本文に移動

[ニュース分析]朝鮮籍在日の入国を阻む韓国

登録:2017-07-18 01:10 修正:2017-07-18 14:46

解放後、日本に残った朝鮮半島出身者 
外国人登録の際「朝鮮籍」を一括で付与し 
北朝鮮国籍でなく、“朝鮮人”という意味

韓国入国するためには、旅行証明書必要 
金大中、盧武鉉政府時には申請すれば全部発行 
保守政権では発給率急落…昨年34%

面接で韓国国籍取得を要求し 
愛国歌・誓約書の強要など、人権侵害も 
 
「自由往来の実現を」国民引継ぎ委員会に提案 
発給審査の緩和など法改正を要求

 「朝鮮籍」について知っているだろうか。朝鮮半島を占領した日本が第2次大戦敗戦後、日本に住む朝鮮(半島)出身の人たちにつけた印がまさに朝鮮籍だ。朝鮮籍は、朝鮮民主主義人民共和国とは関係がない。金大中(キム・デジュン)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代は、朝鮮籍の在日同胞たちの韓国訪問が事実上自由に行われた。しかし、保守政権の9年間で彼らの故国訪問は事実上妨げられた。市民団体や法律家、学者らが在日同胞と共に文在寅(ムン・ジェイン)政権に制度改善を要求した。

朝鮮籍在日の韓国入国を実現させる会が今月12日、「朝鮮籍在日の条件なき自由往来に向けた政策提案書」をソウル鍾路区の国民引継ぎ委員会に提出した//ハンギョレ新聞社

 「私の故郷、済州島の懐に抱かれたいです。祖先のお墓の前で礼を捧げ、子どもたちを見せてあげたいです」

 「辛くて悔しいのは、日本や外国(人たち)ではなく故郷の人々が与える差別です。私たちは祖父母の時から差別に疲れ、十分に苦しみました。もう故郷の人々が私たちを踏みにじることは、どうかしないでほしいです」

 「朝鮮籍在日の韓国入国を実現させる会」が朝鮮籍の在日同胞の自由な韓国訪問を要請するために開いたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の団体チャットルームに、在日同胞たちの切実な願いを込めたコメントが相次いだ。同会は12日、ソウル鍾路区(チョンノグ)国民引継ぎ委員会の前で記者会見を開き、このような願いを明らかにした後、個人1210人と15団体等の署名を集めた「朝鮮籍在日の条件なき自由往来の実現に向けた政策提案書」を国民引継ぎ委員会に提出した。

朝鮮籍の在日同胞の旅行証明書申請および発給現況。資料:外交部(カン・チャンイル議員室提供)//ハンギョレ新聞社

■朝鮮籍という理由で禁じられた故郷

 12日、ハンギョレ記者が済州大学の在日済州人センターを訪れた時、在日3世の研究員の金泰植(キム・テシク)氏(38)はちょうど夫人(36)の韓国訪問を許可してほしいという陳情を外交部のホームページに申請していた。同じ在日3世であり、済州島が故郷である彼の夫人もこの日、東京にある韓国領事館に「故郷を訪問して夫に会う」として旅行証明書発給を申請した。昨年11月に結婚した金研究員は「日本で弁護士として活動している妻が“朝鮮籍”を持っており、韓国入国が困難だ。妻は朝鮮籍の父が“韓国”国籍に変えていないため、自分も変えなかった。自分よりもっと故郷に行きたいはずの父が我慢しているのに、娘として(韓国籍に)変えることはできないという心の負担が大きいようだ。妻が思いこがれた故郷を訪問して墓参りをし、夫に会えるようにしてほしい」と韓国入国許可を訴えた。

 朝鮮籍だった金研究員は、2002年の釜山アジア競技大会の時に初めて訪韓し、9回行き来した後、2010年11月、北朝鮮の延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件の後、韓国国籍を取得した。当時ソウル大学研究員として在籍していた金研究員は、同窓生の結婚のために日本へ行ったところ、領事館側がもう旅行証明書を発給してくれず、韓国国籍に変えた。

 世宗大学の朴裕河(パク・ユハ)教授が書いた『帝国の慰安婦』を批判した『誰のための和解か』を発刊した朝鮮籍の在日3世の鄭栄桓(チョン・ヨンファン)明治学院大学教授も、昨年7月、出版記念会に出席するために訪韓を推進したが、外交部から旅行証明書発給を拒否された。これに先立ち、2015年4月に入国し第1回済州4・3平和賞を受賞した済州出身の在日小説家・金石範(キム・ソクポム)氏(91)が、同年夏と秋にソウルと済州で開かれた出版記念会に出席しようとしたが入国が拒否されるなど、一人に対する入国許可基準も右往左往した。

