本文に移動

[ルポ] 強い電磁波放つ京都経ヶ岬THAADレーダー基地

登録:2015-06-29 00:51 修正:2015-06-29 14:20
基地に近づくと嘔吐・めまい
今月13日、経ヶ岬に設置されている米軍のXバンドレーダー基地全景。レーダーは北朝鮮のミサイルの動きを捉えるため海岸側の北方に向かって設置されている。レーダーは濃い緑色の建物の裏側に設置されている=キル・ユンヒョン特派員//ハンギョレ新聞社

 「前に緑の建物に見えるでしょう?その向こう側にレーダーが設置されています」

 今月13日午前。米国の地上配備型迎撃システムである高高度防衛ミサイル(THAAD)の中核となるXバンド(X-band)レーダー(AN / TPY-2)が設置されている京都府京丹後市の航空自衛隊経ヶ岬基地周辺は、通行人もあまりなく閑散としていた。田舎町の静かな雰囲気と、その存在だけで朝鮮半島をめぐる東アジア情勢に重大な影響を及ぼすレーダー基地のどっしりとした存在感が重なって、何とも言えない妙な緊張感が漂っていた。現場で会った永井友昭「米軍基地建設を憂う宇川有志の会」(以下、有志の会)事務局長が基地周辺に張り巡らされた鉄条網に沿って歩きながら、内側の施設について説明し始めた。

 基地内の丘の上に位置した緑の建物の中にレーダーの主要装置である冷却器とコントローラーに見える装置が設置されており、その後ろでは「ウ〜ン」という不快な音を出している発電機が稼動している。少し離れた正門の方には、レーダーが確保した情報を他のミサイル防衛(MD)システムと共有するための、ゴルフボールの形をした情報送受信用アンテナも設置されていた。永井事務局長は「普段は発電機の騒音が大きく、住民が不便な生活を強いられているが、今日は点検中なのか、普段より音が小さい」と話した。私たち一行が写真を撮っているのを見て、黒いライフルを肩に担いだ警備員たちが近づいてきて警戒し始めた。

 住民の同意なしに7カ月で設置
 グアムに向う北朝鮮のミサイル探知用
 海側のレーダー、外からは見えず轟音のみ

日本に設置されたXバンドレーダー //ハンギョレ新聞社

 日本海に面している日本の静かな田舎町である経ヶ岬が、世界の注目を集め始めたのは、2年前の2013年2月に遡る。当時就任直後だった安倍晋三首相はオバマ大統領とワシントンで記者会見を開き、日本の航空自衛隊の経ヶ岬基地にXバンドレーダーを設置することに合意した。 2006年6月、青森県津軽市の車力陸上自衛隊基地に日本国内初のXバンドレーダーが設置されてから7年後のことだった。以来、2014年5月、レーダーを設置するための工事が始まり、10月には経ヶ岬基地にレーダーが搬入された。以後2カ月にわたる準備を終え、昨年12月、レーダーは本格的に稼動し始めた。鉄条網の内側では、米軍とレーダーの製造社である米軍需メーカー、レイセオンの従業員と見られる人たちが動いていた。

Xバンドレーダー 設置の際、確保しなければならない安全距離。 資料:日本防衛省、米国陸軍//ハンギョレ新聞社

 最近、韓国で起きているTHAAD問題とは様相が異なり、日本ではこのレーダーの設置をめぐる議論があまり起きなかった。米国がここにレーダーを設置した理由と目的が比較的に明確だったからだ。永井事務局長は「陸側からはよく見えないが、海側から見ると、レーダーが北に向かって設置されている。それから直線を引けば、レーダーが北朝鮮とロシアの沿海州地域を向いていることが確認できる」と述べた。日本に設置された2つのXバンドレーダーは、北朝鮮が米国側に向かって大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する場合、これを捉えて追跡するのに最適の場所に位置している。北朝鮮が米国のハワイに向け大陸間弾道ミサイルを発射すれば、弾頭は米軍の最初のXバンドレーダーが設置された、北海道と本州を分ける津軽海峡上空を通過することになる。北朝鮮がグアムを狙ってミサイルを発射すれば、本州と九州を隔てる関門海峡付近を通過することになり、経ヶ岬に設置された第2のレーダーで十分捕えられる。さらに、経ヶ岬円自衛隊の別のレーダー基地もあり、東側には2隻のイージス艦が配備されている日本の海上自衛隊の舞鶴基地もある。

米軍のレーダー基地の正門には立ち入り禁止を知らせる標識が設置されている。最近標識を無視して基地の中に入った日本の市民が現場で逮捕され、日本の警察に身柄を引き渡された=キル・ユンヒョン特派員//ハンギョレ新聞社

