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秘密ラインや政治権力の餌食になった文化界 …「人事制度改革至急」

登録:2016-12-26 20:56 修正:2016-12-27 06:11
「文化壟断」の芽を摘もう (上) 虚弱な人事システムから変えよ
先月4日午前、ソウル光化門広場で「私たち全員がブラックリストの芸術家だ。芸術行動委員会」の文化芸術家たちが朴槿惠大統領の退陣要求時局宣言を行なっている=キム・ボンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

 チェ・スンシル-チャ・ウンテク国政壟断事態の主舞台となった文化芸術界は、深い虚脱感に陥っている。彼らの専横の片棒を担いだ附逆者の処分に劣らず、崩壊した公共文化機関の人事・行政体系及び、ブラックリストの波紋で打撃を受けた芸術家たちの支援制度などに対する根本的な処方が急がれるという声が高い。文化界の領域別に国政壟断の汚点を洗い流し自生性を回復するための代案と現場の声を盛り込んで、今後3回にわたって<100℃>の紙面に連続企画で掲載する。

 チェ・スンシル氏と側近チャ・ウンテク氏はなぜ文化界を狙って利権狩りをしたのだろうか。文化芸術界の専門家が共通して指摘する要因がある。文化体育観光部をはじめ文化界の公共領域に一貫した政策的基調や人事哲学がなく、自主的に運営されるシステムが脆弱で政治的外圧に全的に振り回されざるを得ないという点を、彼らが見抜いていたのだろうという分析だ。

 これまでの政府の文化政策は、政治権力が替わる度に朝令暮改式対応が繰り返されてきた。前任の政府による文化行政の基本体系と方向を全て伏せておいて新たに始めるのが常だった。進歩か保守かの色分けという指摘もなくはなかったが、支援はするが干渉はしないという原則を明確に掲げていた金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の文化芸術政策を、李明博(イ・ミョンバク)政権は傘下機関の長を間引きする人事虐殺によって破壊した。そして朴槿惠(パク・クネ)政権では原則と中心が褪せてしまった公共文化領域にチェ・スンシル-チャ・ウンテク一派の私益集団が踏み込んできて、文化体育観光部を宿主に専横を事として文化界を焦土化する惨劇を引き起こした。

 私有化された権力が介入できないように文化機関の人事システムの改革が何より急がれると文化界は声を高めている。崔(チェ)-車(チャ)ラインによる文化界壟断は、文化政策の哲学的基調を踏まえて政治的圧迫にも対抗できる専門家人事の原則が徹底的に崩れたところから来ているという指摘だ。チャ・ウンテク氏が大学院の恩師であるキム・ジョンドク弘益大教授を文化体育観光部長官候補者として、また親戚であるキム・サンユル淑明女子大教授を大統領府教育文化首席としてチェ・スンシル氏に薦挙した後、そのまま長官任命にまでつながったのが端的な事例だ。キム前長官が国会聴聞会を通過したとは言うものの、文化界では門外漢に他ならない二人の文化的素養に対する検証作業は皆無に近かったと言っても過言ではない。

 チョ・ユンソン文化体育観光部長官とチョン・グァンジュ1次官が作成を主導したという疑惑提起のあったブラックリスト作成と関連して、文化体育観光部内部で大統領府が業務に消極的な次官と局長室長クラスを次々人事措置したという暴露も、そんな実態を端的に見せてくれる。そのうえ大統領府側は2014年8月キム・ジョンドク長官の就任直後に文化体育観光部1級官僚 6人に対する狙い撃ち人事を主導して、チェ氏の専横を可能にする基盤を作り、また、朴槿惠大統領が行って見たいと言ったフランス装飾美術展の推進に反対したという理由で今年4月、キム・ヨンナ国立中央博物館長をいきなり更迭し問題になった。キム前長官の在任期間中、人事の相当数が陰の実力者の意中によって恣意的になされて混乱がもたらされた。大統領府など政治権力が文化体育観光部などを、いつでも落下傘を投じることのできる部処として軽視してきたのには、機関公務員の専門性が非常に劣っているという盲点が作用している。

 文化体育観光部のある関係者は「大部分の幹部級官僚が国外留学によりスペックを積んで大統領府の目に留まりやすい誇示性行事事業だけに重点を置くような雰囲気の中で、現場の作家や企画者と懸案を共有して意見を伝達しようとする人がいるだろうか」と指摘した。 こうした偏向は現場の芸術家や企画者も大部分が認める現象だ。国立中央博物館のある前職関係者は「文化体育観光部の公務員を傘下機関の現場に持続的に配置して、現場の芸術家との交流を活性化させるべきだ。人事評価を文化体育観光部本部でするのではなく現場の文化機関長に任せて芸術界とのちゃんとした疎通が成り立つようにしなければならない」と力説した。

振付師のチョン・ヨンドゥ氏(左)が10月29日から英国ロンドンの韓国文化院前で、ヨン・ホソン文化院長が去年国立国楽院で起きた芸術検閲事態の責任を取ることを求めるデモをしている//ハンギョレ新聞社

■世間のうわさばかり生む公募、人選過程大手術せねば

 チャ・ウンテク-キム・ジョンドクの人脈による人事での強者の横暴と利権事業に、美術界は付添い人のように引っ張り回された。チェ・スンシル氏一派が文化界掌握を本格化した後 2014光州ビエンナーレ特別展出品予定だったホン・ソンダム作家の朴槿惠大統領風刺図である『セウォルオウォル』(セウォル5月)の展示が不許可になって作家は出品撤回宣言を行ない光州を去った。キム・ジョンドク前長官の人脈は光州国立アジア文化殿堂のイ・ヨンチョル監督を追い出して事業を掌握した後、今年巨額がかかっていた平昌オリンピック文化事業に移って要職を独占した。

