登録 : 2015.12.29 07:21 修正 : 2015.12.29 18:00

朴大統領の公約は守られず 
農民のための「社会保険」はない

ずさんな農漁業従事者の安全保険//ハンギョレ新聞社
 「そりゃあ危険だよ、危険だ … 」

 18日午後、全羅南道の羅州(ナジュ)で会った農民のソ・サンインさん(72、金川面)は 「今も耕運機を自分で運転しながら 4000坪(1万3223平米) 規模の稲作をしている」と言った。 彼は高齢なため、刈草機を持って畦で草を刈っていて転んだこともあるし、農薬散布も大変だ。 正規雇用労働者がほとんど労災補償保険対象者であるのと異なり、ソさんは労災対象ではない。 ソさんは農協生命保険が販売する農業人安全保険に入っている。「年に 3万ウォン(約3千円)程の保険料を支払っている」と話す。 農業人安全保険は、政府と自治体が農民保険料の一部を支援し農協生命保険が販売する保険商品だ。ソさんのような零細自営農は国家の社会保険体系から抜け落ちている。

2012年の大統領選候補者の時
「農漁業人災害保障法」を公約
来年施行を控えて覗いてみたら


見かけだけの「社会保障関連法」

任意加入方式のため
零細 • 高齢農民は恩恵受けられそうになく
腰や膝の疾患が大半なのに
関連診断名なし … 保障範囲狭小

■ 労災保険からなぜ農民だけが除外されたのか?

 労災保険は 500人以上の事業場から義務加入でスタートし、後に徐々に対象を拡大して現在は 1人以上の事業場まで義務加入が実施されている。 ただし農業、林業、漁業分野の労災保険は、法人や常時労働者が5人以上の場合にのみ適用される。 ソさんのような 5人未満の自営農は労災保障を受けられない。 1964年から実施された労災保険は誰もが加入しなければならない強制保険としてスタートしたが、零細自営農は社会福祉網から抜け落ちていた。

 2014年の統計庁農林漁業調査統計を見れば、全農家は112万1千世帯、275万2千人。 このうち 1ヘクタール(約3000坪) 未満の零細自営農は約134万人だ。 雇用労働部の統計によれば、去年、韓国の労災における労働者1万人当たりの死亡率は 0.58%だったが、農業災害の1万人当たりの死亡率は 3.43%で 5倍以上高い (表3参照)。

 ソさんのような零細自営農は、今は農業人安全保険に任意で加入することができる。 農協中央会で1989年に農協共済事業として始めた農業人災害共済事業がその始まりだ。 以後 2012年に農業人安全保険と名称が変わった。 農業人安全保険は保険商品に加入した農民だけ、農作業中にけがをすれば保障してくれる任意加入方式だ。 農林畜産食品部の資料によれば、2014年に農協生命保険が販売した農業人安全保険に77万9千人が加入しており、これは加入対象農民の 55.3%に当たる。 逆に言えば、44.8%の農民約63万人は最小限の共済保険にも加入していないという計算になる。

■ 任意加入により零細自営農は疎外

2014年の農業従事者の安全保険加入//ハンギョレ新聞社
 来年 1月7日から施行される 「農漁業人の安全保険及び安全災害予防に関する法律」(農漁業人安全保険法)は「社会保障関連法」だ。 民間保険事業者が政府と約定を締結し委託を受けて運営する。 労災保険を公共機関である勤労福祉公団が運営するのと違う。 農民が任意に加入し、加入すれば農民の保険料のうち50%を国家が支援するように規定されている(表参照)。 農林畜産食品部は 2013年に農業人安全災害保障制度を導入すると発表した後 2014年関連法を制定した。朴槿恵(パク・クネ)大統領が 2012年大統領選候補者の時、農業人災害保障法を作ると公約した経緯がある。 農林畜産食品部側は「民間保険で保障が受けられなかった農業労働による疾病まで含めたし、療養・休業・障害・遺族給与の外に、労災保険で保障する看病給与と職業リハビリ給与も追加された」と話す。

 しかし農漁業人安全保険の最大の問題点は、任意加入形態で運営されるということだ。 本人が保険料を出さず加入していない農民は、恩恵を受けられない。 政府が 2014年12月に農漁業人安全保険関連法を作る際に「社会保険」としてスタートしなかったからだ。 社会保険というのは、国家が疾病・老齢・失業など社会的危険から国民を保険方式で保障するために、保険に加入するよう「強制」する社会保障制度の一つだ。 労災補償保険、健康保険、年金保険、雇用保険制度の4大保険がその一種だ。 農漁業人安全保険は「見かけだけの社会保険に過ぎない」わけだ。

