11月4日に予定されている米ニューヨーク市長選挙を前に実施された民主党の市長候補を選ぶ予備選挙で、波乱が起きた。自らを「民主的社会主義者」だとする30代のムスリム移民のゾーラン・マムダニ氏が、ビル・クリントンらの支持を受けた大物、アンドリュー・クオモ氏を抑えて民主党の市長候補に選出されたのだ。
「マムダニ旋風」がどうして起こったかをめぐっては様々な報道があふれているが、特に韓国が見落としてはならないのは、その政策だ。マムダニ氏は「アフォーダブル(affordable)ニューヨーク」を作るというスローガンで複数の公約をひとつにまとめて提示する。「アフォーダブル」の意味は「耐えられる(=暮らしていける)」に最も近い。あることが自分のできる範囲のものであるとか、特定の品の価格が法外に高くはないという意味だ。だから経済学ではよく「価格が手ごろだ」というふうに訳される。
マムダニ氏は「暮らしていけるニューヨーク」を約束しつつ、特に二つの領域を強調する。一つは子育て、もう一つは住宅だ。今、韓国でもソウルのマンション価格の高騰がまたも熱い争点になっているが、ニューヨークも住居費が殺人的なことで有名な都市だ。マムダニ氏は住居費を、庶民が十分に「暮らしていける水準」にまで下げると公約する。
要となる政策手段は二つだ。第一は、ニューヨーク市と家賃安定化協定を結んだ民間賃貸住宅の家賃の凍結だ。家賃安定化プログラムに参加している住宅の家賃引き上げを規制する市長直属の家賃ガイドライン委員会は今年4月、最大7.75%までの引き上げを容認する決定を下した。マムダニ氏は家賃ガイドライン委員会を再編し、この決定を家賃の凍結に変更させると公約する。第二の手段は、新規住宅の20万戸供給だ。マムダニ氏は高価住宅を中心に建てる民間には任せず、市の財政を投入して適正価格の住宅を供給すると約束する。
マムダニ氏の「暮らしていける」住居政策は、韓国にとっても示唆するところが大きい。韓国の不動産市場の問題は、単にソウル江南(カンナム)の崩壊しそうなマンションが100億ウォン(約10億7000万円)以上で取り引きされるというあきれた現実にあるわけではない。このような荒唐無稽なことのために、自分の住んでいる場所の住宅価格まで跳ね上がり、そのために住宅を持たざる者にとっては世の中がよりいっそう地獄になるということこそ問題だ。このことに対する確実な処方の一つは、不動産市場を互いに隔離された複数の市場に分けることだ。投機市場の影響の遮断された、働く人々が勤労所得とその貯蓄だけで十分に「暮らしていける」住宅市場をよみがえらせるのだ。
そのためには、金融規制と租税政策を適切に組み合わせることによってひとまず全般的な市場の過熱を沈静化させるという前提の下、民間の家賃の規制、公共中心の住宅供給、様々なかたちの社会住宅の奨励などのあらゆる政策手段を動員しなければならない。特に首都圏のような開発飽和地域では、公共が新規住宅供給に取り組むだけでなく、既存の民間賃貸住宅を積極的に買収すべきだ。そのことによって公共住宅、社会住宅の物量を大幅に増やし、それに住居権の保障を中心に据えた民間賃貸規制を加えれば、地域ごとにスピードの差はあったとしても「暮らしていける」住宅市場が定着していくことだろう。
もちろん、このような住宅市場構造では、投機市場への参入を夢見る「高所得の土スプーン(貧しい家庭出身の人)」の熱望は満たされないだろう。しかし、彼らに「江南へのはしご」を保障するために、それよりはるかに多くの庶民を地獄に落とすような惨状だけは、終わりを迎えるだろう。これがマムダニ氏の言う「民主的社会主義」の住居原則だとすれば、いま韓国に必要なのは、まさにこのような意味での「社会主義」である。
チャン・ソクチュン|学び舎サンヒョンジェ企画委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )