「バシッ、バシッ」「えーい、カスだ」「ゴー!」
14日、まだ日の高い平日午後3時、安山(アンサン)駅近くの派遣会社の前で中高年の労働者らが三々五々集まっていた。石で押さえた新聞紙数枚の上で、紙コップのインスタントコーヒーを手にした人々は「1点100ウォン」の花札に熱中していた。彼らは、少なくとも15年以上完成車工場など製造業で働いてきたが、失業した後まともな働き口が見つからず日雇いでつないでいる40代以上の労働者たちだった。
「花札打ってるなんて、どれだけの状況かわかるだろう。仕事もなくて、飢え死にしそうだ」。鉄筋製造、機械組立など、安山でやったことのない仕事はないというカン・ソンフンさん(仮名・65)は、花札を置いて言った。「働きたくても年を取ってるからといって使ってくれない。どうしようもない。これまで稼いだお金で食いつないでいるよ」。隣に座っていたキム・ジョンミンさん(仮名・60)が、無理に笑って見せながら言った。キムさんは、京畿地域の物流団地で30年以上働いて仕事を失ったと話した。通貨危機に匹敵する「雇用の崖」で、生計の不安に震える労働者が増えている。特に大企業の下請け会社などで働いていた中高年層が、工場の稼動中止などによって一瞬で失業者の身分に転がる場合が多かった。彼らは大半が一つの分野で20年以上働いてきた熟練度の高い労働者だが、経歴が認められる安定した働き口が見つからず、日雇いを転々としていることが分かった。「雇用ショック」で、規模が小さく雇用形態が不安定な「周辺部の職」から崩れている状況だ。
大手企業の協力会社と製造業の工場が集まっている京畿道安山・始興(シフン)地域は、このようなショックにそのままむき出しになった格好だった。起亜自動車の1次協力会社で20年間働いたというキム・ソンピルさん(仮名・53)は「昨年職を失った後1年以上求職中だが、合格の知らせを聞いたことがない」と打ち明けた。彼は「中小企業の管理職1席に200人が志願する」と言い、「製造、管理、営業などさまざまな分野で経験を積んだが、面接はおろか電話をもらったところもない」と打ち明けた。高校1年の息子の塾の費用をカードで払っているというキムさんは、左の膝を怪我して日雇い仕事もできない状態だと首を振った。
京畿道始興市の製造会社で10年間働いたキム・ヨンマンさん(仮名・49)は、職を失った後、6カ月間の求職活動を止め、日雇いに飛び込んだ。「正社員」ばかり見ながら待っていては、毎月やってくる家賃の支払いを越えられなかったからだ。キムさんは鋳物・鋳造会社で3年間働いたが、会社が廃業して職を失った。化粧品ケースの製造会社に再就職したが、10年勤続の手前でクビになった。彼は「求人広告に年齢制限がなければほとんど無条件で志願するが、面接でそのつど落ちる」と言い、「(中国)朝鮮族や外国人労働者たちとの競争でも追いやられる」と訴えた。
安山地域でM派遣会社を運営しているK代表は「1年間で安山地域の工場の30%が廃業した」とし、「残っている中小企業も人件費削減のために正社員雇用を減らす傾向なので、安定的な雇用はさらに減った」と話した。雇用労働部が運営する安山中高年雇用希望センターで集計した今年1~9月の求職者数は4783人で、昨年同期(2912人)より2倍近く増えた。同じ期間、就職に成功した労働者は、昨年の714人から今年は520人へとむしろ減った。安山商工会議所中高年雇用希望センターのコンサルタントのソ・ジョンミ氏は、「景気悪化で大企業の2・3次協力会社が廃業し、失業者らが大幅に増えた」とし、「中高年層を吸収するところがあまりなく、結局は警備、清掃職や日雇いで延命するしかない状態」だと話した。
狭まった就職の門により、中高年労働者の居場所はますます減っている。ハンギョレの取材結果、首都圏の人材派遣会社は「日雇い労働者の年齢が今年に入り下がり続けている」と口をそろえて述べた。ソウル江東区(カンドング)のS物流会社は「衣類会社の出荷品目を選ぶ『ピッキング業務』に、最近30~40代の男性たちの求職の問い合わせが増えている」とし、「もともと日中の物流アルバイトは主婦たちが多かったが、今年からは退職後に働き口を見つけられない中年男性の関心が増えている」と伝えた。仁川と京畿道金浦(キンポ)地域で雇用を仲介する派遣会社C社のL代表は「以前なら60代の求職者が来る建設現場に、30~50代が主に行っている」とし、「ほとんどは退職後行くところがない人々」と話した。京畿道城南市(ソンナムシ)で派遣会社を運営するキム・ドゥイル代表も「60~70代が主にしていた警備職も、最近は年齢が40~50代まで下がってきた」と話した。
淑明女子大学のクォン・スンウォン経営学科教授は「企業の立場では、景気の悪化でコストの圧迫が来れば協力会社や派遣会社の労働者から切るため、彼らが雇用危機を最も早く経験する」とし、「いわゆる『周辺部の職』の雇用危機からはじまり、安定的な中心部の雇用まで脅かす可能性が高い」と指摘した。釜山大学法学専門大学院のクォン・ヒョク教授は「韓国の労働市場はコスト削減のために派遣や請負などを使用し、その結果、景気低迷などによる1次被害もそのまま彼らに押し付けることになる」とし、「職業訓練支援など、景気下降のショックから彼らを保護するための努力が必要だ」と指摘した。