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[インタビュー] ああ、だからサムスンに労組が必要なんだな

登録:2015-06-27 16:53 修正:2015-06-27 20:52
キム・ヒョンギュ サムスンテックウィン企業労組共同委員長
8日、京畿道城南市板橋のサムスンテックウィン研究開発(R&D)センターで会ったサムスンテックウィン企業労組のキム・ヒョンギュ共同委員長 =タク・キヒョン先任記者//ハンギョレ新聞社

▽サムスンは昨年11月末、サムスンテックウィン・タレス・総合化学・トタルの系列会社4社を韓火グループに売却すると電撃的に発表した。 4社の職員は以後、労組と非常対策委員会を作り、サムスンの一方的な売却推進に反対し雇用の安定などを要求した。その最中に総合化学とトタルでは今年4月、職員1人当り4千万ウォンの慰労金を受け取る条件で韓国火薬との正式売却契約が締結された。 しかし最大規模のテックウィンの労組は慰労金より雇用安定と勤労条件の保障が優先だとして4月初めから70日を越えてストライキを続けている。

 8日午後、京畿道城南市板橋(ソンナムシ・パンギョ)のサムスンテックウィン研究開発(R&D)センター脇の大型駐車場。 一方の側に立てられた大型テントに頭を低くして入ってみると、童顔の一人の青年があいさつする。 サムスンテックウィン企業労組のキム・ヒョンギュ共同委員長(31)である。 赤銅色の顔にもじゃもじゃのヒゲといった労働運動家の姿を想像していたのだが、意外だった。 彼は大学でコンピュータ工学を専攻し、2012年テックウィンに入社した。 入社して3年経ったばかりだから、まだ社会の初年生なわけだ。 彼はほんの半年前までは、労組の嫌いなサムスンマンであった。 しかし今は、4月初めから続いているストライキを主導している。 その間に何があったのだろうか? (ハンギョレは6月18日に追加の電話インタビューを行い、1次インタビュー以後の状況を反映させた。)

労組が嫌いだったサムスンマンのスト主導

- 元々担当していた仕事は何か?

「閉回路テレビのソフトプログラム開発業務だ」

- 労組員は皆、韓国の代表企業サムスンで働いているという自負心が大きかっただろうに、パリッとした通勤服の代わりに労組の赤いチョッキが変な感じはしないか?

「去年12月、初めて労組を作った時は、組合員たちは会場に労働歌や民衆歌謡が鳴り響くこと自体に抵抗を感じていた。 一部はの人はそういう歌のために人々が集まりにくくなるからボリュームを下げろと言った。 労組のチョッキを着ることも同じだ。 しかし今はすべて昔の話だ。 みんな闘争のシュプレヒコールに慣れて、自然な感じで叫んでいる」

- 4月初め、ストで決裂した労使交渉が5月初めに再開された。 団体交渉に関連した49の優先交渉事項のうち、17の核心条項を選定したが、進展は?

「労使共同の雇用安定委員会の構成を要求した。しかし会社側は人事権および経営権の侵害だとして拒否している。 賃金ピーク制にも合意が見られない。 労組事務室提供、専従者認定などの論議はようやく協議が始まった」

- 意見接近できた事項はないか?

「福利厚生の水準を維持・改善する部分では一部進展がある」

- 今年2月に労使交渉が始まって5カ月目だ。 会社側の計画では、今月末には韓国火薬との売却契約がまとめなければならない。遅れすぎているのではないか?

「交渉の優先順位での意見の違いが大きかった。 会社側は慰労金提示だけを要求した。 組合側は雇用安定と勤労条件の保障が優先だ。 2月以降、20回以上交渉が行なわれたが、全く進展がないため4月初めに争議に入った。 その間に労組はだんだん強硬に変わった」

- 雇用安定・勤労条件の交渉と慰労金交渉とを同時に進めてはだめなのか?

「それで仕方なく、最近慰労金要求額を出した。 以後、他の事項についての協議が進行中だ」

- 総合化学とトタルの場合、職員1人当りの慰労金が4000~5800万ウォン水準と聞いている。 一方、テックウィン労組は2億4千万ウォンを提示しているが。

「金額は重要ではない。 交渉進展のきっかけを作るためのものだ」

- 他の会社との差が大き過ぎるのではないか?

「テックウィンはストライキをしたが、総合化学とトタルはストなしに終わった。 双方の慰労金が同じというわけにはいかないのではないか。 しかし強調したいことは、労組の主目的は雇用安定と勤労条件保障であって、金(慰労金)ではないという点だ」

- 慰労金提示以後、会社の態度に変化はあるか?

「ある程度はある。 以前はほとんど、いくら言っても聞こえないような状態だった。 今は売却契約完了の期限が切迫しており、総合化学とトタルの売却が事実上終了して、テックウィンの経営陣も圧迫を受けているるようだ」

- 交渉が長期化すれば会社にも打撃があるはずだが。

「多くの開発課題が遅延している。 すぐには売上に影響ないように見えるが、結局売上面の支障となっていくだろう」

- 韓国火薬も口頭では 5年間の雇用及び処遇保障を約束した。 もし 6月末の期限までにサムスンとの交渉が終らないとしたら?

