ソウル 江南(カンナム)の貴重な土地に2棟の高層ガラス張りビルとして建てられた教会があります。韓国キリスト教史上最高額の建物である「愛の教会」です。今この建物の礼拝堂が撤去の危機に立たされています。愛の教会は、2010年に瑞草(ソチョ)区庁の許可を受けて「公用道路」の地下空間に礼拝堂などを作りました。「瑞草区庁が出した道路占用許可は不法だ」という裁判所の判決が下されたためです。最高裁(大法院)で判決が確定すれば、愛の教会は礼拝堂を撤去して道路を原状回復しなければなりません。この建物を作るのにかかった費用は2900億ウォン(約290億円)です。礼拝堂を撤去して道路を復旧する費用も390億ウォン(約40億円)程度かかると言われます。
「道路の地下空間を占用して使うことは違法」という意見は、工事着工以前から繰り返し提起されてきました。それでも工事は強行されました。
■礼拝堂を大きくするために公用道路の地下を掘る
愛の教会は2009年6月現在、教会敷地を大林(テリム)産業から1175億ウォン(約120億円)で買いとりました。しかし、設計過程で思いがけない問題が生じました。買い取った敷地が予想より小さく、4500席規模の礼拝堂しか作れないという見積もりが出てきたのです。当初予想した6000席より小さかったのです。2003年に赴任したオ・ジョンヒョン牧師は、礼拝堂を大きくするために近隣公共道路の地下を掘ることにしました。
最初の瑞草区庁の反応は否定的でした。道路の地下空間を愛の教会に渡すには、道路の下にある通信施設や上・下水道施設をすべて撤去し移転しなければならないためです。KTとソウル都市ガスも「現在設置された配管を撤去すれば、多くの供給中断が発生し、顧客に不便が生じる」、「過度な道路切取は上水道管の維持管理に多くの問題点を発生させる可能性がある」という意見を送ってきました。だが結局、瑞草区庁は教会新築空間の一部(325平方メートル)を子供の家として寄付する条件で道路1077平方メートルの地下空間を使わせることにして道路占用許可および建築許可を出しました。
この論議は結局法廷に持ち込まれました。2011年11月、ファン・イルグン当時瑞草区議員ら瑞草区民6人が「道路占用許可処分が無効であることを確認してほしい」として住民訴訟を起こしたのです。1審と2審の裁判部は共に区庁と教会の手を上げました。道路占用許可は住民訴訟の対象になる「財産処分に関連した事案ではない」として、道路占用許可の適法性を問い詰めずに訴訟を却下したのです。
■オ・ジョンヒョン牧師「社会法の上に霊的祭事法がある」
論議はこのようにして終わるかに見えました。訴訟が進行中だった当時、この教会のオ・ジョンヒョン担任牧師は、公共道路占用の違法性論議に対して「世の中の社会法の上に道徳法があり、道徳法の上に霊的祭事法がある」とまで堂々と主張したりもしました。
オ牧師は2012年8月の説教で、公共道路の地下部分を放棄して、教会本堂を縮小しようという意見に対して「それは神様が私たちに与えた機会を無にすることだ。設計変更と建築期間延長など数百億ウォンの資金がさらにかかるので、話にもならないあきれ果てた意見なので、結局それは建築するなということと同じだ」と話しました。さらに「要するに霊的な背水の陣を敷き出師の表を奉った」とまで付け加えました。
しかし、オ牧師の背水の陣は最高裁(大法院)判決で崩れ始めました。2016年5月、最高裁が1審と2審の判断を覆したのです。最高裁3部(主審パク・ビョンデ最高裁判事)は「道路占用許可は実質的に道路地下部分の価値を第三者に活用させる賃貸類似行為であり、道路の財産的価値に影響を及ぼす行為」として、住民訴訟の対象になると判断しました。最高裁は「道路占用許可が適法かを判断せよ」として訴訟を再び行政法院に送りかえしました。
■破棄控訴審1審・2審裁判部「道路占用許可は違法」
事件を差し戻された裁判部は、住民たちが訴訟を提起してから6年2カ月ぶりの昨年1月「道路占用許可を取り消す」という判決を下し、瑞草区民の手を上げました。
ソウル行政法院3部(裁判長キム・ビョンス)は「地下礼拝堂など事実上永久施設に該当する施設を設置し、永久的な私権を設定することは『道路に対しては私権を行使できない』という道路法に反する」として「こうした道路占用許可を受け入れるならば、今後類似の内容の申請を拒否できなくなり、その結果道路地下に無分別な私的使用と公衆安全のための憂慮が増加する」と判断しました。
