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ブラックリスト作った韓国政府、ハン・ガンの小説も“思想検証”の痕跡

登録:2016-11-15 23:40 修正:2016-11-16 09:04
文化体育観光部、2013~16年の世宗図書支援審査の際 
「5・18、北朝鮮など扱った本の多くが脱落」の証言 
出版文化振興院「出版社の案配のレベルで調整」と釈明
小説家ハン・ガン氏=資料写真//ハンギョレ新聞社

 文化体育観光部が主催し韓国出版文化産業振興院(振興院)が主管する世宗図書(旧文化部優秀図書)の選定・普及事業審査で、5・18(光州民主化運動)を扱った作家ハン・ガンの『少年が来る』など、近現代史の重要な事件を扱った図書が多数排除されていたことが判明した。ハン・ガンは今年、小説『菜食主義者』で英国の世界的文学賞である「マン・ブッカー・インターナショナル賞」を受賞している。また、他の分野の審査過程でも当該図書の「思想的偏向性」を問題視するなど、政府が批判の声を抑えつけて文化界を統制するために「思想検証」をしてきた痕跡が確認されている。

ハン・ガン著『少年が来る』//ハンギョレ新聞社
2014年、世宗図書審査総評の一部。共に民主党のパク・キョンミ議員室提供//ハンギョレ新聞社

 国会教育文化体育観光委員会所属のパク・キョンミ議員(共に民主党)が振興院から受け取った2013~16年の世宗図書の関連資料によると、2014年の世宗図書文学分野3次審査まで残った小説132冊のうち、40冊が最後の3次審査で脱落した。3次審査で除外された作品は『少年が来る』(ハン・ガン、創批)、『次男たちの世界史』(イ・キホ、民音社)、『ライオンクラブ残酷史』(イ・シベク、実践文学社)、『高く青い梯子』(コン・ジヨン、ハンギョレ出版)などだ。『少年が… 』は、光州民主化運動当時、戒厳軍に立ち向かって闘った中学生のドンホを中心に韓国近現代史の悲劇的な断面を描いている。『ライオンクラブ…』は1968年の「キム・シンジョ事件」(北朝鮮武装ゲリラ奇襲事件)で言語障害を負った少年の物語が含まれている。『次男たちの…』は1980年代初め、意図せず釜山の米国文化院放火事件に巻き込まれ軍事政権に指名手配された男が自分の無罪を証明するために悪戦苦闘する内容だ。『高く青い…』は朝鮮戦争と興南埠頭爆撃が重要なモチーフだ。イ・ウェス、ハ・ソンラン、チョン・ギョンリン、ペク・ミンソクなど、有名作家の小説もいくつかが最後の審査で排除された。

2015年、世宗図書審査総評の一部。共に民主党のパク・キョンミ議員室提供//ハンギョレ新聞社

 これに関連し、振興院のミン・キョンミ出版産業振興本部長は「『少年が来る』は25冊まで選定するよう決めた出版社の案配で調整(除外)しただけであり、内容上の問題ではない」と話した。しかし、当時振興院に勤めていたある関係者は「5・18、北朝鮮、開城(ケソン)工業団地、マルクス、政治家などのキーワードが含まれる本の多くが審査で脱落した」とし、「特にハン・ガンの『少年が来る』は、本に線を引きながら問題になるような内容を検査し、事実上事前検閲が行われたと見られる」と話した。実際『少年が来る』の選定において、作品性を高く評価する審査委員と振興院の立場が分かれたと知られている。

イ・キホ著『次男たちの世界史』//ハンギョレ新聞社

 文学だけでなく、学術、教養分野でも検閲の痕跡が発見された。振興院が提出した資料によると、一部の審査委員らが手記で残した審査総評で、「図書の思想的偏向性について検討」(2014年)、「偏った見方の作品などを調整」(2014年)、「多少政治的な性向の図書を除外」(2015年)したという内容が書かれている。世宗図書審査委員会の共通審査基準は、企画の創意性と芸術性▽人文学などの知識情報化時代に応える図書となっている。図書の思想的偏向性はそもそも基準に含まれていない。ミン本部長は「図書の思想的偏向性を検討したなら、審査委員の所信に従ったものであろう」と釈明した。

イ・シベク著『ライオンクラブ残酷史』//ハンギョレ新聞社

 しかし、2014~15年は大統領府が主導した文化芸術界のブラックリストと図書理念の議論が激しく沸き起こった時期だ。2014年下半期から大統領府の政務首席室から集中的に文体部にブラックリストが下ろされ、同年行われた2015年優秀文芸誌発刊支援事業から、文化芸術界のブラックリストがすでに作動していたという証言が出た。(ハンギョレ11月8日付1・6面、11日付13面)2015年1月には文体部が「特定イデオロギーに偏らない純粋な文学作品」と「国家競争力強化に貢献」する作品を世宗図書選定基準としたところ、作家会議などから反発を受けこれを撤回したことがある。

コン・ジヨン著『高く青い梯子』//ハンギョレ新聞社

 2015年には「セウォル号」に関連する作品が数多く世宗図書審査から脱落したという証言も出ている。『天使たちは隣に住んでいる』(チョン・ヘシン、チン・ウンヨン、創批)、『社会的霊性』(キム・ジンホ他、玄岩社)、『金曜日には帰っておいで』(416セウォル号惨事記録委員会作家記録団編、創批)、『セウォル号を記録する』(オ・ジュンホ、未知ブックス)、『目がくらんだ者たちの国家』(キム・エラン他・文学トンネ)などだ。『目がくらんだ者たちの国家』を出版した文学トンネと『金曜日には帰っておいで』を出版した創批に不利益を与えたのではとも推測されている。2015年、創批と文学トンネの本が世宗図書に選定された割合は、前年度の5分の1にとどまる5~6冊に過ぎなかった。しかし振興院側は「セウォル号を扱った本を除外したことは絶対にない」とし、「盗作問題や買い占めなどの問題が浮上した出版社の本の選定に慎重を期してほしいという要求が出版界から出たため注意しただけ」と主張した。

 今年発表された学術部門の審査結果でも、近現代史や政治懸案に関連する本が排除される傾向は依然としてある。『ベトナム戦争の韓国社会史:忘れられた戦争、古い現在』、『チョ・マンシクと解放後の韓国政治』、『韓国のアナキズム:運動編』などが1次審査では選定されたが、最終的に除外された。社会科学分野の「政治/行政2」小分科では、1次審査を通過した10冊のうち9冊が脱落した。『パク・スンチョン研究』『他の人生は可能か』『開城工団:空間平和の企画と朝鮮半島型統一プロジェクト』『1972朝鮮半島と周辺4強国2014』などだ。

 世宗図書に選定されれば、振興院が1図書当たり1千万ウォン(約93万円)以内で購入し、公共図書館、全国の小・中・高校、社会福祉施設などに配布する。出版界の不況の中で、出版社としては敏感にならざるを得ない。「本と社会研究所」のペク・ウォングン代表は「国家が本を優秀図書として承認し、選定すること自体が後進的なシステムであり、良書の出版と普及を構造的に支援するためには予算を図書館の図書購入費の増額にシフトし、根本的に問題を解決する努力が必要だ」と話した。

イ・ユジン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/770417.html 韓国語原文入力:2016-11-15 19:04
訳M.C(2867字)

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