「この本は、いわゆる韓日癒着の始まりとなった『韓日条約』締結を押し切ろうとする緊迫した情勢の中で出版され、私はその条約締結に反対する立場でこの本を書いた。朝鮮民族にも日本国民にも、日帝の朝鮮支配政策に対する糾明は絶対に疎かにできない重要な問題であり、その思想的根源は一層重要だと考える」
韓国と日本の政府が韓日基本条約を結び国交を正常化した1965年、日帝強制占領期間の朝鮮人“強制連行”に対する記念碑的著作が日本で出版された。在日朝鮮人史学者、故朴慶植(パク・キョンシク)氏が書いた『朝鮮人強制連行の記録』という本だ。慶尚北道奉化(ポンファ)で生まれた彼は、6歳の時に両親について日本に移住し、総連系列の東京朝鮮大学の教員として在職し、在日朝鮮人問題に入り込んだ。特に、日帝強制占領期間の朝鮮人強制連行調査がほとんどなかった時代に、日本各地を歩き回って膨大な資料を収集し強制連行に関する最初の本格的報告書を残した。強制連行は、1939~1945年労務、兵力、準兵力、女性の動員を包括する概念だ。
彼が1978年増刷版の序文で否定的意見を明らかにした韓日基本条約と韓日請求権・経済協力協定は“対日屈辱外交”という批判の中で締結された。50年余りが過ぎた今は、韓日関係の基礎になった。韓国政府は、韓日基本条約の付属協定である韓日請求権・経済協力協定で「日本は韓国に5億ドル(無償3億ドル、有償2億ドル)の経済協力資金を提供」し「両国はその国民間の請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決されたことになることを確認する」と合意した。以後、日本は韓日請求権・経済協力協定により、強制徴用被害者が日本企業に損害賠償を請求できる個人請求権も消滅したと主張している。
韓日請求権・経済協力協定で経済成長政策の推進資金を用意した韓国政府も、強制徴用被害者に対する補償に長い間消極的だった。韓国政府は1975~77年「対日民間請求権補償に関する法律」により徴用死亡者8552人に30万ウォンずつ約25億6500万ウォンを与えた。続いて2007年には、軍人・軍属供託金10万8900件余り(総額9100万円)、2010年には労務者供託金6万4200件余り(総額3500万円)の名簿を日本政府から受け取り、韓国政府の財政で被害者に1円当り2000ウォンに換算した慰労金を数十~数百万ウォンずつ支給している。日本と満州、そして朝鮮半島内の作業場に1939年から動員された人々が少なくとも300万人を超えると推定されるが、補償を受けた人は一部に過ぎず金額も少ない。強制動員の真相調査も、朴慶植氏のような在日朝鮮人と日本の市民団体が主にしてきたし、韓国政府次元の本格的な調査は2004年に「日帝強制占領下強制動員被害真相究明委員会」が発足してなされた。
韓国最高裁(大法院)の全員合議体は30日、被害者4人が日本企業の新日本製鉄(現、新日鉄住金)を相手に起こした損害賠償訴訟再上告審判決を宣告する予定だ。日本企業が敗訴すれば、韓日関係の基本が揺らぐという指摘が日本で出ている。現実を冷静に見るならば、韓日関係が大きな破裂音をたてる可能性が高いというのは事実だ。日本政府は、日本企業が敗訴すれば、韓日請求権・経済協力協定に違反したと見て、韓国政府を国際司法裁判所(ICJ)に提訴する動きを見せている。強制徴用者個人の痛みと傷を無視して作った韓日関係の基礎には、大きな亀裂が生じる可能性がある。しかし、個人に犠牲を強要して、国家間の関係のみを強調した関係自体が、どうして正しいことだったと言えようか。