今月11日に下された控訴審の判断も同様でした。ソウル高裁行政3部(裁判長ムン・ヨンソン)は、道路占用が違法だと判断して「道路地下部分を利用しなくとも、十分にその目的を達成することができた。それでも道路占用許可を推進したのは、大型教会を指向して巨大な建築物を建築しようとする意図が強く反映された結果と見ることができる」と指摘しました。「愛の教会」が寄付することにした子供の家についても、「宗教施設の建物内に設置された子供の家は、通常該当宗教を有している教会信者に親和的と感じることができ、他の宗教を信じたり、宗教を持たない近隣住民たちが利用することは情緒上容易でない」として「一般の人たちが拒否感なく利用できる幼児保育施設を拡充したとは評価できない」と付け加えました。
瑞草区は上告する方向で立場を定めたと言います。最高裁の判断まで受けてみるということでしょう。最高裁で判断が再び変わることもありえます。しかし、事件を破棄差し戻しした当時の最高裁の判決を見れば、それは容易ではないと見えます。すでに公益的性格の道路占有ではないとの意見を付け加えたためです。
「上の道路の占用目的は、特定宗教団体である参加人(愛の教会)が宗教施設を排他的に占有し使用できるようにするところにあるとして、その許可の目的や占用の用途が公益的性格を持つと見ることもできない」-2016年5月27日最高裁判決文
■愛の教会「確定すれば道路を原状回復する」
愛の教会は、最高裁判決が確定すれば道路を原状回復するという立場を明らかにしました。
それでは、この道路の地下にはどんなものが入っているのでしょうか?教会礼拝堂の前部の講台床(教会で説教をする台)と地下駐車場に入る進入ランプなどの施設が入っています。愛の教会は、礼拝堂の一部を撤去して道路を復旧するのに391億ウォン程度がかかると言っています。
愛の教会関係者は「この訴訟の被告は瑞草区庁なので、上告するか否かは瑞草区庁の判断を尊重し、最終結果も裁判所の判断に従うだろう」と明らかにしました。この関係者は引き続き「都市計画に則り効率性を高めるために駐車場出入口をチャムナリ道(占用道路)側に出したが、裁判所の判決に従おうとすれば駐車場出入口が無くなることになる」とし「礼拝堂の空間などを公的に使えるよう努力してきたのに、判決の結果は残念だと考える」と付け加えました。
愛の教会は12日に公開した報道資料で「このように公益的役割と社会的責任を果そうとしているにも関わらず、一部の住民と宗教自由政策研究院という仏教系の市民団体が連帯して訴訟を続けていることに対して遺憾を禁じえない」として「それでも、イエスキリストの愛で隣人を愛し仕えて、私たちの社会を発展させるために絶え間ない努力を傾注する」と明らかにしたりもしました。
■復旧費391億ウォンは誰が出さなければならないか
391億ウォン。それではこの費用はすべて愛の教会が出さなければならないのでしょうか?あるいは、瑞草区庁と共同で出さなければならないのでしょうか?以下の瑞草区庁道路占用許可処分を見れば、多少分かりそうです。
5. 占用期間が満了したり、占用を廃止または許可が取り消された時は、許可を受けた者(愛の教会)の負担で道路を原状回復しなければならず、原状回復するまでは弁償金を納付しなければならない。
11. 許可受けた者は、道路の占用と関連して発生する民事・刑事上のすべての責任を負う。
「愛の教会」は許可を受けるに際し、すべての責任を自ら負うと明らかにしました。瑞草区庁に訴訟を提起することはあるでしょうが、勝訴の可能性は小さく見えます。
「往復8車線と6車線の大通りの交差点であり、地下鉄駅と接している都心の土地を買いとることに多少躊躇したが、この土地に神の福音が入り、100年を超えて韓国の教会が、私たちの社会により強く幅広い影響力を与えなければならないという召命感で買いとることにした」
愛の教会は、瑞草区の敷地に教会を建てた背景を、ホームページにこのように説明しています。社会法に背いて建てた建物は、神の意であったのでしょうか?あるいはバベルの塔のように強大と成長、成功神話に埋没した韓国教会の貪欲であったのでしょうか?