通の若者たちがそうであるように、時間を割いてアルバイトをしながら生活費を稼ぎ、一番安いものばかり選んで衣食住を解決した。就職できないので、正社員や安定的な老後などの未来は自分のものでないように感じられた。青年手当を受けた後、イさんは変わった。青年政策の対象になる新しい経験が自尊心の回復につながったためだ。青年たちは大部分、ある福祉政策の対象になる場合が多くない。児童には児童手当、年寄りには基礎老齢年金があるが、若者なら誰でも受けることができる社会保障制度はない。

 「青年手当は若者に『私も助けを受けることができる』というシグナルを送る。実際に青年手当を受けた多くの若者が希望を得て、人生の助力者になってくれる人を見つけ、さらに社会に対する信頼を築いている」。イさんは青年手当を受け取った後、正社員ではないが仕事を見つけた。今月末には青年手当で受け取ったお金を合わせて「もうちょっと良い」ワンルームに引っ越す計画だ。

 最近、「条件のない青年手当」をめぐる論議を見て、イ・ハヨンさんは残念な気持ちになったと語った。「私はこんなに大変で不幸なのに」という最近の若者の心理が、青年政策全般に対する不信に表われているようだからだ。「機会の公正性」論議とジェンダー対立、結婚と出産に対する拒否などの社会現象も、青年たちの厳しい生活と無関係ではない。韓国社会がまさに今「若者の声に耳を傾ける」ことに乗り出さなければならないのもそのためだ。

ファン・イェラン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/883424.html韓国語原文入力:2019-02-25 04:59
訳M.C

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