不思議なことだ。最近、「新古里原発5・6号機の建設中断に反対」を叫びながら、物理力を動員した戦いの先頭に立った蔚山市(ウルサンシ)蔚州郡(ウルチュグン)西生面(ソセンミョン)のある住民は、2005年新古里1~4号機の建設が推進されていたころは「原発反対」の生存権闘争を繰り広げていた。原発地域住民の生存権を守る戦いは、なぜ「原発反対」から、むしろ脱原発・脱石炭を全身で阻止しようとする「原発(建設)中断に反対」へと急に変ったのだろうか。その根底にうごめくものは何か。
地域住民らが掲げた横断幕には外見上、「(原発の中止による)地域の雇用と経済の破綻」が鮮明に表れている。もちろん、雇用の問題は存在する。新古里5・6号機の場合「工事現場と計画整備期間中の作業員の採用には地域住民を優遇」という地域共生の原則がある。周辺の商圏が低迷するという懸念も理解できる。
ところが、あまり目立たないが、“お金”もまた住民たちのこの奇妙な行動に“金銭的利害”として介入している。古里原子力発電所は、昨年の総823億ウォン(約81億9千万円)を「発電所周辺地域支援金」として支援した。地域内の個別世帯の教育・奨学や文化振興事業、健康診断費・インターネット費用、住宅用電気料金などの支援に使われた。地域の各種公共施設物の建設・改善にも使われる。
支援金の根拠は2005年に制定された「発電所周辺地域支援に関する法律」だ。同法は、原発と石炭火力など発電所周辺5キロ以内に居住する地域住民のために、基本支援事業費を造成して使用するように定めている。発電所が建設中の地域には特別支援金も提供される。基本支援事業費は、発電所を建設する当時だけでなく、稼動する間は支給される。原発立地に伴う財産価値下落に対する補償を越え、一種の「持続的な地代」の役割を果たしている。
同支援金は毎年「前々年度の発電量(キロワットアワー)」に発電源別の「支援金の単価」を掛け合わせる方式で算定されるが、単価は1キロワットアワー当たり原発は0.25ウォン(0.02円)、有煙炭(石炭)は0.15ウォン(0.01円)、液化天然ガス(LNG)並びに新再生エネルギーは0.1ウォン(0.01円)だ。当該発電所が実際に生産した電力、つまり「発電量」に正確に比例し、支援金金額が増減するように設計されている。「基底発展」の原発は24時間フル稼働される。発電量が多いだけでなく発電単価も高いため、地域住民にとっては「原発の維持」に対する有力な誘引が存在することになる。「新古里5・6号機の中断反対」闘争を率いているある住民は、数年前「原発からの多くの支援金を通じて地域が新たな発展の契機を迎えている」と話したという。
原子力発電所周辺地域支援制度は1990年から実施されたが、2005年にこの発電源別単価方式が導入されてから、年間総支援金が3倍近くまで大幅に増えた。産業通商資源部の関係者は「法制定の時に何の根拠でこのような単価等差が行われたのかについては、当時の記録が残っていないため分からない」と話した。基本支援事業費の財源は電力産業基盤基金で、消費者が払う電力料金に含まれている。原発事業者は基本的支援事業費の他にもこれと同一の金額の事業者支援事業の財源を自ら調達し、地域支援金として使わなければならない。
仁川市(インチョンシ)霊興面(ヨンフンミョン)に位置する霊興石炭火力発電所周辺地域住民約6200人は、昨年発電所から計60億ウォン(約5億9700万円)の支援を受けた。子どもの大学登録金や奨学金、修学旅行費などに使われた。霊興火力発電所の関係者は「新政府が脱石炭政策を展開し、LNG発電所への転換を推進するという話を聞いたが、地域住民たちは反対している」とし、「LNGに変われば、稼働率が低下し、発電量が減って支援金の単価も下がるため、支援金も減る」と話した。地域支援金という“にんじん”に住民たち自らがいつの間に囚われてしまう姿が、全国の原発・石炭火力発電所周辺で見られている。