朝鮮籍在日の韓国入国を実現させる会のメンバーらが今月12日、朝鮮籍在日同胞の入国と不当な待遇改善を要求するプラカードを掲げている//ハンギョレ新聞社

■植民地支配の遺産、「朝鮮籍」

 朝鮮籍は20世紀にわが民族が負った日帝強制占領期(植民地時代)の苦痛に満ちた遺産だ。朝鮮籍は、植民地解放後に日本政府が日本に残った朝鮮半島出身者に一律で付与した外国人登録上の表示だ。国籍というよりも、一種の地域的記号だ。日本政府は1945年の選挙法改定で在日同胞の参政権を剥奪したのに続き、1947年5月に公布した外国人登録令によって、在日同胞を外国人として登録させ、便宜上「朝鮮人」という意味で朝鮮籍を表記した。これは南北政府樹立(1948年8月15日・9月9日)以前のことであり、当時の在日たちはみな朝鮮籍に登録された。したがって、一部で誤解するように「朝鮮籍=北朝鮮国籍」を意味するものではない。

 さらに、日本政府は第2次世界大戦の連合国と締結し、1952年4月に発効されたサンフランシスコ講和条約によって、在日同胞の国籍を一方的に剥奪して無国籍者にした。その後行われた1966年1月の日韓法的地位協定の締結で、「韓国」国籍者に限り協定永住権申請を受けつけ安定的な法的地位を与えたように見えるが、議論は続いた。朝鮮籍出身で在日問題を研究する聖公会大学東アジア研究所の趙慶喜(チョ・キョンヒ)HK教授は「韓国政府は事実上“朝鮮籍”を“北朝鮮国籍”とみなし、慣習的に国籍変更を要求してきた」とし、「朝鮮籍をめぐる問題は当事者だけの問題ではなく、日本の植民地支配と南北分断に規定された在日同胞の歴史的・現在的位置を示す進行形の問題」だと話した。

 共に民主党のカン・チャンイル議員室(済州市甲)が外交部を通じて確保した資料によると、2015年末基準で在日同胞のうち韓国国籍は約45万7700人、朝鮮籍は約3万3900人だ。

 朝鮮籍の在日同胞が韓国国籍を選択しない理由は様々だ。北朝鮮と近い在日本朝鮮人総聯合会(総聯)に直接関連した人もいれば、親戚や家族のうち、かつて北朝鮮帰国事業によって渡り、北朝鮮に親戚がいるという理由で朝鮮籍を維持する同胞もいる。朝鮮総聯とは関係なく、統一された祖国の国民になりたいという理由で朝鮮籍を維持する場合もある。在日3世の世代にもなると、信念よりも自尊心の問題になることもある。金泰植研究員は「(韓国国籍を選ぶ時)心の葛藤が多かった。朝鮮籍を変更せず韓国に来られない友達にすまない気持ちが大きかった」とし、「父は今も朝鮮籍だ。思想の問題ではなく、ただ変えたくないのだ。自尊心の問題のようだ」と話した。民族問題研究所の金英丸(キム・ヨンファン)対外協力チーム長は「南も北も植民地以前の自分の祖国だという性向もあり、北朝鮮に家族がいる場合は韓国国籍に変えるとその方たちと連絡が途絶えることになるという現実的な理由がある。政治的な信念を持っていたり、変えたくなくて変えない場合もある」と話した。

■保守政権以降、閉ざされた故郷への道

 朝鮮籍の在日同胞が韓国に入国するには、政府が発行した旅行証明書を持たなければならない。南北交流協力に関する法律第10条(外国に居住する同胞の出入保障)は「外国国籍を保有せず、大韓民国の旅券を所持しない外国居住同胞が南韓(韓国)を往来するためには、旅券法第14条第1項による旅行証明書を所持しなければならない」とされている。韓国国籍を持たない在外同胞の入国を保障する趣旨の制度であるが、朝鮮籍の在日同胞には入国を何度も遮るネックとなった。

