「朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の緊急措置発令は不法行為ではないため、国が被害者に賠償する必要がない」とする大法院(最高裁)判決に対し真っ向から反論する下級審判決が相次いでいる。大法院が過去に自ら出した判決さえ否定し、緊急措置の違憲性と違法性を否定したとして批判の声があがっている中、下級審の裁判官たちもこれは司法精神に反すると指摘したものと見られる。
「緊急措置への免罪符」をめぐる論議は、昨年10月に触発された。大法院2部(主審イ・サンフン大法官)が緊急措置9号の被害者の損害賠償事件で「当時は緊急措置9号違憲・無効と宣言されていなかったため、緊急措置による服役は国家機関の不法行為ではない。(拷問など)公務員の違法行為で有罪とされたことが証明されなければ、国の賠償責任を認められない」と明らかにした。この判決は、大法院が2013年、「緊急措置9号は、当時維新憲法に照らしても違憲・無効」だとした宣言を覆したものという評価を受けた。
この判決以降、下級審で賠償請求を棄却し始めた。ところが今年2月、光州(クァンジュ)地裁木浦(モクポ)支裁民事1部(裁判長イ・オクヒョン)は、この判決に対し事細かく反論した。裁判所は、「違憲性が重大で、明らかな緊急措置が発令され、それに伴う執行が行われた場合、個々の公務員の過失がなくても、それ自体が国家の不法行為となる」と明らかにした。続いて「こう解釈していなければ、国家は形式的法治主義の論理の下に重大な不法を犯しても、責任を回避できる。これは『国家の存在理由は国民の基本権の保障にある』という現代民主国家の原理に合致しない」と述べた。裁判所は、緊急措置9号による被害者遺族に国が2億ウォン(約2048万円)を賠償することを命じる判決を下した。
それから1カ月後、大法院は、より露骨に緊急措置を“擁護”する判決を出した。大法院3部(主審クォン・スンイル大法官)は、「緊急措置9号について事後的に違憲・無効が宣言されたとしても、維新憲法に基づく大統領の緊急措置権行使は、高度の政治性を帯びた国家行為だ。大統領は緊急措置権の行使に対して、政治的責任を負うだけで、法的義務を負うわけではない」と明らかにした。
すると、再びこれに反旗を翻す下級審の判決が出てきた。ソウル中央地裁民事11部(裁判長キム・ギヨン)は今月11日、この大法院判決に言及し、「憲法の文献に明らかに違反する緊急措置9号の発令は、大統領の憲法守護義務を違反したもので、故意ないし過失による違法行為に当たる」とした。続いて「発令行為は執行を当然予定しているため、緊急措置9号関連の捜査や判決、服役で受けた被害は、緊急措置の発令行為によるもの」だとし、刑務所服役中に、朴正煕大統領(当時)を批判して緊急措置9号によって処罰されたソン氏と家族に、1億ウォン(約1024万円)を賠償するように命じる判決を下した。
大法院が重ねて出した判例に対して、下級審が真っ向から反論し、これに従わないのは、非常に異例のことだ。このような判決は、結局高裁または大法院で破棄される可能性が高いが、それだけ一般の裁判官と大法官の間に大きな隔たりがあることを示している。大法院の判決が下級審で批判される理由は、賠償請求権を制限するために、国家暴力を擁護するところまで進んでしまったためと言える。法曹界のある高位関係者は「賠償規模の縮小も一面では妥当性があるので、基準を決めて適用すればよい。ところが、そのようにせず国の不法行為の責任がまったくないと宣言するのは、司法府がやってはいけないこと」だと指摘した。
民主社会のための弁護士会は16日、ソウル中央地裁判決に対する声明を出し、「緊急措置を『高度の政治行為』と擁護する大法院の論理は、同じ内容の緊急措置が発動されたら、また有罪判決を下すと豪語するようなものだ」とし「大法院の判決に従った下級審裁判所の省察と大法院の前向きな判決を期待する」と明らかにした。
韓国語原文入力:2015-09-16 20:00