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[ニュース分析]「希望退職」による非正規雇用の常時化こそ韓国社会の縮図

登録:2015-12-18 00:23 修正:2015-12-18 05:48
斗山インフラコア構造調整から見た実態と問題点 
希望なき希望退職が解雇を容易にさせる
17日、ソウル東大門区の斗山タワー前を労働者が通っている。斗山グループ系列会社である斗山インフラコアは、最近無理な人員削減で物議をかもしている=キム・ソングァン記者//ハンギョレ新聞社

 斗山グループ系列会社の斗山インフラコアが、就職難をかいくぐり入社した20代の正社員たちまでリストラ対象としたことに社会的批判が起きたのは、30代から50代までの人たちも同じ不安を抱えているからだ。1997年、国際通貨基金(IMF)の救済金融と2008年のグローバル金融危機を経て、リストラ、希望退職、非正規雇用という言葉は日常化され、労働権は後退を重ねてきた。斗山インフラコアのリストラは、労働権が無視されている“韓国社会の縮図”と言える。

簡単な解雇に悪用 
労働者同意得ているため規制されず 
大規模な整理解雇への回り道として利用される

■希望のない希望退職

 “希望退職”という言葉は、何よりも簡単な解雇の手段として悪用される可能性が高い。比較的厳しい制約を設けた整理解雇や懲戒解雇、一般解雇に比べ、希望退職は労働者の同意を得て行われているため、何の制度的な制約もない。結局、“強要された希望退職”は、大規模な整理解雇への迂回路になる。

 実際に斗山インフラコアでも会社側が希望退職を強く圧迫しているという証言が相次いでいる。匿名希望の従業員は、ハンギョレとの電話インタビューで「既に希望退職申請を2回呼びかけたため、これで整理解雇の要件となる。次に整理解雇となると慰労金ももらえないと圧迫して、希望退職の署名を取った部署があった」と話した。斗山インフラコアが希望退職を拒否する従業員に待機発令を出してから、「回顧録を書く」などの人権侵害的な教育を行っているのも、事実上、希望退職を圧迫するための手段と見られる。

 労務法人チャムトのユ・ソンギュ労務士は「希望退職は、労働者の同意を得て労働契約を解除する形を取っているため、解雇の手続きを迂回するための手段として活用されている。先に希望退職が施行された多数の企業で、業務を与えないか、社内いじめを煽るなど、希望退職を募る過程で強制的な手段が活用された」と指摘した。これに対し斗山インフラコア広報関係者は、「希望退職の申請は、労働者一人ひとりの自発的な意思に基づいて行われている。(各チーム長が)面談をする過程で、人によって受け止め方が違っていただけだ」と釈明した。

常時非正規雇用への懸念 
低成果者の一般的解雇指針」と相まって 
リストラ社員の代わりに期間制労働者を採用

■非正規雇用が日常化する可能性も

 このような希望退職の圧迫は、朴槿恵(パク・クネ)政権が進めている「低成果者一般解雇指針」と共に“非正規雇用の常時化”につながる可能性が高い。まず、希望退職を強く圧迫した後、これを耐え抜いた者たちを低成果者として解雇する「2段階非正規雇用化」として悪用され兼ねないということだ。

 キム・ジョンジン韓国労働社会研究所研究委員は、「企業が低成果者一般解雇という武器まで手にしてしまうと、通常億単位に達する慰労金を提示する希望退職の誘惑は、より強くなる。明確な要件もない希望退職が常用化されると、常時的なリストラが実施されることになり、これは結局、非正規雇用の日常化につながるだろう」と指摘した。

 実際に斗山インフラコアには正社員の希望退職者が期間制労働者として再雇用された事例がある。斗山インフラコアは経営難を理由に、今年2月と9月事務職労働者を勧告退職させた。さらに 11月には生産職労働者460人を追い出した。このような大規模な人員削減で、現場に人手が不足すると、今年11月、斗山インフラコアはすでに退社させた現場労働者のうち約170人と月単位の期間制勤労契約を締結したことが分かった。ソン・ウォンヨン民主労総金属労組斗山インフラコア支会長は「誰が見ても人手が足りないレベルまで人員を削減したかと思うと、その場に従来の正社員を、月単位の期間制労働者として補充した。希望退職とリストラの目的がどこにあるかを示す端的な事例だ」と指摘した。

制度的保護に困難 
合意の形...法・労働組合の保護が難しく 
「労働人権・条件の問題」との指摘多い

■制度的な保護は困難

 希望退職でこうした副作用が出ているにもかかわらず、現実にこれを制限する制度的装置は事実上ない。希望退職が会社と労働者という当事者間の合意として捉えられているからだ。労働法の専門家であるチェ・ウンベ弁護士は「裁判所は、ほとんど希望退職を当事者の合意による雇用契約の解約として捉えている。事実上解雇であることが明らかな場合を除けば、希望退職に署名した当事者が争う余地はない」と述べた。

 労働組合があっても希望退職については、問題を提起するのが難しい。希望者に限って退職申請を募っている上、慰労金など経済的補償を伴う場合が多いため、労使交渉の対象にならないというのが専門家たちの見解だ。実際、斗山インフラコアには、民主労総金属労組所属支会と企業労組が複数あるが、組合側は希望退職について労使交渉を要求できなかった。キム・ジョンジン研究委員は、「希望退職は、当事者双方の問題ではなく、労働、人権と労働条件の問題だ。間接的なリストラを制限できる希望退職規制法案を設けるなど、制度的な補完が必要だ」と指摘した。

ノ・ヒョンウン、パク・ヒョンジョン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015-12-17 20:12

https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/722429.html 訳H.J

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