 実際に朝鮮籍の在日同胞の旅行証明書申請と発給件数は、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政権を経て、急激に減っている。韓国政府が朝鮮籍の在日同胞を北朝鮮国籍者扱いし、入国を拒否する事例が増えると、初めから韓国訪問をあきらめる傾向もはっきりした。カン・チャンイル議員室が昨年外交部から受け取った国政監査資料によると、盧武鉉政権と李明博・朴槿恵政権の朝鮮籍在日同胞の旅行証明書申請・発給件数には、明確な差がある。盧武鉉政権時代の2005年には3329件の申請に3358件が発給され、100.8%(2004年に申請し2005年に発給された件数を含む)の発給率を示し、李明博政権初年度の2008年までは2033件の申請に2030件が発給され、99.8%の発給率を示した。申請さえすればほぼ全て発給された。だが、李明博政権が盧武鉉政権の政策を本格的に覆し始めた2009年には、申請件数1497件のうち発給件数は1218件にとどまった。2010年には申請件数が401件で、前年度に比べて4分の1近く減り、発給件数も176件(43.8%)と大幅に減った。

 このように保守政権の登場で朝鮮籍の在日同胞の旅行証明書の発給が非常に困難になると、2011年以降は申請件数自体が年間100件以下に減少し、発給率は半分に及ばなかった。特に朴槿恵政権時代の昨年の場合、8月までで26件の申請に9件だけが発給され、これまでで最も低い34.6%の発給率を記録した。李明博・朴槿恵政権の9年間、朝鮮籍の在日同胞の自由な韓国入国が事実上閉ざされていたと言える。

 旅行証明書の発行過程で韓国国籍取得を強要したり、高圧的な面接をするなど、人権侵害の事例も少なくない。ある在日同胞は「領事館でパスポートの申請の時、国歌(愛国歌)の強要、誓約書の強要などを経験する。自分の国、自分の故郷に行くことがどれほど難しいことか」と話した。

朝鮮籍在日の韓国入国を実現させる会が今月12日、ソウル世宗路公園の光化門1番街・国民引継ぎ委員会の前で朝鮮籍の在日同胞たちの自由往来を要求する記者会見を行っている//ハンギョレ新聞社

 KIN地球村同胞連帯のチェ・サング事務局長は「入国拒否の事例が増え、朝鮮籍の在日同胞たちが次第に申請すらしないようになった。どうせ行けいないからと自暴自棄し、(申請を)しない場合もある」と話した。趙慶喜教授も「旅行証明書の拒否に伴う説明や根拠がないなど、基準自体が曖昧であり、在日の歴史的状況を考慮しないまま韓国内部よりもっと強い過剰な安保論理が適用されている」と指摘した。金英丸チーム長は「日本国籍を取得した在日同胞たちは自由に行き来できるが、皮肉にも朝鮮籍の在日同胞は10年近く韓国に来られない現実が残念だ」と話した。「朝鮮学校と共にする人びとモンダンヨンピル」のキム・ミョンジュン事務総長は「“朝鮮”という記号が今になって在日同胞の心を痛める深刻な問題に浮上している。在日同胞のうち高齢の方が多いが、故郷に来たくても来られない」と話した。

■対応に乗り出した市民社会

 12日、国民引継ぎ委員会に政策提案書を出した「朝鮮籍在日の韓国入国を実現させる会」は、昨年7月の朝鮮籍の在日同胞の鄭栄桓教授の入国拒否をきっかけに、民主社会のための弁護士会(民弁)公益人権弁論センター、民族問題研究所、朝鮮学校と共にする人びとモンダンヨンピル、KIN地球村同胞連帯、徐勝(ソ・スン)元立命館大学教授、チャン・ワニク弁護士など、団体と個人が参加して結成された。同会がこの日提出した政策提案には、外国に居住する同胞の旅行証明書発給審査の緩和と有効期間の延長申請を可能とする旅券法改正▽在外同胞の対象から除外された外国居住同胞を含めるよう、在外同胞の出入国と法的地位に関する法律(在外同胞法)改正▽旅行証明書申請の過程での人権侵害を防ぐための外交部の行政指針づくりなどが書かれた。

 民弁公益人権弁論センターのソン・サンギョ所長は「外交部が自分の裁量を政治的に悪用し、入国審査過程で愛国歌や誓約書の強要、または侮辱的な質問を投げかける事例が報告されている。これは法的に許されない違法行為だ」と指摘した。ソン所長は「不当な理由で旅行証明書の発給が拒否され、韓国内に入れない同胞たちが多い。外交部がこのような問題を深く認識するなら、立法の前にでも前向きに一日でも早く人権親和的な行政指針を作り、解決しなければならない」とし、「旅行証明書発行や旅券審査の過程で生じる人権侵害問題について、情報公開請求などさまざまな方法で実態を調査する」と話した。

文・写真/ホ・ホジュン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/area/803201.html 韓国語原文入力:2017-07-17 22:24
訳M.C(5201字)

関連記事