ヤン・スンテ前最高裁長官時代の「裁判取引」疑惑の代表的事件である「日帝強制徴用被害者損害賠償請求訴訟」の再上告審判決が30日に宣告される。判決によっては、検察の司法壟断疑惑に対する捜査や韓日関係にも少なくない影響を及ぼすと見られる。
最高裁の全員合議体(裁判長 キム・ミョンス最高裁長官)は30日午後2時、ヨ・ウンテク、シン・チョンス、イ・チュンシク、キム・ギュス氏の強制徴用被害者4人が(株)新日鉄住金(旧、新日本製鉄)を相手取った損害賠償請求訴訟の再上告審判決を宣告する。訴訟提起から13年8カ月ぶりで、共に最高裁の判断が下される三菱重工業に対する損害賠償請求訴訟が提起された時からは18年ぶりだ。
これに先立って、2012年5月に最高裁1部(主審キム・ヌンファン当時最高裁判事)は、原告敗訴と判決した1・2審判決を破棄し、原告勝訴の趣旨で三菱重工業事件と新日本製鉄事件を釜山高裁とソウル高裁にそれぞれ送りかえした。還送後、原審裁判所は最高裁判決の趣旨どおり原告にそれぞれ8千万ウォン(約8百万円)と1億ウォン(約1千万円)を支給するよう宣告し、被告企業は再上告したが、最高裁は5年以上、審理を引き延ばした。これと関連して裁判所事務総局が作成した文書などを通して、朴槿恵(パク・クネ)政府が韓日関係などを理由とし強制徴用訴訟裁判を遅らせたり結論を覆す案を提示するなど、ヤン・スンテ前最高裁長官時代の裁判所事務総局と裁判の進行および処理方向を議論した情況が明らかになり、検察が捜査中だ。
これまでにヨ・ウンテク、シン・チョンス氏が亡くなったのに続き、8月にはキム・ギュス氏も死亡するなど、両事件の原告9人のうち8人が死亡し、生存者はイ・チュンシク氏だけだ。
今回の判決の争点は、ヨ氏など強制徴用被害者が新日鉄住金に対する損害賠償請求権を行使できるか否かだ。争点の大部分は、2012年の判決時と基本的に同じだ。
「1965年の韓日請求権協定(韓日協定)で、強制徴用被害者の個人的損害賠償請求権は消滅したのか」に対して、2012年の最高裁は「損害賠償請求権など個人請求権は韓日協定で消滅していない」と明らかにした。韓日協定で日本が大韓民国政府に支給した経済協力資金が、権利問題の解決と法的代価関係と見ることは困難で▽日本政府が強制動員被害の法的賠償を基本的に否定して韓日政府が日本の朝鮮半島支配の性格について合意に至ることができない点に照らしてみれば、「日帝当時の不法行為による損害賠償請求権が、請求権協定の適用対象に含まれたと見ることは難しい」という理由だった。
当時、裁判所はさらに「韓日協定で個人請求権が消滅しないのはもちろん、大韓民国の外交的保護権も放棄されていない」と判断した。
最高裁全員合議体の今回の再上告審審理でも「個人請求権も韓日協定に含まれて消滅した」という“包含説”と「個人請求権は韓日協定の適用対象ではなく消滅していない」という“非包含説”が対抗したと伝えられた。「外交的保護権だけが放棄されたのか」についても検討されたという。
「すでに結論が出た日本の裁判所の判決効力が韓国国内にも及ぶか」についても、2012年当時の最高裁は“及ばない”という立場を明確にした。ヨ・ウンテク、シン・チョンス氏は、1997年に日本の裁判所に損害賠償金および賃金の支給請求訴訟を起こし、2003年に敗訴が確定した。最高裁は2012年の判決で「日本の裁判所の判決理由には、日本の植民支配は合法という認識を前提にし、日帝の国家総動員法と国民徴用令を朝鮮半島とヨ氏らに適用することは有効と見ている。これは、日帝強制占領期間の強制動員自体を不法と見る大韓民国憲法の核心的価値と正面から衝突することであるため、『大韓民国の善良な風俗や社会秩序』に反する日本判決の効力を認めることはできない」と明らかにした。一方、1・2審は日本判決の効力を認めた。
「新日鉄住金がヨ氏らを強制動員した旧日本製鉄の債務を継承し負担しなければならないか」に対しても、2012年の最高裁では「負担しなければならない」と明らかにした。裁判所は「新日本製鉄(現、新日鉄住金)は旧日本製鉄の営業財産、役員、従業員を実質的に継承し、会社の人的・物的構成に基本的な変化がなかった。戦後問題処理という特別な目的のために制定された日本の国内法を理由に、旧日本製鉄の大韓民国国民に対する債務が免除される結果は、大韓民国の公序良俗に照らして容認できない」と明らかにした。一方、1・2審は「旧日本製鉄が新日本製鉄の法人格と同一と見ることはできない」と判断した。
「新日鉄住金がヨ氏らの請求権は消滅時効が完成されており、すでになくなったと主張できるか」に対しても、当時最高裁は「できない」と釘をさした。裁判所は「少なくともヨ氏らが(韓国)国内で訴訟を起こした2005年2月までは、客観的に権利を事実上行使できない障害理由があったと見なければならない。被告が消滅時効の完成を主張するのは、信義誠実の原則に反する権利の乱用であり許されない」と判断した。当時裁判所は、2005年1月に韓日協定関連文書が公開され、その年の8月に民官共同委員会が「反人道的不法行為に対しては韓日請求権協定によって解決されたと見ることはできない」と明らかにした点などをこうした判断の根拠として提示した。
今回の全員合議体の審理でも、客観的に(訴訟提起などの)権利を行使できない障害理由が解消された時点はいつなのか、その時からいつまでに権利を行使しなければならないか、などが検討されたと伝えられた。
これと関連して、今回の全員合議体判決が「消滅時効の完成時点」を判断するかも関心を集めている。2012年5月の最高裁判決以後、強制徴用にともなう損害賠償などを請求する後続訴訟が計13件提起され、このうちの一部は最高裁にまで上がってきている。最高裁全員合議体が「障害理由が解消された後、一定の期間内に」に訴訟を起こさなかった事件は「消滅時効が完成された」と判断すれば、これらの後続訴訟の中にも影響を受ける事件がありえる。
全員合議体の審理では「2012年5月の最高裁判決の効力」も争点になった。当時と同じ争点を再上告審で再び扱うためには、上告審判決の確定力・既判力に対する判断が避けられないためだ。これと共に、今回の判決では2012年の裁判部判決以後に学界などで提起された国際裁判管轄権の問題、国際法上の責任限界、裁判の準拠法問題などの論議に対しても、最高裁の整理された立場が提示されるものと見られる。
一方、日本は「韓日関係の根幹が揺らぐ」として強力な反発を予告した。日本のマスコミは、日本企業の敗訴が確定すれば日本政府が国際司法裁判所(ICJ)提訴などの法的対応に出る方針だと報道した。長嶺安政・駐韓日本大使を一時帰国させる方案を検討中という報道も出てきた。河野太郎・日本外相はこの日、産経新聞とのインタビューで「請求権の話はすでに終わった話」と主張した。彼は、賠償判決が出てくる可能性について「そんなことが起きるとは毛頭思わない。(韓日関係を)『未来指向的にしよう』ということについて、韓国側も韓国国内で確実にして欲しい」と話した。