「それ以前に交渉が終わって、新しく出発するのが望ましい。 交渉でもそういう意思を表明した。 しかし不幸にもそうならなかったら、韓国火薬と交渉を続けるしかなく、闘争の強度はもっと高まるだろう」

- 元々テックウィンに労組があったとしたら、状況が変わっただろうか?

「サムスンの創業者であるイ・ビョンチョル会長は人材第一主義を強調した。 会社側がよく考えて職員によくしてやれば労組は必要ないということだ。 実際サムスンは他所に比べて金銭的にも福利厚生的にも待遇が最高だと言われる。 テックウィンの職員もそれを信じて十数年間、休日もまともに休まずに夜遅くまで働いた。 しかしサムスンは何の前触れもなく突然に売却決定を下した。 一つの家族と信じて働いてきたのに裏切られた。 もし労組があったとしたら、今回のように会社が一方的に売却を推進することはできなかっただろう」

会社側が韓国火薬への売却を一方的に発表
SNSへの書き込み遮断、サムスン放送も切られ
社長は新たに出発しようと言うばかり
最低限の説明もなく裏切られたという思いが強い
1800人が企業労組を作りストライキ

以前はサムスンの無労組経営を支持
会社の言うことが正しいと思っていたが
今は赤いチョッキ着て闘争歌を歌い
労使共同の雇用安定委構成を要求
慰労金だけもらって終わらせはしない

「私たちが品物か? 慰労金でなだめるとは」

- 職員は事前に全く知らなかったのか?

「売却発表の前夜おそく、一部のマスコミで売却報道をしたが、まさかと思った。 朝出勤して見たら無政府状態だった。 会社のイントラネット網に売却の事実が公知されたが、職員の書き込みの掲示は遮断された。 代表取締役は遅まきながら釈明をするとして、新たな出発をしようと言うだけで、売却における職員の雇用安定や勤労条件保障のような最低限の説明すらなかった。 そして直ちにサムスン系列社が共通して見ているサムスン放送が切られた。 もうサムスン家族ではないというわけだ。 売却発表後にも、まともな説明を聞いたことがない。 キム・チョルギョ社長は『私も知らなかった。私も売られていく立場で何の力もない』と言うばかりだった」

- サムスンの一方的な売却決定で、職員たちの気持ちが深く傷つけられたことは充分に理解できる。 しかし企業が経営したくないとして保有株式を売るというのに、売却撤回を要求するのが現実的なのか?

「金属労組支部は売却撤回を主張するが、企業労組はそうではない。 売却撤回を掲げて争議をすれば不法になる」

(テックウィン労組は、板橋(パンギョ)のR&Dセンターの研究開発職社員を中心とする企業労組と昌原(チャンウォン)工場の生産職社員を中心とする金属労組支部に二元化されている。)

- サムスンの後継者に挙げられるイ・ジェヨン サムスン副会長は、売却と関連して選択と集中を強調している。 財閥の無分別なタコ足式事業多角化と比べると、肯定的に評価できるが。

「気分はよくないが、非難ばかりすべきことではないと思う。 それで売却反対ではなく、雇用安定と勤労条件の保障を主張している」

(サムスンはテックウィン・タレス・総合化学・トタルの系列会社4社を1兆9千億ウォンで韓国火薬に売却した。 電子と金融というサムスンが一番自信のある分野に集中するという意志だ。 韓国火薬としても、既存主力事業である石油化学と防衛産業事業の市場占有率上昇と競争力向上のシナジー効果を期待している。)

- 労組は李健煕(イ・ゴニ)会長が心臓マヒで倒れた状況で、イ・ジェヨン副会長が勝手に売却決定をしたと非難している。 イ会長が健在であったら違っただろうか?

「一部事業の売却はあり得る。 しかし会社全体を売る事はなかっただろう」

- テックウィンでは労使協議会を運用していたが、売却発表以後に労組を設立した。 労組と労使協議会の違いは?

「性格が全然違う。 労組は法で労働3権(団結・団体交渉・団体行動)を保障されている。 しかし労使協議会は協議案件を使用者が一方的に決めることができる。 また合意がなくても会社側が一方的に協議を終了することができる。 初め労使協議会を主軸に非常対策委員会を構成したが、結局労組を作った理由だ」

- サムスンマンは入社した時から労組教育を受けると聞いているが?

「初めの入社の時から受ける。 労組の良くない事例を強調して労組に対する否定的認識を注入する。 代表的なものとしてキリュン電子と双龍(サンヨン)自動車の事例がたくさん取り上げられる。 結局、無労組経営が労使双方に良いことだと強調する。 職員だけでなく家族たちにも注入する。その結果、職員は労組を暴力集団、運動圏だと考えている」

-キム委員長の個人的な考えはどうだったか?

「今回のことがある前は、会社の言うことが正しいと思っていた。 個人的にも労組が嫌いだった。 労組と言えば(ストライキばかりする)大企業労組の否定的イメージばかりを連想した。 多分労組をやれと言われたら会社をやめたと思う」

- それで今は?