 崔-車ラインの国政壟断が本格的に知られるようになってから、美術界では光州アジア文化殿堂のイ・ヨンチョル監督解任を主導したあと平昌オリンピックの利権を占めたキム・ジョンドク人脈の企画者や評論家が批判の対象に上げられ、また、来年のヴェネチアビエンナーレ出品作家と企画者の人選などにもチャ・ウンテク-キム・ジョンドクラインとの関連説が噂されるようになった。当事者が潔白を主張し附逆の確証的端緒もつかめない状況ではあるが、各種の人選過程が透明でなかったという批判は後を絶たない。

 美術界専門家は何よりも、公共美術機関の長や国内外大型美術プロジェクトの出品作家・企画者の選定過程における形ばかりの公募制度を廃止すべきだと注文する。政権の性向によって芸術家や企画者が列を成し立地が変わる状況で、公募は事実上、政権の実力者の趣向に合わせた人士選定を公式化する役割をするだけで人材は志願しないという様相を生むだけだということだ。公募審査過程に文化体育観光部の幹部が当然職として陪席し、審査委員を圧迫する慣行も変わらなければならないという声が高い。美術史家チョ・イヨル氏は「公募制の代わりに任命制や推薦制に替えて人事に対する責任を明確に付与すべきだ」と言う。評論家バク・ヨンテク氏は「機関長人選の透明性と公正性が生命なのだから、関連公務員や財団職員は一切審査に参加できないように変えるべきだ」と強調した。

■ 検閲に対抗した史上最大の抵抗

 検閲と抵抗は2016年の公演芸術界を要約する言葉だ。去年9月、韓国文化芸術委員会の「文化芸術家検閲」が明るみに出て演劇人1000人余りが「検閲反対」に署名した。政府は知らぬことと言い逃れしたが、演劇人たちは今年 6~10月の5カ月間に22の作品を110回リレー公演して政府に対抗した。「権利章典2016-検閲却下」(検閲却下)というタイトルのこのリレー公演は、韓国演劇史上類例のない抵抗の舞台となった。

 「検閲却下」の公演の終幕となる10月、「ブラックリストの存在」が文化芸術委の議事録を通して明らかになった。次いで文化体育観光部のチョ・ユンソン長官が大統領府政務首席秘書官として在職していた当時、政務首席室が「文化芸術人ブラックリスト」の作成と伝達を主導したという複数の文化体育観光部前職・現職当局者の証言も先月初めに提起された。

 ブラックリストの存在が明らかになる中で、文化芸術人の抵抗は組織的に変化した。11月4日、文化芸術人はソウル光化門広場で「私たち全員がブラックリストの芸術家だ」と題する時局宣言を行なった。彼らは時局宣言文で「芸術検閲、ブラックリスト、文化行政破壊の実体は朴槿惠大統領だ」として朴大統領の退陣と責任者処罰を要求した。これまで社会問題に沈黙していたクラシック音楽家や舞踊家まで参加するなど時局宣言が相次いでなされ、文化連帯・大学路Xフォーラムなど文化芸術団体はこの12日、職権乱用及び業務妨害罪の疑いでキム・ギチュン元大統領秘書室長やチョ・ユンソン長官などを「パク・ヨンス特別検察官」に告発した。

■ ブラックリスト、システムで阻まねば

 政府機関のブラックリスト作成と検閲が組織的になされる中で、どうしてこれをシステム的に防ぐことができなかったのかという疑問も残った。政府が特定の文化芸術人を支援対象から排除するように要求しても、文化芸術委で牽制するシステムが作動すれば「ブラックリスト」が足を踏み入れることはできないはずだという判断からだ。これと関連して最近文化界内外では政府の介入を遮断する方法・制度的代案模索が活発になっている。この機会に文化芸術機関長の選出方式を変えるべきだという声も出ている。

 国民の党の安哲秀(アン・チョルス)議員は14日、文化芸術機関の機関長選出方式を変え、要望事項のための窓口を開設して自律性を強化するようにする内容の公共機関運営に関する法律改正案を代表発議した。韓国文化芸術委員会と映画振興委員会など文化芸術分野の準政府機関の長の選出を、現行の文化体育観光部長官による任命から理事の中で互選する方式に変える内容が骨子だ。また当該機関の要望事項に対する調査、是正または監査要求などの業務を独立的に遂行する「オンブズマン委員会」を設置するようにしている。

 芸術家自らの反省も要求されるという指摘もある。国立国楽院検閲事態に対抗して闘ってきた振付師のチョン・ヨンドゥ氏は「創造経済を掲げた文化予算の横領」に対して意味深長な指摘をした。「税金を個人の利益のために使ったならば、法の審判を受けなければならない。しかしこの部分について、多くの芸術家が自分自身と向き合って考えてみる必要がある。進歩と保守、純粋と大衆芸術といった枠を離れて、支援金や経済的利益を追った瞬間、自分でも知らないうちに関わり合うことになり得る。作業が充分準備できていないとか、相応しくないプロジェクトであれば、名前を広く知らせることができ多額の国家支援を受けることができるとしても、拒否できる自尊心が必要だ」。

ノ・ヒョンソク、ソン・ジュンヒョン記者  (お問い合わせ japan@hani.co.kr)

韓国語原文入力:2016-12-18 14:12

https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/775070.html 訳A.K  

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