ソウル地下鉄5号線の東大門歴史文化公園駅に電車が到着した。ホームドアが開き、人々が乗り降りした。ホームの柱の寄りかかって立つ二人の会話は騒音に埋もれて聞こえないが、たえず顔に浮かぶ笑顔が「いま愛しあっている」という字幕に読めた。そこに立っている男性はホームドア修理労働者のイム・ソンジェさんだ。その前に立つ女性は青少年団体の市民活動家チェ・ソヒョンさん。二人は恋愛4年目になる。
最低賃金1万ウォンになったら結婚を約束したけれど
この春、二人は桜が満開のソウル汝矣島(ヨイド)に素敵なスーツとウェディングドレスを着て立った。最低賃金を1万ウォンに引き上げるというある市民団体のキャンペーンに参加した彼らは「最低賃金1万ウォンになったら結婚する」と公約し、「どうか私たちを結婚させてください」という愛嬌交りの訴えで、花見に来た市民たちの視線を集めた。その後、2018年の最低賃金は7530ウォン(約760円)に決定された。政府は2020年に1万ウォンを目指すと明らかにした。二人の結婚もその時まで延期されるのだろうか。この秋、彼らに再び会いぶしつけに尋ねた。「それで、結婚は本当にいつするつもりですか」
自分は正社員化対象だが、いつになるか…
男性は「とりあえず、今進められている会社で正社員への転換が終わった後…」と言い、語尾を濁した。彼はソウル交通公社所属の無期契約職だ。ソウル市は昨年5月28日の九宜(クイ)駅事故後、ホームドア関連業務を下請け会社への委託から直接管理に転換するため、安全業務職の職員を採用した。一人の青年の犠牲で作られた職場に同年9月、イムさんをはじめとする同僚たちが入ってきた。この夏、ソウル市がソウル交通公社など投資・出資機関の無期契約職2400人余りを年内に正社員化する案を推進中だという報道があふれた。だが、その策を具体化する過程で予想もしなかった衝突が浮上した。7級からはじまる正社員の新入社員たちと異なり、無期契約職から転換した人々には8級を新設したり、勤続昇進年限を数年増やすべきだといった但し書きが取り沙汰されている。このような条件が受け入れられれば、イムさんや同僚は来年正社員として入社する後輩たちと同じ業務をしながらも、進級の逆転が避けられない。誰かにとっては「合理的な差」と解釈されるが、他の誰かにとっては「実質的な差別」となる。
早く彼女と新婚日記を書きたい
二人の間の恋愛話をもう少し聞くと、出退勤時に地下鉄の駅で短い時間会ったり、仕事を終えた夜に深夜映画館やサウナでデートするのがほとんどだという淡泊な答えが返ってきた。「月貰(ウォルセ=月払いの借家)からはじめればいい」と言う彼女に、男性は来年の冬あたりに結婚の時期を延ばそうと答えた。その頃には、彼は幸せな正社員となり、ソヒョンさんは雪の花のような冬の花嫁になることができるだろうか。夜勤組の勤務のため職場に足を運ぶ間、二人はありふれたカップルリングもつけていない手をしっかり握って歩いた。彼らの後ろ姿を見て、結婚の時期を尋ねるのが愚問であることに気づいた。彼はすでに市民の安全のためにホームドアを修理する労働者であり、二人はお互いの人生を激励して一緒に歩く同伴者だ。愛の本質を守っていく彼らの青春が輝いていた。