「テックウィンが、労組というものは否定的なばかりではないということを見せてくれていると思う。 テックウィン労組は遵法と非暴力闘争を原則にしている。 争議行為をしていても、これまで会社から懲戒を受けた人はいない。 私たちが労組を作ったのは、それが正しいからだ。 大企業労組の集団利己主義とは違う。 労組員が個人の金をはたいて、時間を割いて、純粋に労組活動をする。 私たちの権利を資本が一方的に侵害するのを阻もうというのだ。 R&Dセンターで働く研究開発職は、望めば他の職場に移ることもできる。 しかし怒りと裏切られたという思いから、残って闘っている。 私たちは品物か?  慰労金でなだめようとするとは。 サムスンの未来戦略室は、私たちが(慰労金で)一儲けしようとしていると外部に宣伝している。 謝罪は全くせずに金で追い出すことばかり考えている。 勤労者はみんな心を傷つけられた」

- テックウィンの経営陣は労組設立以後、態度に変化があったか?

「相変らず労組を本当の交渉相手と認めていない。 過去の労使協議会時代の認識から脱することができずにいる。 無労組政策にしたがって労組の弊害ばかりを強調し、肯定的な機能を認識できない。 法に依拠してストの手続きが始まっているのに、交渉努力はせずに一方的に自分の側の主張だけで押し切ろうとする。 労組との交渉中にも職員と職員の家族に携帯メールや家庭通信文を数回送って、「労組のストで会社が困難な状況だ」とか 「家族が説得してほしい」と伝えた。 R&Dセンターの建物の玄関前に車を寄せる空いた場所がある。組合が集会場所に活用したら、300余の植木鉢を置いて全く使えないようにしてしまった」

- サムスンの他の系列会社の仲間たちは、テックウィンの労組員を理解しているか?

「 ただの他人事だと思っている。 グループ入社同期のモバイルコミュニティがあるが、テックウィン労組の話を持ち出せばコミュニティから出ていってしまう人もいる。 また私にどうして労組をやるのかと尋ねる同期もいる。 マスコミにテックウィンの記事が出たのを見て電話をかけてきたりするが、実際の内容にはあまり関心がない。 家でも恐れている。 サムスンを相手に争って結果がよくなかったら、他の企業に就業もできないのではないかと心配する」

企業労組は御用ではないかですって?

- サムスンで勤労者と会社の双方にプラスになる労組活動は不可能か?

「労使がお互いに協力すれば無労組よりずっと良いと考える。 勤労者だけでなく経営者の立場からも、労組をうまく利用すればシナジーを生み出すことができる。 テックウィン労組も会社と交渉が妥結すれば力を合わせるつもりだ。 会社の発展のための共存方案を探して、一緒に努力するつもりだ。 会社の勤労者も幹部も、思いは同じだ。 早く交渉を終わらせて新しく出発することを願っている」

- 売却発表以後、テックウィンには2つの労組が設立された。 一般的には力を合わせれば交渉力を大きくすることができるのに、ずっと別々に進むつもりか?

「結局は一つにならなければならない。 誤解は解かなければならない」

- 一部では企業労組が(会社によって操縦される)御用ではないかという指摘もあるが。

「金属支部のように売却に反対しないし、売却対象の4社の連帯の集まりにも参加しなかったからだろう。 企業労組が慰労金だけ受け取ってストを終わりにするだろうと見る視角もある。また、雇用安定と勤労条件改善、労組活動保障はなおざりになるだろうという話も聞こえてくる。 しかしすべて誤解だ。 今これだけのストを続けているのを見ても分からないか?」

- サムスンの4社売却発表以後、他の系列会社に対する追加事業改編の話がずっと聞こえている。 しかし他の系列会社で労組設立の話はないが?

「サムスンは長い間、無労組政策を固守して来た。 サムスンの職員は労組についてよく知らない。 労組に対する否定的認識が頭に刻み込まれていて、労組の必要性について考えないようだ。 今回総合化学とトタルの労組が何の成果もおさめることができずに売却が終わったことも、影響を及ぼしたようだ。 しかしテックウィン労組が成果を挙げれば、認識の変わる契機となると思う」

- 自分の会社ではテックウィンのような事態が起こる可能性はないと思っているのか?

「そうではないだろう。 しかし人間は自分の身に実際に振りかかって初めて、悟るようだ。 事が起こってからは労組を作るだろう。しかしそれでは遅い」

 ストをすれば賃金をもらえないか、あるいは減る。 家庭のある労組員の感じる負担は少なくないだろう。 しかし離脱者はほとんどいないそうだ。キム委員長は「組合員数が初期の1800人水準をそのまま維持している」と言う。 彼は未婚だ。 委員長をしていて結局結婚もできないのではないかと尋ねたら、「ストライキをしながらも恋愛はすべきだと思う」と言って笑った。

クァク・チョンス先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/696774.html 韓国語原文入力:2015-06-21 09:52
訳A.K(6573字)

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