 日本政府「健康被害はない」とし
 30億円の補助金で自治体の口封じ
 3000キロメートルまで探知できるレーダーの強力な電磁波
 「徐々に現れる健康被害の証明は困難」
 3万4000坪の敷地に広々とした開豁地必要
 韓国に配備される場合、日本よりも苦情多い可能性も

 しかし、米軍のこのような戦略的な意図とは関係のない地域住民にとって、レーダーの設置は「寝耳に水」のような出来事だった。永井事務局長は「住民の意見集約も全く行われないまま、ここの人々は、2013年2月の新聞記事を通じてレーダー配備の事実を突き付けられた」と述べた。以降レーダーの設置に反対する住民は、「有志の会」などを組織して反対運動を展開したが、結局日米政府間の合意事項が覆ることはなかった。

 ここでレーダーが稼働されてから6カ月間、住民たちは大小の被害を訴えてきた。最大の懸念は、3000キロメートル以上の距離のミサイルまで探知できるXバンドレーダーが放つ強力な電磁波による健康・環境被害だ。他にも発電機から発生する低周波騒音による被害を訴えている人も多い。基地から300メートル離れた大輪町で会ったある住民は、「基地周辺に行くと、嘔吐とめまいを感じると訴える人々がいる。夜には多くの人々が発電機の騒音でよく眠れない」と話す。

今月13日、米軍基地近くの海水浴場から捉えたレーダー基地の様子。日本政府は、レーダー前方半径6キロを飛行禁止区域に設定した。東アジア情勢に波紋を呼んだレーダーの地政学的重要性とは関係なく、基地周辺は穏やかだった=キル・ユンヒョン特派員//ハンギョレ新聞社

 しかし、日本政府は、このレーダーが海に向かって電波を放っており、(レーダー後方に位置する)住民の健康被害は考えられない」と断言している。騒音に対しては発電機にマフラーと防音壁を設置するなど、軽減対策を実施しているため、大丈夫だと主張している。永井事務局長は「レーダーが放つ強力な電波などによる健康被害は、放射線のように長期にわたって少しずつ進むため、なかなか目立たず、健康被害との因果関係を証明するのも困難だ。政府は、今後も『影響がない』という言葉だけを繰り返すだろう」と話した。日本政府は、地方自治体の京丹後市に10年間で30億円に及ぶ米軍基地再編交付金を支給するなど、お金で住民の不満を抑えようとしている。

 THAADの核心となるXバンドレーダーが先に設置された日本で、地元の人々が経験しているこのような問題は、韓国にも多くの問題を投げかけている。海に向かってレーダーを設置して、住民の不便を少しながらも軽減した日本と違い、韓国で中国を直接刺激することなく、このレーダーを設置するためには、海に面した西はなく、陸地の北の方に向きを調整しなければならない。そうなれば、周辺住民は、日本よりもはるかに大きな不便と被害を被ることになり、その結果、少なからぬ社会的葛藤をもたらすものと予想される。

 実際、米陸軍の関連安全基準によると、Xバンドレーダーの設置のためには横281メートル、縦約94.5メートルの大きさの敷地(サッカー場4つの大きさ)が必要であり、その外郭11万2396平方メートル(3万4000坪)に安全確保のための鉄条網を張り巡らさなければならない。また、レーダー正面から左右それぞれ65度、上は90度に対応する、半径5.5キロメートルの開豁地を確保しなければならない。日本の防衛省が2013年4月に出した「TPY-2レーダーについて」という資料によると、レーダーと海の間に遮断物がなく▽飛行禁止区域を設けられ▽レーダーが放つ電磁波の影響を受ける電波塔や放送塔などがない、という理由で日本はこの地域を候補地に決めた。日本政府は、このレーダーが設置されてから、前方半径6キロメートル地域に飛行禁止区域を設けた。韓国がTHAADを導入することを決定してXバンドレーダーを設置した場合、レーダー前方地域の住民は健康と生活被害を被る可能性が高い。また、THAAD導入に必要な莫大な予算以外にも、この程度の大規模な土地の確保の過程で大規模なコストと行政力が費やされるものと思われる。

 永井事務局長と一緒に鉄条網を一周して基地の正門に到着した。その前には「許可なしに侵入すると処罰される」という警告文が貼られていた。「あそこの屋根が高い建物が本部だというのに、私たちは連絡先すら知りません。彼らは住民の意思なんて何とも思ってないですよ。韓国にこのレーダーが設置されたら、日本と同じことが発生するのではないでしょうか?」。この言葉を最後に、永井事務局長は苦々しくに口をつぐんだ。

経ヶ岬(京都)/キル・ユンヒョン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2015-06-28 20:31

https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/697870.html  訳H.J

関連記事