 任意加入方式で運営されれば、零細小農と高齢農民が恩恵を受けにくい。 特に全農業人の 39.1%(2014年)を占める 65歳以上の農民は、事故や疾病の危険により多くさらされているにもかかわらず、その恩恵を受けられない可能性が高い。 農薬中毒、農機具事故などの問題を提起してきた羅州農民薬局のイ・ヨニム代表は「経済協力開発機構(OECD) 加入国の60%に当たる18カ国で、社会保険形態により農業人が災害安全保険に当然加入をしている。韓国でも農業規模別、年令別など段階別に拡大する方式に変えるべきだ」と指摘した。 羅州農民薬局は1990年4月、全国で初めて農民が金を出し合ってオープンさせた「農民のための薬局」だ。 これについて農林畜産食品部は 「零細小農の加入拒否や予算確保などの問題のために、任意加入方式を採択した」と明らかにした。

■ ずさんな施行規則 • 農業安全保健センターの縮小

産業災害率と農業災害率の比較//ハンギョレ新聞社

 他の問題点として挙げられるのは、今年作られた農漁業安全保険法の施行令と施行規則がずさんで現実をまともに反映できていないという点である。

 農漁業人安全災害保険法(第8条)では、労災保険のように農漁業作業中に発生した災害を保険保護の対象にしているだけだ。 ところが施行規則では、農作業安全災害の具体的な認定基準を農協の農業人安全保険の水準と同じように列挙して規定している。 農作業中に発生した事故を 「食糧作物、野菜、山菜、果樹、樹実、花卉、特用・薬用作物、緑肥作物、飼料作物、バイオエネルギー作物、種子・苗木、桑の木、観賞用樹木の栽培作業中に発生した事故」等と列挙しているのだ。 全北大法学専門大学院のキム・ヨンムン教授は 「農漁業人安全災害保険法の施行令と施行規則を作る際に、農協の農業人安全保険の災害基準をそのまま借用し、結果的に施行規則に列挙されていない事故は保険の保護を受けることができなくなった」と述べた。

 例えば有害・危険要因による疾病は農薬管理法上の農薬に露出して発生した皮膚疾患及び中毒症状に限定され、事故性疾病も破傷風とレプトスピラ病に限定されている。 事故や疾病が農作業と関連があるかどうかより、列挙された病名に含まれているか否かによって保険の保護対象の可否が決まるわけだ。イ・チョルカプ朝鮮大教授(職業環境医学科)は 「民間保険会社の安全共済保険約款をそのまま引き写した結果、コレラと腸チフスなど農作業と全然連関性のない一部伝染病も補償の対象になった。施行令と施行規則 『農漁業作業安全災害の範囲』を見れば当該疾病と診断された場合に保険金を支給するという結果主義的方式を採択しているが、それは誤りだ」と指摘した。

 また関節痛と筋肉障害はあるが、農民が最も多く病むことになる腰と膝関連の診断名が明示されていない。 腕を上げて行なう果樹農作業や腰を曲げてやる田畑の農作業のように反復作業の多い農民は、腰と膝関連疾患から逃れられない。 最近の農村資源開発研究所の資料を見れば、農漁民の 46.5%が筋骨格係疾患を病んでいることが分かる。

 この法の最大の特徴は農民疾病予防だが、農林畜産食品部の行政はこれに逆行している。 農林畜産食品部は 2013年から農作業関連疾病予防などを研究する目的で全国8カ所に農業安全保健センターを設置したが、来年からかえって2カ所を縮小し6カ所だけを運営する事にした。 新政治民主連合のシン・ジョンフン議員(羅州和順)は 「農民の疾病予防のための健康関連研究がまともにできるのか、非常に懸念される」と言った。 農林畜産食品部も「センター指定機関を 3年単位で評価して再指定可否を決めるのだが、予算が削減された。しかし農業安全保健センターを増やしていくという方向自体が変更されたわけではない」としている。

光州/チョン・デハ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2015-12-23 09:15

http://www.hani.co.kr/arti/society/area/723110.html 訳A.K

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